ダブルアップ
皆賀幸
エンデルの森
第1話 魂のまま召喚されて
天空に淡い光球が二つ。
陽もまだ高く、その存在に気がつく人はいなかったであろう。
碧の光と、白の光が二つ。
碧の光は覚束ない遅々とした動き。白の光は見守るように付き添っている。
「ほらぁ、移動も、まともに出来ないじゃないか」
半ば呆れたように、白の光が声を掛けて来た。
「………」
「召喚されたからって、君は休息が十分ではないんだよ。こんな状態で召喚の儀に応じるなんて無謀だよ。失敗するに決まっている! ……って聞いているのかい?」
心配する白の光に対して、碧の光は、ぼんやりとする意識の中で答えた。
「聞いて……いるよ。必要とされているのなら行って役に立ちたいんだ」
「だぁ・かぁ・らぁ。さっきから何度言わせるのさ! 召喚は失敗するんだから引き返そうって言っているだろ!」
「………」
「あのね。十分に休息が取れていない君みたいな魂は、準備されている
「聞いて……るよ」
「つまり、
「ここまで来て、引き返そうなんて思わないよ。……召喚の儀がうまく行かなかったとしても、何かの役に立てると思うし」
「はあ? 召喚した方は、明確な意図があって呼んでいるんだから『何かの役に立てる』、じゃ困るんだよ」
「じゃあ、必ず役に……立ってみせるよ」
「はああっ! いったい、何の根拠があってそんな事が言えるのさ! こう言ったら何だけど、君の前世が『勇者』だと言うのであれば別だけど、違うからね。本当に。…実際のところ、何で、君が呼ばれたのかさえ、わからない。……戻ろうよ」
「……もど……らないよ。このまま進むよ」
(やっぱり、意識がはっきりしてない。……それにしても、なんて頑固なんだろ。まあ、確かに戻ったとしても、実際のところ、元の眠りにつくのも難しいんだよね)
気を取り直して、白の光は再度、優しく声をかけた。
「このまま、進んでもいい結果にはならないよ。やっぱり、戻ろう! 戻るよ! ほらっ」
「困っている人がいるんなら……役に立ちたいんだよ」
「はぁ。……もう、このままだと……僕は、リードとして、もうダメかもしれないよ」
白の光は、説得はもう無理だと思ったのか、暫く黙りこんでしまった。
(このままでは、召喚した方もされた方も、喜べない結果になる。そもそも、なぜ、休息期間が十分でない彼が選ばれたのだろう。)
考えても納得がいかない。
考えに、考えて…。
その時、気が付いた。
彼(碧の光)がいないことに。
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