サザンクロスが輝いて
秋乃光
前編
南の空にまあるい星が光る夜。
わたしたちの弟が生まれた。
家にとっては待望の男児。
長男坊。
初代ミカドの血を引くドラゴンの子孫で、クライデ大陸の王位継承権を持つ。
「なんてかわいらしい!」
お姉様はそう
されど、わたしも一族の端くれ。
シュガーモンキーのようだ、とは、この口が裂けても言いませんわ。
「お父様、この子の名前は?」
キレイな唇を両手で隠して、瞳を
「アザゼル、とした」
ふーん……。
アザゼル、アザゼルね。
覚えたわ。
「アザゼル……いいお名前……」
王族の男児は『悪魔』の名前を付ける、と決まっている。
お父様はキマリスで、おじさまはカミオとビレト。
ビレト様は、現在のミカド。
「いずれ、あなたはミカドになるのね」
お姉様は弟の名前を繰り返しつぶやいてから、そっと、赤ん坊の頭をなでた。
ビレト様に、息子はいない。
息子どころか、妻もいない。
だから、甥っ子のアザゼルが将来的にミカドになる可能性は、十二分にある。
近親者であればあるほど、継承権は高い。
「クレア」
お姉様に名前を呼ばれた。
アザゼルに向けられていたキラキラの赤い瞳が、こちらに向けられる。
「アザゼルは、わたしたちが面倒をみましょう」
「……はい?」
どうして、の言葉は飲み込んだ。
王族の子、特に男児には乳母がつくのが通例となっていた。
小学校にあがるまで、三交代制で、
だから、姉であるわたしたちに出る幕はない。
「何を言っておるのだ、ステラ。アザゼルには、優秀なベビーシッターのセリーナがつく」
お父様が呆れられていらっしゃる。
わたしもお父様と同意見でしてよ。
子育てはその道のプロに任せて、わたしたちはアザゼルの無事の成長を祈ろう?
「メインはセリーナさんにお任せします。ですが、完全に任せっきりにはしませんわ」
「お姉様?」
わたしが首を傾げているのを見て、お姉様は「だって、わたしたちの弟よ。家族として、面倒を見るのは当たり前」と説明した。
当たり前か?
わたしには、お姉様がただただ可愛い赤ん坊から離れたくないだけ、のように聞こえる。
実際にそうだった。
お姉様は、アザゼルにつきっきり。
アザゼルが泣けばすぐに駆けつけ、ミルクを与え、あやし、おむつを替える。
お姉様とわたしはひとつの大きなベッドで寝ているが、夜中にアザゼルの泣き声が聞こえたら、お姉様は起き上がって、アザゼルの様子を見に行ってしまう。
わたしはお姉様が横にいてくれないと一睡もできないから、お姉様が戻ってくるまで待っている。
戻ってきたら、手をつないで、眠るのだ。
「ねえ、クレア」
「なんでしょうか、お姉様」
「わたしたちのお部屋に、アザゼルのベッドを置かない?」
いやよ。
絶対にいや。
あんなのを置いてしまえば、お姉様がますます離れていってしまう気がした。
「ねえ、お姉様」
わたしは代わりに提案する。
いや、とは言わない。
「わたしとアザゼルだけで、お散歩に出かけてもいいかしら?」
「あら、ステキじゃない。気をつけて、いってらっしゃい」
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