エンド1:狂った恋愛感情
契約書に自分の名前を綴っている時も、不動産屋は心配そうに私を見ていた。
「本当に、いいんですか?」
「はい。そういうの、平気なので」
物件の契約が成立するのはお店にとって嬉しいことのはずなのに、全然嬉しそうに見えないのは、入居後すぐに解約されることを恐れているのか、それとも本当に私を心配してくれているのか。
築浅、駅徒歩5分、バス・トイレ別にもかかわらずこの部屋の家賃が相場の3割ほどである理由は、言うまでもない。
事故物件だからだ。
それも、半年前に住人が亡くなってから、まだ誰も住んだことがない。
だけどそれがむしろ私にとっては最高の条件だった。
だってここは、
好きな人が住んでいた部屋に住めるなんて、最高以外の何物でもないと思わない?
──と、
「……夢花は、聡真と付き合ってたわけじゃないんだよな?」
「そうだよ?」
それが関係あるの? とでも言いたげな表情に、なんと返答すべきか悩む。
「黒木ってさ」
「何?」
「幽霊とかそういうの、信じてる?」
クリームソーダをストローで吸いながらこちらを見るその瞳は、俺がどんな反応を見せるかへの興味であふれているようだ。
「……見えるかは別として、存在はしてるんじゃないかな」
「やっぱり?! 私もそう思うんだー!」
そうだよな。
じゃないと、片想い相手が生前住んでいた部屋に引越しなんて、ストーカーの中でも群を抜いて異質なことはしないだろう。
とは思いつつ、ここは本人の前なので慎重に言葉を選ぶ。それに、一応は引越しなのだ。形式的にでも祝ってやる必要はあるだろう。
「新生活、楽しいといいな」
持ってきていた紙袋をテーブルの上へ乗せると、夢花は「えっ、いいの?!」と瞳を輝かせた。
「わ、熊のぬいぐるみだ、ありがとう! 部屋に置いたら聡真も喜んでくれるかな」
どんなに頑張っても、二言目には聡真が出てくる夢花。
彼女の歪んだ恋愛感情に、俺が敵う日はきっと来ない。
─エンド1:狂った恋愛感情 終─
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