第33話 この街、まだまだやれますよ!

 いやっはっは、なんでこのことに気付かなかったのかな。

 魔法使いがいなければ育てればいい、なければ作る、これモノづくりの基本じゃないね。


「先生! 今日も宜しくお願いします!」


 探しに探した三十人の魔力保持者たち。

 全員が十代の女の子、みんな若くて可愛い。

 それに全員が土属性、生まれた場所の影響が強いのかもね。

 なんにしても、マンタクちゃん造りには最適ってこと。


「大人は一人もいないのね」

「ディアさん、おはようございます」


 この暑いのに、ディアさんって絶対に長袖なのよね。

 でもそれが出来る女って感じがして、また好きだけど。


「大人になると、魔法って覚えられないものなの?」

「覚えられなくはないと思いますけど、魔力が固まっちゃうんですよね」

「魔力が固まる?」


「はい、魔法を使うに辺り、体内にある魔力を溶かして放出する感じなんですけど、大人になるとそれが難しくなるんですよね。体の中から出ていかないって言うか。固まっちゃった大きいものを身体から無理に出そうとすると、裂けるイメージって、分かります?」


「なんか、とても汚いものを連想したわね」

「でも、大体そんな感じです」


 だから、例え魔力があったとしても、大人になってからの習得は難しかったりもする。

 ディアさん、魔法使いたかったのかな? でも、ディアさんも大人…………あれ?


「ディアさん、ちょっと手を握ってもいいですか?」

「いいけど、どうしたの?」


 日に焼けてない、真っ白な手を握りしめる。

 ディアさんの手、触り心地いいな。すべすべしてて、柔らかい。


「メオちゃん?」

「あ、すみません」


 いけない、集中しないと。 

 魔力でディアさんの手から、身体全部を包み込む。

 素質……あるね、しかも混合? 水と……これは、死? 死!?


「うわ!」

「え、どうしたの?」

 

 死属性? ネクロマンス? 今までこんなドス黒い属性、感じたことがない。

 

「多分、なんですけど」

「うん」

「ディアさん、ちょっと前まで死んでたじゃないですか」

「死んでたというか、霊体よね」

「はい、なので、どうやら魔力が練りに練られていたので、魔法が使えるみたいです」


 ぱあああああって、ディアさん物凄い笑顔になったけど。

 

「ホント? 私も魔法使えるの? どんなの? どんな魔法が使えるの? また空飛べるの?」


 むむ、グイグイ来るね。 

 ディアさん、なんか可愛い。


「ちょっと分からないのですが、ディアさんが使える魔属性は死です」

「死」

「はい、とはいえ、死属性なんて聞いたことがありませんので、どんな魔法が使えるかまではさっぱりなのですが。とりあえず、そこいらの土か花に向けて使ってみますか?」


 物は試しだ、相手を攻撃するような魔法なら、使う場面は限られる。

 どんな能力なのかを把握することも、魔法使いとしては大事。

 私の手にディアさんの手を重ねて、ヒマリちゃんの時と同じように、放つ。


「え」

「あれ?」


 ディアさんの魔力、放出されない?

 なんで? あんなに柔らかい魔力だったのに?

 それどころか、体内の魔力がそのままディアさんを包み込んでいる?


「え、ちょ」


 包み込まれた魔力によって、ディアさんの身体が浮いた。

 そしてそのまま、身体が半透明になっていく。


『これって、まさか』

「そうですね。霊体化したのかと」


 とても見慣れたディアさんの姿に戻りましたね。

 ふよふよと浮かびながら、困った顔を私へと向ける。

 

『これ、解除は?』

「放出している魔力を断つ感じで……いや、一回私の手を握って下さい」


 握って、魔力を身体の中に押し込む。

 途端、浮いていたディアさんの身体はどすんと、地面へと落ちた。


「うあ、戻った」

「はい、どうやらディアさんの使える魔法は、霊体化の魔法みたいですね」

「霊体化……いつの間にか、自分のものにしていたのね」

「そうみたいですね、結構長い間、霊体でしたものね」


 手を開いて閉じて、また開いた瞬間に、ディアさんの身体は霊体になった。

 

『なるほど、感覚、掴めてきたかも』


 ぐっと握ると、肉体が戻る。

 

「魔法も慣れですので、その内、自由自在に使えるようになると思いますよ」

『ふふっ、ありがとう。空も飛べるって、やっぱり便利だからさ』

「というか、地縛霊じゃなくなったので、どこへでも飛んでいけますね」

『確かに。じゃあメオちゃん、ちょっと飛んでくるね!』


 あ、ディアさん、ものすっごい嬉しいんだ。

 霊体になった瞬間、窓から出て空高く舞い上がっちゃった。

 そのままびゅんびゅん飛んで、あっと言う間に見えなくなっちゃったんだけど。


 どこ行ったの?


「凄い……先生、私たちも空、飛べるようになりますか?」

「へ? あ、ごめん、魔法の練習しないとだよね」


 残念だけど、君たちは私と同じ土属性なので、空は飛べません。

 っていうか、ディアさん、ちゃんと帰ってきてくれるのかな。

 なんか、魔法覚えたてで無茶してないといいんだけど。


「それじゃあ今日は、私と一緒に街の修繕作業をしに行きましょうか」

「はい! メオ先生、宜しくお願いします!」


 先生とか、なんかちょっと気恥ずかしいけど。

 でも、この子たちをしっかりと導いてあげないとね。

 立派なマンタクちゃん造りのパートナーになってもらうんだからさ。


「万物従属」――――「〝形状変化〟ストーン・ゾナ・アルフ!」

 

 噴石で壊れた屋根を、魔法で作り変えて、綺麗な状態に戻す。

 さすがに他の子にはここまでの事は出来ないけど、壊れた石畳くらいならいける。


「先生、この呪文って何のために唱えるんですか?」

「ああ、それはね、基本的に魔法を使う相手って自然でしょ? 自然に対して、今から貴方に手を出すから、言うことを聞いて下さいねって意味で使うの。これを言うと言わないとでは、物質変化に大きく影響するから、必ず唱えるようにしてね」


 慣れてくれば、小さいものなら不必要だったりするけどね。

 最初の内はしっかりと覚えさせた方がいい、初心者は油断すると事故るから。


『よっと』

「あ、ディアさん、お帰りなさい」

『にっひひー、めっちゃ遠くまで行ってきちゃった』


 良かったですね、私も空飛びたかったです。


『それで、空から見てて気づいたんだけど。この街に降りそそいだ噴石、何個か真っ白なのよね』

「真っ白? この山は鉄鉱石採掘にも使われていたはずですので、基本黒いはずなんですけど」

『でも白かったよ? 持ってきてあげようか?』


 ひょんっと飛ぶと、ディアさんさっそく白い石を持ってきてくれた。

 火山岩だから白や灰色は珍しくないけど、これは白乳色というか透明に近いぞ。


「嬢ちゃん、それ!」


 ん? ケビンさん、何か食いついてきたけど。

 っていうか、どこにいたの? もしかして、私たちのこと見張ってた? 


「それ、クォーツじゃないか!?」

「クォーツ? なんですかそれ?」

「クォーツあるところ金鉱石ありって言うんだ! 嬢ちゃん、これどこにあった!?」


 え、どこって言うと、屋根?


「お父さん、先生困ってるから」

「ヒマリ、お父さんは工場長と大事な話をしているんだ! これは街の一大事なんだよ!」


 お父さん。

 あ、ヒマリちゃんってケビンさんの娘さんだったんだ。

 なるほどぉ、娘が心配になって、付いてきたって感じなんだね?


「ケビンさん、意外と子煩悩ですね」

「な、子煩悩……い、今はそれはいいから! 工場長、これをどこで!?」

『屋根ですよ。噴石として飛んで来ていました』


 私の代わりに、ディアさんが答えてくれたものの。


「う、浮いてる!」

『今は霊体ですから、気にせずに』

「アンタも魔法使いだったのか……いや、今はいい、それよりも噴石で飛んできたってことは、地層が動いたってことか? なら、今採掘すれば、金鉱石が取れる可能性があるってことか? だが、活動中の火山を掘るなんて、危険すぎる」


「ケビンさん、金鉱石って、金貨の大元になる鉱石ですよね?」


「ああ、そうだ。金鉱石が掘れるようになれば、この街は復活する。金だけじゃない、金が掘れる場所はクォーツや銀鉱石も掘れることが多いんだ。今、この山は宝の山になった可能性が高い。だが、活動中の火山に人を送り込むなんてこと、ギルドが認めるはずがない……ああ、惜しいな、目の前に宝の山があるのに」


 ふむ、要は、危険じゃなきゃいいのよね。

 とはいえ、溶岩の流れを私の魔法だけで抑えるのは厳しすぎる。


「でも、安全を確保するだけなら、出来るかも」

「……工場長?」

「ケビンさん、採掘部隊、編制してください。金、採掘に行きましょう」


 本来の仕事ではないのだけれどもね。

 町が蘇るほどの産業ならば、手を出さない訳にもいかないでしょ。


『メオちゃん、手伝うの?』

「はい、この街が活気づけば、それだけ人が増えるじゃないですか。その増えた人の中に魔力保持者がいて、私が魔法使いとして育ててあげれば……」

『あー、なるほど、希少なマンタクちゃん製造の力になると』

「そういう事です。所詮は自分の為ですよ」

 

 とはいえ、しっかりと基盤あってこそ、だからね。


「じゃあ魔法を使います! 地質調査後、金鉱脈まで一直線で行きますよ!」


 数時間後、集まった屈強なオジサマたちと一緒に、私は坑道を掘り進める。

 溶岩溜まりに向かわないように魔法で調べ、崩落しないように岩を固めて。


「魔法って凄いな、これまでが嘘みたいに掘り進められるぞ」

「しかもあるのが分かってるんだからな、堀り甲斐があるってもんよ」


 掘削まで魔法でやっちゃうとね、魔力が足らなくなっちゃうからさ。

 申し訳ないけど、そこだけはオジサマたちにお願いしていたのだけど。

 

「なんか、楽しそうですね」

『人間、役割を与えられた方が喜ぶものなのですよ』

「そういうものですか。でも、良かったです」


 採掘を始めて数日後。

 

「出た! 本当に金が出たぞおおおお!」


 無事、採掘班が金鉱石を掘り当てましたとさ。

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