妖たちの家日和
ゆうり
第1話 雪女とハーブティー
目が覚めると、外はすでに穏やかな春の光に溢れていた。
むくりと起き上がり、時計を見ると10時30分。朝とも昼とも言い難い時間だ。
「朝と昼を合わせた朝昼食といこうかしら」
せっかく晴れているし、ベランダに出て食べてみよう。
ここのアパートのベランダからは、ちょうど桜が咲いているのが見える。
小さなキッチンで、最初にやかんを火にかける。それからパンをトースターに入れたあと、冷凍庫を開けた。
「ふふ、まだまだあるわね」
そこには、花を閉じ込めた氷たちがつるりと光っていた。
ラベンダー、ミント、エルダー、カモミール……それぞれが凛とした姿で、冷たく静かに眠っている。
私がふーっと息を吹きかけたものはたちまち凍ってしまう。
この“冷たさ”は、今まで多くの人々を恐れさせてきた。
でも今は、氷を作るために使う。私自身のために。
ティーポットにお湯を注ぎ、香りを楽しむ。
今日はレモングラスとカモミールのブレンド。
「今日は……この子に決めた」
ラベンダーの花を閉じ込めた氷を一粒、ティーカップに浮かべる。
透明なガラスの中で、氷がゆっくりと溶けていき、紫の花がふわりと姿を現した。
氷が解けて、ほどよい温かさになったものを飲むのが好きなのだ。
ベランダに出ると、柔らかな春風が頬を撫でた。
焼き上がったパンとハーブティーをトレイに乗せ、テーブルに置く。
ブランケットを膝にかけ、ほどよい温かさになったティーカップを手に取った。
「うん、ぬるくて美味しい」
パンもちょうど良い焼き加減だ。
冒険で買ってみたチェリー&バターのジャムもなかなかうまい。
ふわりと吹いた風が桜の花びらを運んできた。
飲みかけのハーブティーに桜の花びらが一枚落ちる。
私はそれをしばらく眺めていた。
ゆっくりと顔を上げると、目の前に飛び込んでくる桃色の景色。
長い間、白一色だった世界しか知らない私にはまだ柔らかい色に溢れる春に慣れない。
「……雪が溶けたあとは、こんなにも美しいのね」
そうつぶやくと、ふわりと笑みがこぼれた。
今日は、春。
そして、春のなかで息をする雪女の、静かな休日。
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