元・A級スナイパーの男子高校生。聖女を拾う

てばさきつよし

第1話 【プロローグ】その日。私の運命は、ぶっ壊された…


――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――


 自由になりたかった。

 ただ、それだけだった。


 一日だけでいい。

 自分のことなんて、誰も知らない街へ行って。そこで住んでいる人たちみたいに、普通のことをするんだ。


 コンビニでアイスクリームを買って。

 自動販売機で売っている炭酸飲料を飲んで。

 映画館で出来の悪いクソ映画を見て。

 屋台のラーメンを食べながら。

 楽しい一日だったね、って誰かと笑いあって。

 そんな、なんでもない普通の一日を生きてみたい。

 それが私の願いだった。


 だけど、それは許されなかった。

 私には自由がなかった。

 彼らが、それを許さない。

 現実から逃げ出した私に向けて。

 卑劣な彼らは、猟犬を解き放っていた。

 奴らは、どこまでも追いかけてくる。

 例え、地獄に逃げ込んでも、私には居場所がないだろう。


 わかっていた。

 最初から、わかっていた。

 私に自由なんてないことくらい。

 生きることを。

 死ぬ日でさえも。

 『聖女』である私には、選ぶ権利がないのだから。


 ……しかし、私が辿り着いたのは。

 普通の街ではなかった。


 尋常ではない。

 マトモではない。

 それは正しく、常識から踏み外した人間が集まっていた。荒唐無稽にして、人外魔境が極まり。そして、毎日がお祭りのような日々で溢れている。東京都練馬区にある、……陣凱町じんがいちょうという街であった。



「うそ、でしょ」



 私は茫然として、力なく崩れる。

 こんなことがあってもいいのか。

 私を捕えるために追ってきた男たちが。

 私を殺すように命じられた暗殺者が。

 抵抗することもできず、……ぶっ飛ばされていた。


 絶対的な運命からは逃れられない。そんなふうに心のどこかで諦めていたのに。


 この人は。

 この街の人たちは。

 いとも簡単に、それをやってのけた。


「悪いが、この女はもらっていくぜ。俺たちと喧嘩したかったら、軍隊でも呼んでくるんだな」


 私を守るように立っているのは。

 スナイパーライフルを肩にのせた『普通』の男子高校生。そして、同じ学校に通う高校生たち。激しく燃えるプライベートジェット機を背景に、羽田空港ではサイレンの音が響いている。


 そんな。

 この世の終わりのような光景を前にして。

 彼らは、悪魔のように笑う。


 8月31日

 時刻は、0時を過ぎようとしている。


 それは、少しだけ未来の。

 私の運命を、ぶっ壊した物語―

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