タクシー運転手 3
出発地はもう見えなくなっていた。僕の暫くの絶望と彼女の睡眠により、車内には沈黙が続いていた。しかし、僕はいつまでも絶望はしていられず、この後どうするべきか考えていた。彼女にいっそのこと、この状態を打ち明けようかと迷った。しかし、完全に変な奴扱いされること間違いなさそうだったため、下手に行動を移すことは得策ではないと考えられた。
色々思考を巡らせていると、先ほどまで寝ていた彼女は突然すっと起き上がった。かなり酔っているようだったし、僕は心配の言葉をかけた。
「あれ、お客さん、大丈夫です?気分が悪くなったら言ってくださいね」
僕は気遣う声を上げた。しかし、このおじさん、タバコの吸いすぎで声がしゃがれている。
「ああ、お気遣いありがとうございます。でも、酔ってないんで、大丈夫です」
「はあ」
…どういうことだ?
僕は先程の酔った状態の彼女と今の平然としている彼女が一致せず、困惑した。しかし、その様子がミラー越しで見られているという視線を感じ、こちらもまた平然さを装い、質問した。
「なぜ、酔ったフリを?」
「ああ、ちょっと計画がありまして。失敗しましたけど」
失敗…?僕に何を仕掛けようとしたんだろうか。
「どんな計画なんですか?」
「ええっとですね…」
彼女は話すことを躊躇していた。流石に不躾だったかもしれない。僕はまた気を遣った。
「ああ、言いにくかったら大丈夫ですよ」
「いえ。その、話が下品になってしまいますが、大丈夫ですか?」
「ああ、全然大丈夫ですよ。そのくらいへっちゃら」
突然下品な話に展開するという予告を受け、こちらとしては全くへっちゃらではなかったが、平常心を装わずにはいられなかった。
僕の口からの出まかせに彼女は疑問を抱いていた。
「そうなんですか?」
「はい。職業柄、いろんな方を乗せるので。中には、強面な男性たちが、いけない話をしているのに遭遇したことがありますし」
「ええ、そうなんですか」
全くの作り話に罪悪感を抱きながらも、僕はこのタクシー運転手の仕事について想像しながら、話を進めた。
「はい。あの時は怖かったですねえ。まあ、客は選べませんからね」
「確かに。それはそうですね」
あの日、私たちはタクシーに乗った ぐうたら者 @gutaramono
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