第21話 漏洩
——
サーバント
イクスサーシャ学園の新聞部室での様子は、空の懐中時計に密かに宿る〝タック〟から、
(ああ、まずいわ。どうしよう——)
コミュニティの〈オーバーテクノロジー〉は機密中の機密。絶対に外に知られてはならない。今の人類社会に、一足飛びに100年、200年先の技術を放り込めば、どんなことになるか想像に容易い。混乱はもとより、億単位の人の血が流れるだろう。
だからコミュニティは、害のない程度で小出しにしたきた。技術進化のヒントになる程度、チラ見せするくらいに留めてきたのだ。
もちろんこれまでも、露呈しそうになったことはある。特に〈ウィル・オー・ヴェール〉は機密漏洩未遂事故が多い。目撃情報がSNSや愛好家を湧かせてしまうこともあったが、いずれも伝聞が広まっただけで決定的な証拠は無く、オカルトや都市伝説として一時的に話題になっただけだった。
(あれほど、街中で使うのはリスキーだと言ってるのに)
仕事上、どうしても必要な場面で使うのは構わない。だが——
(ったく。エディが面白半分で使うから、もう!)
空が目撃したのは〝家の近く〟と言っていた。それも何度も。
(どうせ陽子に会いに行ったんでしょ。——むっ)
〝決まって雨の日〟とも。
(そりゃそうよ。もう雨天使用禁止にしなきゃ、エディは!)
雨粒が〈ウィル・オー・ヴェール〉のナノ・プレート粒子フィールドに接触すれば、フィールドが揺らぐし、電磁場で静電気放電も起きる。そんなものが目の前に現れたら、〝光学迷彩〟どころではない。〝不思議発見〟だ。
開発チームも、この欠点を克服しようと四苦八苦しているが、今のところ成果は出ていない。フィールドの外で傘をさすわけにもいかないし、
(
〈ハレアカラ〉もまだ見つけていないようだ。
それにしても——
空に見られただけならば、さほど気にすることは無かった。実際これまでリディにも話していなかったようだし。あの子のそういうところは好ましいし信頼できる。
だがよりによって——キャット・ラングレー。あの子に知られるとは。それもあの子の写真に写り込んでいたとは。しかも下僕の〝チャラ男子〟・トラヴィスにまで真実を射貫かれてしまった。
(まずい。非常にまずい——)
チックとタックから、陽子にはすでに警告してるはず。でも空はともかく、さすがの陽子もキャット・ラングレーには手出しできないだろう。ヘタに動けばやぶ蛇になるリスクが高すぎる。
最善策は空に動いてもらうことなのだが——空のスカウトには陽子がとても慎重なのだ。母親なのだからもっともではある。もっともなのだが、空のあの〝スキル〟は惜しい。ものすごく惜しい。
〈吾ら〉もコミュニティも、空の存在を知ったのは、陽子をスカウトした後のこと。雑談の中で、陽子から〈ミス・スペル・リディ事件〉の笑い話を聞いて、〈吾ら〉も〝最初の三人〟も唖然とした。
なぜなら、あの懸賞パズルは実は、コミュニティが仕掛けたもの。世界中から広く
コミュニティとしては、空のような
そして、その中に〈キャサリン・ラングレー〉の名前があった。
もちろん、見つけたら即スカウト、というわけではない。一人ひとり、深く慎重に調査を行い、最終的には、一緒に働くことになるであろう仲間たちの判断が決め手となる。
この一連の〝人的資源調査〟の仕事は、コミュニティのメンバーに人気があり、楽しみにしてるメンバーも少なくない。どうやら〝隠密〟や〝潜入〟といったワードが、メンバーたちの遊び心をくすぐるらしい。それぞれに〝探偵ごっご〟を楽しんでいるようだ。
(それも元を正せば、エディが始めたんだからね!)
その結果、〈ウィル・オー・ヴェール〉の使用機会が増え、ヒヤリハットが多発することになった。とはいえ、〝探偵ごっご〟フリークには〈ウィル・オー・ヴェール〉は不人気らしい。曰く、
「あれはチート・アイテムだからね。〝真の探偵〟はあんなものには頼らないのさ」
——だそうだ。
(
キャット・ラングレーも、そんな〝探偵〟たちが調査に当たったのだが、極めて深刻な事態に陥ってしまった。〝探偵〟たちはみな、キャット・ラングレーに身元を突き止められ、あらゆるSNSに晒されたあげく、〝最初の三人〟との関係やコミュニティの存在まで突き止められそうになったのだ。
〈吾ら〉が苦汁を飲んで〈
さて——
ここはやはり空に動いてもらうしかないだろう。だが陽子がいい顔をしないのも確かだ。ならば、チックとタックに任せてみてはどうだろうか——
——SERVEXダイレクトメッセージ
To Tick & Tuck
From Aunt Hammy
Can I talk to Yoko now?
——チックとタックへ
ハミィおばさんより
今、陽子と話せるかな?
——返信
To Dearest Sister Hammy
From Tick & Tuck
Sure! Connecting audio now.
——大好きなハミィお姉さんへ
チックとタックより
大丈夫だよ。今、音声繋ぐね。
「こんにちは、ハミィ」
「やっほ、陽子——」
「例の件?」
「うん。チックとタックを貸してくれないかな?」
「うーん、この子たちで大丈夫かしら?」
「ママ!ボクがんばる!」
「わたしも!」
「そうねえ、それしかないものねえ」
「そうなのよ、陽子。——君たち、ちゃんとできるかな?」
「うん!まかせてよ!もう作戦も考えてあるだ。な、チック」
「ねー、タック。これは完璧にうまくいくよ」
「ホントかなあ」
「まあ仕方ないから、任せてみましょう。私も目を離さないようにするから」
「OK。じゃあ陽子、お願いね。チックとタックもがんばるんだぞ」
「はーい」
「はーい」
「あ、ハミィ。この子たちへのご褒美も忘れずにね」
「あはは、了解」
——通信終了。
とりあえずはこれでよし、と。——でも、ここはやっぱり、文句の一つくらいは言わせてもらわないとね。
——SERVEXルーム招待状
To: That senile clown rattling around in your skull, Eddie
Invitation from: Your ultra-super-gorgeous caregiver, Hammy
You're invited to: behind the maintenance shed
Inscription: It’s meds time, you crusty old f**k. Move your damn ass—now. 😡
——脳内おちゃらけ老人・エディへ
ウルトラスーパー超絶美人介護士・ハミィからの招待状
招待されたルーム: 体育館裏
添え書き: おじいちゃん、お薬の時間ですよ。ちょっと顔貸しな😡
ぽちっ
この前は上品に、〈プラダを着た悪魔〉のメリル・ストリープ風〝悪態〟をやってみたけど、エディの反応はいまひとつだったっけ。
今日はもっと、どギツいやつにしよう。知的に〈パルプ・フィクション〉の〝サミュエル・L・ジャクソン風〟か、下品に〈スーサイド・スクワッド〉の〝ハーレ・クイン風〟か——
今日も〝悪態芸〟磨きに余念が無い、ハミィなのだった。
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