第25話 突入
俺たちは装甲車列の左側へ移動する。
「これを使ってください」とチルトと言う女空挺隊員が、俺とケイティに8ミリBBライフルを渡してくれた。
ストライカー同士のBBライフルでの戦闘なんてお遊びみたいなものだ。ぶん殴った方が速いかもしれない。
「奴らを取り押さえたとしたら、どうすればいい?」
「そうなったら、わたしたちがラムダロープで捕縛します!」
するとケイティが「ラムダロープはとても丈夫な紐と言うだけで、ラムダ技術はとくに使われていないわ。心もとないわね」と言った。
カルナが指示を出していく。「私たちはハイエス、ケイティを先頭に敷地左側から銀行建物へ向かう。その後、壁沿いに玄関口へ向かい、突入する。モルゲンは侵入経路の確認を」
「了解!」と、モルゲンが返答する。
そしてカルナはMENUから通信を入れる。音声にはかなりの雑音が入ってくる。
「ビショフはいつでもシルフを飛ばせるように。アーチャー聞こえる?」
『アーチャー、聞こえています』
「まだそこで待機していて。レールガンの充填はしておいて」
『了解』
それにしても相手はストライカーだ。こちらに死者が出るのではないか?
俺とケイティにはストライカー級ラムダシールドがある。だが、カルナたちはどうだ? 左腕の盾がラムダシールドを発生させる防具のようだが、非力に見える。
もし奴らがST武器を使えば、一瞬で消し飛ばされてしまうだろう。
俺は周囲を見渡した。
やはり犯人は爆弾を使ってST武器の封印解除を狙っているはずだ。となれば、どこに仕掛けるか?
だがその瞬間、後方でドーンと爆発音がした。
セントラルタワーの方だ。振り返って見ると、つい先ほどまで俺たちがいたスカイテラスの所で黒煙が上がっている。
「ニュークボムをタワーに仕掛けたのね」と、カルナは険しい表情で言った。「相当な死者が出ているはず……」
俺は爆発地点を視覚望遠で確認した。爆煙の中に光る球体が見える。それは下から六本の細い脚を伸ばしてスカイテラスを這っていた。全高は十メートルを超えている。
「ラムダファージだ!」と、俺は叫んだ。「ダイノ級のやつだ!」
強力なラムダファージが民間人のいる場所に出現した。今、スカイテラスは地獄と化しているに違いない。
「どうする!?」俺はカルナに問いかけた「助けに行かないのか!? あっちの方が大事だぞ」
「どうしようもないわ。私たちが行ってもダイノ級ラムダファージには歯が立たない。すぐにマニューバが周辺のストライカーたちを招集するはずだから、それに任せるしかないわ」
確かに、ラムダファージが出現すれば、マニューバは必ず動く。
「じゃあ、あたしたちだけでも、あっちに向かうわ!」とケイティ。
「待って!」カルナが慌てて制する。「仕事を放棄しないで。強盗団を見逃すわけにはいかないわ!」
「落ち着け、ケイティ」俺も止めに入った。「隊長の言う通り、あれはナスターシャのベテランに任せよう」
その時、タワーの方から黒い物体が飛んできた。爆発の破片だろうか。
だがそれは自ら軌道を修正するかのように動き、まさに俺たちの目の前に墜落した。
その物体は破片ではなく、黒色の女性型アンドロイドだった!
俺はすかさずIDを見た。すると……
名前:アグライア・エクセルシオール
種族:アンドロイド
性別:女
年齢:二五歳
職業:ナスターシャ警察会社刑事部、刑事
と出た。NPCの人間だ。
彼女の腕から脚にかけて、そして股の間に膜状の物が張り付いている。見たことのない装置だが、これでタワーから滑空してきたのだろうか?
「アグライア!? 何があったの?」とカルナが彼女を抱き起こして尋ねる。
アグライアはもうろうとした様子で答えた。「スカイテラスに爆弾が三箇所、仕掛けてありましたの。ラムダファージの入ったケースと一緒に……」
なるほど、あのラムダファージはそこから現れたというわけか。
「二箇所は解除出来たのですけれども、最後の一箇所はストライカーが守っていました。何とか突破しようとしましたのですけど……あの人たちはニュークボムを起動して自爆したのです」
「スカイテラスの中の人達はどうなったの?」と、カルナ。
「一箇所目を見つけた時点で避難勧告は出しましたわ。ですけど、刑事部員もわたくしも爆発に巻き込まれてしまいました」
だとしたら、絶望的な戦いだったに違いない。
「カルナ、この現場にもラムダファージが持ち込まれているのですわ。ケースを見つけたらすぐに破壊するのです……」と、アグライアは精一杯の言付けをした。
突然、通信にクリアな音声で割り込みが入った。マニューバからの最優先通信だ。
『マニューバよりストライカーへ。緊急事態発生。ラムダファージが侵入。場所はセントラルタワー・スカイテラス。ダイノ級1体、フェーズ3。民間人への侵食により、多数のビースト級ラムダファージを生成中。至急対処せよ。これより全武装の封印を解除する』
「解除信号って、この通信封鎖シールドの中通るものなのか?」
「試してみたらどう?」
ケイティにそう言われて、俺は腰に下げていた大剣の柄を取り出し、グリップを握りしめた。すると全長が俺の身の丈ほどあるSTエネルギーソードになった。
「じゃあ、こっちも使えるね」とケイティは言うと、8ミリBBライフルを捨てて自分のSTライフルを構えた。
カルナが通信する。「バルボア、全てのST武器の武装封印が解除されたわ。状況が変わったわよ?」
『……だからと言って、撤退はしない。君たちは直ちに突撃するんだ』と、バルボアは返してきた。
その時、アーチャーから連絡が入った。
『奴ら出て来ました! タイタノイドを含む四人です』
強盗団のうち四人が車寄せのヒサシを支える柱に身を隠しながら配置に着こうとしている。俺たちが突入しようとしている左側にはタイタノイドが居座った。
四人のIDをざっと見てみる。
おかしい。IDでわかるはずの情報が明らかに欠落している。所属どころか、ナスターシャ人かどうかも分からない。わかるのは名前くらいだ。
「グスタフ……また会えるなんて……」と、カルナがつぶやく。
あのタイタノイドに見覚えがあるのだろうか?
『隊長、レールガンの準備できました』と、アーチャーが連絡してきた。
「了解。アーチャーはケースを持っているヒューマノイドを狙撃して。シルフはいつでも上がれるように」と、カルナは指示する。
そして俺たちには、「ハイエス、ケイティ、私、チルト、ロブで突入する。モルゲンたちはアグライアをつれて、装甲車列に下がって後方から援護を」と言った。
ストライカー相手に少数で勝負するってことだな。しかも俺が先頭か。さすがに緊張が高まってきた。
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