第24話 作戦会議

 パイロットのビショフを残して全員シルフを降りた。


 カルナを先頭に小走りでNPC警備隊の陣へ向かう。行く先には長身で髪をキッチリ整えた、ヒューマノイドの男が待ち構えていた。


 IDを見てみると、彼の名はチャック・バルボア、NPC警備隊長とある。


「遅かったな、塔をよけるのがそんなに苦手か? グリーンウッド空挺隊長」


 そんなバルボアの嫌味をカルナは無視した。


「通信封鎖シールド使うなんてどういうつもり? 本社からの指令も通らなくなってるわよ。本社は無視するの?」


「緊急事態だったんだ。やむを得なかったよ」


「どういうこと?」


「襲撃犯は六人で、全員がラムダシールドを纏ったストライカーだ。つまり、モバイルテレポーターを所持している可能性が高い。外部との通信ができれば、すぐに逃げおおせてしまう」


 テレポーターは出口側のテレポーターとワープゲートで繋がり、モバイルサイズなら一人ずつストライカーを転移できるストライカー専用装備だ。ただし、使用には入口と出口を電波通信でリンクする必要がある。


「私は強盗団にストライカーが絡んでいると予測し、いち早く対応出来たわけだ」とバルボアは自慢げに話す。たしかにストライカー相手なら必要な処置なのだが。


「それでも、本社にひとこと言って欲しかったわ。そうしたらこちらも手際よく対応できたでしょうに」


「君を信頼してのことさ。現に……」と言って、バルボアは俺たちの方を指す。「ストライカーを雇い入れているじゃないか」


「状況がわからなかったから、最悪を想定したまでよ」


「賢明な判断だね。もっとも今回はご自慢のシルフの出番はない。ナスターシャ中央銀行には窓がないから、空中侵入エアリアルエントリーはできないぞ」


「指揮権はあなたがとるの? バルボア」


 バルボアは薄い笑みを浮かべた「そうだ。君たちは私の指示にしたがってもらうよ」


 この男は明らかにカルナ隊長に対して高圧的だ。敬虔なマスカット思想家なのかもしれない。そうだとすれば、同じ階級に女性がいることを受け入れられないのだろう。


「強盗団の構成は?」と、カルナは質問を続けた。


「強盗団の構成は人間四人、アンドロイド一人、タイタノイド一人だ」


「タイタノイドだって?」思わず口をはさんだ。「じゃあ本当にストライカーなのか?」


「君たちが来る前にオンラインになった銀行管制AIの情報だ。間違いはない」


「銀行管制AIってなんだ?」と、ケイティに聞く。ケイティはHOUSEの特別雑学パスを持っているから、こういう時は頼りになる。


「銀行管制AIはオフライン銀行を管理する非人格知能よ。非常事態の時だけ、銀行内の情報を一方通行で外部に送信するの」


「オフライン銀行?」


「ナスターシャ中央銀行はオフライン銀行よ。セキュリティのために外部回線から完全に切り離されていて、お金の出し入れは直接銀行に来てウォレットパスにキャッシュ情報を書き込むしかないの」


 バルボアは俺たちの会話を遮って言った。「内部の様子を確認したが、奴らは人質を取る気はないようだ」


「人質は全員死んでいると?」と、カルナ。


「奴らが突入した時の映像だ」と言って、バルボアは目の前に映像を展開した。


 映像は平面で色が薄く、粒子が見えるほどの低解像度で、フレームレートも低かった。管制AIは最低限の情報しか送信しないらしく、強盗団のIDも判別できない。


 それでも、その粗い映像からも強盗団の残虐さは明らかだった。六人の強盗団が、ライフル銃を手に、店内の客や店員たちを容赦なく射殺していく。一人に対して十発以上もの銃弾を浴びせていた。


「我々が持っているのと同じ民間用の8ミリB ームB レットライフルだ。ST武器も所持しているようだが、あれは封印された状態のものだな」と、バルボア。


 武装封印処置を受けていないST武器はシティ内にもちこめない。俺も宇宙港で大剣の封印処置を受けている。


「警備隊が応戦しているわね。でも足りないわ」そう言いつつカルナは指で右耳をひねって苦渋の表情を浮かべている。同僚が無残に殺されたのだ。悔しさを隠しきれなくて当然だ。


「相手はストライカーだ。一方的だな」バルボアは冷淡に言った。


「現在、強盗団のうち二名がカウンターの奥のコンソールで作業している。コンソール上にウォレットパスを刺して、電子キャッシュを記録している」


「彼らは今の時点でいくらキャッシュを抜いたの?」と、カルナはバルボアに問いかける。


「管制AIによると、犯行開始から三十分で既に数千億ドルを抜いている」


 とんでもない金額だ。これではナスターシャの経済が傾くのではないだろうか?


「例え人質をとっていても、突入する理由には充分な被害額だ」と、バルボアは言う。


「で、どうするの?」


「今から君たち空挺隊に突入してもらう。もちろん斬り込みは君だ、空挺隊長。なにせ君にはマニューバ製のストライカーパニッシャーがあるからな」と言って、バルボアはカルナの腰にある得物を指さした。


「ラムダパニッシャーよ」と、カルナは訂正した。


「数少ない対ストライカー用武器じゃないか! そのショートソードで奴らを斬り伏せるか、外に追い出してくれればいい。そうすれば全隊員による集中射撃で足止めして、装甲車のレールキャノンで仕留められる」


 どうやら、空挺隊こそがNPCの斬り込み部隊らしい。


「正面玄関から突入するとして、シルフの火器支援は?」


「火力は警備隊で十分だ。シルフは温存しておけ」


「ニュークボムはどうなの? 彼らが持っている可能性は?」


「奴らはスーツケースを一つ持ち込んでいるようだ。その中に爆弾があるかもしれないが、この堅牢な建物の中では使えないし、外でも自爆のリスクが高すぎる。それに、あの爆弾を強奪したのは全員白い戦闘服を着ていた。これは別のテロリスト集団の仕業だろう。この件は刑事部に任せておけばいい」


「そう簡単に行くかしら……」カルナはもう一度右耳をひねった。


「なぁ、ちょっといいか?」と、俺は自分の腰に下げた今は柄だけの大剣を指して言った。「ストライカーだったら、自分のST武器を使えるようにしたいと思うはずだ。その爆弾もそのために使うんじゃないか?」


「マニューバが動くほどの災害を起こせばもしかしたら……」と、カルナが耳たぶをひねったまま言う。「ストライカー動員がかかれば全武装封印解除信号が発令する……」


 バルボアは肩をすくめて言う。「犯人らのST武器が有効になったら、俺たちは全滅だ。しかし、盗まれたニューク爆弾は都市壁に穴を開けるほどの威力はない」


 カルナはつまんでいた耳を弾いて言った。「とにかく時間が惜しいわね。すぐに突入準備をするわ。突入は左側からよ。援護はお願いね、バルボア。指揮権を持つのでしょ?」

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