第19話 黒のアグライア

 ノーザンバウ事件から五日目。


 セントラルスタジアムでは犠牲となった400人のストライカーたちの葬儀が執り行われた。


 マニューバの発表によると、彼らはノーザンバウに出現したラムダファージの群れと勇敢に戦い、これを撃退したものの、敵が去る際の未知の攻撃により全滅したとのことだった。


 遺族や参列者は全員が喪服を着用し、アンドロイドは黒の腕章かマントを身につけており、スタジアム全体が黒一色に染まっていた。


 一方、NPCでは敷地内の地下訓練所で独自の葬儀を行う。NPCでの死者は72名という甚大な被害であった


 私は葬儀の準備をしていた。服装は黒のジャケットとタイトスカートだ。


 そこへ女性型アンドロイドが近づいてくる。


「あの時、ああしていればとか、考えることはないでしょうか? カルナさん」


「来てたの? アグライア……」と振り向くと、そこにいたのは黒いアンドロイドだった。


「ア、アグライアよね? どうしたの? その体……」


「スペアボディですの。色違いの黒ですのよ。お葬式ですしこの方が良いかと思いましたの」


 アンドロイドは誕生時からボディを4回購入するのが一般的だ。ベビー、キッズ、そしてアダルトを2回という順序で、これに従えば政府から購入補助が受けられる。しかし、スペアボディとなると全額自己負担となる。


 アグライアのような高級ボディのスペアまで用意できるとは、彼女の実家はいったいどれほどの資産家なのだろう?


「黒いボディとはいえ光沢があって、金縁は今までと同じだし、ぜんぜんお葬式向けじゃないわ。あなたも腕章を付けなさい」と言って黒腕章を黒いアグライアに突き出した。


「そうなんですね、仕方がありませんですわ」とアグライアは慌てて腕章を腕に通す。


 アグライアは泣き出した。


 女性アンドロイドには涙腺が備わっており、感情が高ぶると自然と涙を流すことができる。涙滴タンクが空になるまで泣き続けることが可能なのだ。


 最愛のオズマを失ったのだから、泣くのも当然のことだった。


 そもそも、この世界では女性が葬儀で泣くことは礼儀とされている。だから、私も遠慮なく泣ける。


「ふふふ……」とアグライアは微かに笑った。「わたくしはもうあの白いボディには戻りませんわ。心機一転することにいたします。これからは怯えることなく、運命の移ろいゆく様を見つめていこうと思いますわ」


 式の進行を務めるキンバリーのアナウンスが聞こえる。葬儀が始まるようだ。


 私とアグライアは式場へと向かった。

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