第13話 ラムダイージス
航星暦261年。カルナ13歳。
ナスターシャを含む三つのシティのそれぞれの中心には、セントラルタワーがある。
その頂上には宇宙港があり、反対側の地下は下層を通って居住ドーム基部を突き抜け、ゴルディロックスの軸となるメインキールへとつながっている。
シティ間のテレポートは宇宙港でしかできないため、セントラルタワー同士が交わる場所、ファイナル・インターセクションは、宇宙港を使わずに三つのシティ間を行き来できる唯一の場所となっている。
ファイナル・インターセクションには特別な許可がなければ降りることができない。ここはマニューバたちが住む神聖なるブリッジへとつながっているからだ。ブリッジはゴルディロックスの船首に位置し、この世界のすべてを司っている。
ナスターシャ警察会社社長レナード・ダグスと技術部長ニコル・グラース技師は、ファイナル・インターセクションでマニューバ職員から機密物資を受け取り帰還した。
そして直ちに
招集されたのは
ダグス(ヒューマノイド・男)とグラース(ヒューマノイド・男)の他、
刑事部長ジャック・レガシ(バイオロイド・男)、
刑事部副部長クライス・ホーク(アンドロイド・男)、
警備隊長ケビン・ソール(ヒューマノイド・男)、
警備隊副隊長マキシマ・オズマ(タイタノイド・男)、
オペレーター長キンバリー・ゲーレルス(アンドロイド・女)、
そして私、オペレーター副長兼刑事部員カルナ・グリーンウッド(バイオロイド・女)
であった。
メンバーはオペレーションルーム中央のテーブルを囲んで座った。ただ、オズマは脚のホバーユニットを外していても、体格的に椅子に座れないのでそのまま立っている。
そしてアグライアもこのオペレーションルームにいる。彼女は前で手を組んだ姿勢で、グラースの後ろに立っていた。
なぜティーカップがここにいるのかしら? まぁ、ファイナル・インターセクションまで社長たちの護衛として付いて行ったらしいから、そのまま来ただけなんだろう……
私はここがメインの職場であり、オペ副長なので問題なくこの場に混ざっている。服装はNPC女性事務職員と同じ黒のスカートスーツだ。
「さて、ここに集まってもらったのは他でもない」ダグスが話始めた。「マニューバが近年増えつつある犯罪ストライカー対策として新しい装置を贈って下さった。」
そう言ってダグスは持ってきた大きな箱の中から、三つの物体を取り出してテーブルに置いた。
一つは丸みをおびた逆三角形の盾のような形をしていて、その裏には剣をさす鞘のようなものも付いており、さらにイーゼルのような脚があって自立するようになっている。
またもう二つは同じ物で、ラムダソードのグリップのような形だ。というかラムダソードそのものだ。
グラースが説明を始めた。「この盾はラムダイージスという。入力されたラムダエネルギー波に対応したラムダパルスを発生させることができる。あと二つはラムダキーとその予備だ」
するとグラースは椅子から立ち上がり、それを取り上げるとグリップについているトリガーを引いた。すると五十センチ程のエネルギーの刀身が現れた。
彼は続けて、「このラムダキーは一見、普通のラムダソードに見えるが、ラムダエネルギーを包むラムダコクーンに秘密があって、ストライカーのラムダシールドに対応したラムダ暗号鍵波が……」
いくら何でもラムダって言葉の連発が過ぎるわ……
まぁ仕方ない。この世界はラムダエネルギーとそのラムダ技術で成り立っているから、少しでも関係があればラムダの冠を付けたがる。むしろ、ラムダが付かない物は軽く見られるくらい。
「つまり、キーを起動してイージスの穴に差し込めば、ショックパルスが発生し、周囲のストライカーのシールドを剥がして気絶させられるということだね」と、レガシが要約してくれる
「そうだ。ストライカーのラムダシールドは脳に埋め込まれたストライカー専用インプラントデバイスによって形成される。そのため、衝撃が直接脳に伝わり失神してしまうのだ。有効半径は出力によって五メートルから三百メートルまで調整できる」
と、グラースは説明を重ねる。「試しに今、やってみようか?」
「ちょっと待ってくれ!」オズマが慌てて止める。「俺はストライカーからの離脱者でストライカーデバイス持ちだ。起動されたら失神してしまう」
グラースは笑ってラムダキーのトリガーから指を外した。「するわけないだろう。私だってストライカー離脱者なんだぞ」
「だったら、なおさら……あっ!」とオズマが気づいたように叫ぶ。「今、自分のラムダシールドを切ってたな! さっきの説明通りなら、シールドを切っておけば無事なはず」
「うーん、ばれたか。これは裏技なのだが……」とグラースは事もなげに言う。
「事故を装って人を被検体にしないでくれ」と、オズマ。
社内にストライカー離脱者はオズマとグラースくらいしかいないはず……オズマはいずれ被検体にされてしまうのではないかしら?
「さて、このシステムには問題がある」と、ダグス。「有効範囲内のすべてのストライカーに影響すると言うことだ。だからストライカーではない我々に渡されたのだろう。その点を踏まえて諸君に運用法を考えてほしい」
ソール隊長が発言する。「イージスは警備隊指揮車に置いて、キーは俺が持っていればいいんじゃないかな。予備は社長に持たせて」
「いや、予備は私が持つ方が良いと思う」と、レガシは言った。
それぞれが意見を述べている時、アグライアがグラースに小声で話しかけているのが見えた。
グラースはどうしようもないと言いたげに、首を横に振っていた。
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