パート6: 違和感と再鑑定

ぜぇ、ぜぇ……。

最後のゴブリンを倒した時、俺は膝に手をついて荒い息を繰り返していた。

依頼目標の10体討伐、完了。長かった……。


もう体は鉛のように重い。

汗で服はびっしょりだし、集中力もほとんど残っていない。

配信なんて、とっくの昔に切っていた。どうせ悪態コメントばかりだったしな。


「……帰るか」


一刻も早く、この薄暗くてカビ臭い洞窟から出たい。

ふらつく足取りで、来た道を引き返し始めた。


その時だった。

ふと、通路の壁の一部に目が留まった。

他と比べて、なんとなく岩肌の色が違うような……?


「……気のせいか」


疲れてて、目が霞んでるだけかもしれない。

早く帰ろう。そう思ったのに、なぜか足が止まってしまった。


(さっきの、棍棒の鑑定……)


脳裏に、あの詳細な鑑定結果が蘇る。

【柄の部分に微細なひび割れあり。強い衝撃を与えると破損する可能性が高い】


あれは、間違いなくゴブリンを鑑定した時には出なかった情報だ。

もし、俺の『鑑定』スキルが、生物ではなく『物』に対してなら……何か特別な情報を引き出せるんだとしたら?


この壁も、『物』だ。

もしかしたら……何か、分かるかもしれない。


「……やってみるか」


好奇心が、疲労に勝った。

俺は壁の前に立ち、気になった部分をじっと見つめた。


『鑑定』


スキルを発動させる。

いつもなら、ただ意識を向けるだけだ。

でも、今回は違った。

もっと、こう……深く、意識を集中させる。

まるで、対象の内部を覗き込むようなイメージで。


頼む……何か、見えてくれ……!


ぐっ、と眉間に力が入る。

頭の奥が、ズンと重くなるような感覚。

これは……なんだ? 今まで鑑定を使った時には、こんな感覚はなかった。


まるで、脳みそを直接掴まれているような……いや、違う。

無理やり、こじ開けられているような……?


「う……っ」


思わず、息を呑んだ。

目の前の壁の情報が、いつもとは違う形で、俺の意識に流れ込もうとしている……!

そんな予感がした。

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