小春After+

藤宮はな

1頁目.ヴァンパイア・ツインシスターズ

A:ソーニャ・クリエイティヴ序曲


 余は頭を抱えとった。角を無性に触りたくなるのがイラツキ度MAXな証拠。

「どうしましたマスター? この頃ずっと睨めっこしてますねー」

 ひょいとティナがタブレットを覗き込む。余はアウトライナーを開いてアイデアを捻り出そうとしていたのだが、案は浮かばず画面には空白が広がっている。

「どうしてなのかサッパリわからん・・・・・・」

「なにがですかー?」

「お主を生み出した時はスっとインスピレーションが湧いたのに、次の子供に取りかかるキッカケがまるで掴めんのだ」

 そう、余は万一を想定して、能力継承に向けた次世代型計画を練っていた。小春こはる時雨しぐれの決定を尊重し、二人が安全に暮らすにはそれが良い。

 余が永遠に生きながらえるより進化の理にも適うと思う。生殖を介しない異能発ならリスクも自由度も高いかもしれん。


「スランプですか。甘い物でも食べて脳を回復させてはいかがですか」

 メイド服の我が子孫、時雨が紅茶とクッキーを余の前に並べてくれる。紅茶はたっぷり温めたミルクを容れ、マイルドな味わいが絶妙な加減の絶品。

「うむ。そうだ小春よ。お主最近母上に何やら薫陶を受けておるではないか。キャラクター造型のヒントとかコツみたいなの知らんか」

 ジィと鬱陶しそうな目で睨む小春。

 お洒落コーデとまでは言えんが、春からは六年、最上級生に進級する。どうやら外見にも気を遣う心が芽生えてきたらしい。これも時雨の良い影響なんか。

 身体的な成長も著しく、時雨が悶々と戸惑う姿は見ていてハラハラするわい。

 此奴ら、現代の倫理では普通にアウトな年齢差じゃし。しかも小春は時雨に甘えてスキンシップをやたら取りたがる。


「それお母さんに直接聞いたら? 素人に聞くよりそっちが有益だよ。もしくはその手の指南書でも読み漁るか」

 指南書・・・・・・あの『これさえ書ければ君も新人賞間違いなし』の類か。心にもない事を言いよる。自分とてそんなもん参考にせんだろうに。

「いや焚火たきびは忙しいじゃろ。何本も連載抱えておるし。だから弟子の小春にだな」

 はぁぁ、とやたらやれやれ度の高い溜息で、名残惜しそうに本を閉じた。


 どうやら小春のマイブーム読書は、能力バトル小説らしい。

 そして今日もBGMはジャズ・ロック。

 ブリティッシュ・ジャズが滅法好きなのは今も変わらず、サブスクリプション・サーヴィスの恩恵を自然に享受しておった。

 時雨なんぞとは感覚が異なるのはやはり世代かのぉ。あれこれのアプリを使い分ける飲み込みが早い子供は前途有望だ。

 余も小春からIT技術を学ぶ機会は多い。息をするように扱うんじゃからな。


「そうだねぇ。キャラクターと一口に言ってもソーニャさんの場合、お話のためじゃなくて現実に仲間を造るんでしょ。難しいなぁ」

「ご先祖さまがどんな家庭を作りたいかが一番大事じゃないですか。ティナさんのような包容力ある人なら安心ですし。そこは小春お嬢さまに似てるかもしれません」

 うふふと手を頬に当て柔和な顔の時雨。当の小春はちょっと不満そう。

 一応、余はお主の白髪部分をテクスチャーで隠す細工をしてやってるんで、ちょっぴりでも尊敬してくれんものか。年頃の娘は気むずかしいとはいえ。


「えー。っていうかソーニャさんてそもそもどこ出身なの。前に確か欧州生まれとか聞いた気もするけど。吸血鬼の力はF・Fさん由来だから、えーっとそもそもどういう出自、種族?なのか、わたし良く知らないままだったよ」

「夢魔じゃ。それも下級の。多分一般的区分には当て嵌まらん。というか雑魚過ぎて追放処分受けた身だったわ。今唐突に思い出した。もう千年以上昔の話、現状子孫の魔族の力は薄まっておるし関係ないよ」

「マスターそんなにポンコツでどんなズルしたんですかー」


 ズル、か・・・・・・。うむむ。

 確かに後付けで魔改造されまくりな余の人生、把握するのめんどいな。ある意味増築を無計画に繰り返してるようなもんだし。そこにファンタスマゴリアの特殊性。こればっかりは人生色々としか言えんわい。

「まぁズルと言えん事もない。今から思えばチャチな地下魔術研究所の事故で、この〈ファンタスマゴリア〉を得たんだった。しかしどう説明すればいいやら」

「ま、いいや。で、どういうヴィジョンがあるの。強いのがいいとか、ソーニャさん好みの顔とか、会計業務を任せたいとか。色々求めるクオリティってあるでしょ」

 身も蓋もない言い方すな。・・・・・・まぁファミリーにはスペックばかりを求めんとはいえ、将来的に生きていける力は最低限あって欲しいな。

「そりゃあ、余のような年寄りからしたら、長生きして死ににくい丈夫な体さえあってくれりゃ、それだけでありがたいもんだが。現代はそんな即疫病やらで幼児が死ぬ環境ではないが、環境が激変するのは何度も見てきたから不安でなぁ」


 余の発言を聞いて真剣に考え始める小春。唇をペロリと舐めて妙に楽しそうだ。

 やはり血は争えんのか、根っからのクリエイター気質というべきか。頼れる子供がおって余は本当ほんに恵まれとるな。

「生き延びるのに特化・・・・・・。死ににくい・・・・・・。時雨、なんだっけほら、特殊な限定条件をクリアしないと倒せないパターンってあったよね」

「お嬢さまが仰られているのは、再生能力や核となる心臓が通常の方法では破壊不可能といったケースですね。確かに吸血鬼ものってそういうの多い気がします」

 なるほどのぉ。現代の吸血鬼ものの定番というやつか。

 人間が畏れる怪異譚にありがちのやつとはいえ、参考にしておくか。

「首を潰さないと再生するとか、太陽光線だけが弱点、みたいなんかの。昔本体を安全地帯に置いて、分身?だか傀儡くぐつみたいなんで戦ってた奴もいたような」

「あーそういうの。異空間を基礎にしてるとか、体を共有してる群体とか、命のストック持ちとか、創作では典型的なのも多いけど設定に自由度はあるよね」

 ふむ? なんか今の小春の一言に引っかかる所があったような。

「でもややこしい設定にし過ぎると読者が混乱するんですよね。単純に倒せるのかって絶望感がないと、結局何で死なないの?みたいな疑問も出ますから」


「ハッハッハ。中々愉快な話をしとるのぅ。そもそも物質に依存しとるから、そういう発想になるんじゃ。記録媒体が何世代も進化すればそんな葛藤も解決しように」

 マルがアイスをモリモリ食べながら参戦してきた。それ結構お高いやつじゃぞ。

 ・・・・・・この宇宙人はいつまでこの家に居候するつもりだ。確かもう地球についてのデータは提出したはずじゃろうに。暇なんか?

「そんな顔をするな。儂にもまだ仕事は残っておる。文化研究とやらは年々創作物の数が爆発的に増大傾向にあるっちゅうんで、全てを精査するのは不可能という結論に達したんじゃが。それでもこの星は特殊じゃから調査を続行せよと言われりゃあ従うしかなかろう。儂も一職員なんじゃぞ」

 うがーと余と変わらぬ背丈のマルが反論する。ま、余には関係ない事よ。敵にならん限りは此奴は頼もしいインチキクラスの実力者じゃし、飽きんとこの家に溶け込んでくれとる間は平穏無事か。銀河が平和で何より。


「ん? 待て。小春。群体・・・・・・。そうか、存在が個体である必要もないな。中には理性を捨てる戦略や動物ですらない魔もおったわ。むむむ。こんな感じでどうだ」

 タタタタタと箇条書きのアイディアをメモアプリに打ち込み、小春に見せる。

「どれどれ。双子で同時に息の根を止めねば両人死なず。小回りが利く素体で、身体的特徴はソーニャと近似値。シンクロニシティでお互いの心理は繋がりアリ。後は偶有性に任せて、可愛い女児をイメージぃ?」

「マスター。趣味が時雨さんに引っ張られて、ちっちゃい子じゃないとえっちな気持ちになれなくなっちゃったんですか?」


 真顔でティナがずずいと詰めてくる。やだちょっと怖いぞこの子。

 ・・・・・・なんで浮気現場を押さえられたみたいなムードになっとるのよ。

「か、勘違いしとるぞ顔と目が怖い許してお願い。ムードメーカーかジョーカー的な仲間がおった方が助かるじゃろ。な? ティナよ。そも余はバリネコだとお主言っておったろ。お主みたく参謀としての知性が高く、性格はふわふわ能天気パートナーじゃないと、永年の磨り減りで傷つきやすく繊細な余を誰が慰めるんじゃ」

「マスターってやっぱり打たれ弱いんですねー。そんなに自信ないんですかー。どっしり構えて愛してる抱いて、くらい言えないのがちょーカワイイ~」

 むぎゅと力一杯ハグされる。胸が当たって苦しいぞ。ティナはいつも薄着だから谷閒が直に密着して、とても柔らかい感触が癒やしなのじゃ。


「っていうかクリエイター目線でのアドヴィス聞いといて、ソーニャさん、あなたの能力結局出たとこ勝負じゃないですか。・・・・・・はぁ。真面目に考えて損した。AI生成とか合成写真じゃないんだから」

 おや? なんか呆れられとるぞ。余の力はだから扱いが難しく、予期せぬ発展も見込めるのだが、緻密な設定を考えたがるマニアにはウケが悪いのかもしかして。


「まぁまぁ小春お嬢さま。ご先祖さまの発想力で、ティナさんを一から十まで設計してると思いますか。逆にご先祖さまの手が及ばないランダムな変異部分が、生命生成なんて反則技の強みなんですよ」

「そっか。突然変異あっての進化だもんね。それにソーニャさんだし。時雨ってば流石大人の分析力。まだまだ視野が狭いなわたしって。精進しなきゃ」

 和気藹々とカップルが朗らかに談笑する。

 そんでもう小春さんてば、余の話に興味を失った様子で、薄い文庫本に目を戻していらっしゃる。ご丁寧に眼鏡を綺麗に磨いてから。


「余ってばバカにされとる? リスペクトが足りんのでは? 高齢者に優しくない家庭じゃ~! う~もーええ! アッと驚く傑物姉妹を生み出しちゃるわい。後で悔しがっても知らんからな。お主のスピリットより超スゴい双子のコンビだぞ。超強いし超絶可愛いぞ。来るんじゃティナ。余のファミリーはやっぱし血も魂も繋がった内部エナジーの無限拡張から生まれる子供たちだけよ。見ておれ。余は負けん。事実は小説よりも奇なりという事を証明してやるのだ!」


 フンとふて腐れながら、逆襲に燃える余であった。最後の仕上げをしようと自室にティナを連れて引っ込む。しかし何に燃えたぎっておるのか、冷静になってみるとよーわからんかった。余ってやはりポンコツ頭か・・・・・・?

 世に抱きつくティナは妹が出来るのが嬉しそうだ。ルンルンと鼻唄を唄い、空中に浮きながら余を抱えるようにくっついておった。

 パートナーが喜ぶなら何でもええわい。可愛い双子よ早く余も会いたいぞ。



B:新たな家族の名はヤミとヨミ


「マスター。〈ファンタスマゴリア〉の中でやるんですかー?」

「うむ。お主の時は久しぶりだったが、昔から溜まった魔力放出で生成するファミリー形成は、魔力生成空間の方が効率的なのだよ。故にティナ、お主は例外中の例外っちゅうコトじゃ。いやぁー余にしては珍しく完璧に生まれてくれたのぅ」

「ほわー。あたしがマスターの力をちょこっと使えるのはそういう事情ですかー」

「そうよ。凄いだろう?」

「あれー。でも時雨さんは使えませんよねー?」

「あぁ。あやつは余が封印されこの国に逃れた後、苦労の末に子供たちがこの地に適合し繋いでくれた血じゃし。厄介な封印術式解除するのマジで長かった・・・・・・。余と子の一人が開発した薬品であの時は偽装してなぁ。今でこそ日本人にしか見えんてなもんじゃが、甘露かんろの努力が復活してようやく解ったわい」


 ティナと会話をしながら余は準備に取り掛かる。制作には適度なリラックスと馴染む環境が必要だったと、仲間と雑談をしながらやっていた記憶が蘇ってきた。

 余には出来すぎなくらい優しい子供たちに囲まれて、余は恵まれてたなぁ。甘露よお主の願いもやっと成就したぞ。再起はまだまだこれからだが。


 まぁしかし下書きのようなイメージはあれど、毎回ぶっつけ本番なのが我が力。

 これはきっと余の創造オンリーより、偶然の作用で形成される方が意図せぬ化学反応が起こるっちゅう自然な話か。命の生成が原理も不明瞭な余の能力らしい。

 魔力の発生→放出の連続から、余の魔力の流れを組み込んだループ封印空間を解除するまでに、余の魔力も多少戻っておったのかもしれん。それに最近まで気づかんかったのは、近頃までブランクで現実での身体感覚が掴めんかったせいじゃな。

 全盛期とまでいかんでも、今ならそんなに弱々ではない・・・・・・と思う。

 ティナは天才肌じゃし、余は鍛えてやれる相手に最近餓えておるのよな。今度の子供はどんな風に余の心意気を受けてくれるのか。


 プラネタリウムのような景色に設定した〈ファンタスマゴリア〉内で、余はグググッと両手を占い師みたく宙にかざす。もしくは中二病、いや厨二病の妄想ポーズ。

 ティナはおおーっと素直に感心しとる。尻尾をエラく嬉しそうに動かしよる。こやつはなんて純朴な瞳で、余に素直な感情を表してくれるのか。


 一応こんな手軽にちゃっちゃとやってるように見えて、余も生命エネルギーをかなり使っておるのだぞ。しかも今回は双子の制作。二人前よ。

 実際ホイホイやれる代物ではない為、全盛期の時期でも余剰魔力がファンタスマゴリア内で膨れ上がった時くらいしかやらん。

 食糧や寝床を作成したりと、あらゆる危機的状況に対処するのに、勝手に中で増える魔力を制御するまで相当苦労したからな。


 魔力が徐々に形になり、肉体が組成されていく。

 余の分身たる新世代の双子、これは予想を上回るポテンシャルが期待出来そう、とヒシヒシ手応えを感じていた。

 長い耐乏生活が余本体もパワーアップさせたのか。

 はたまたここの特殊な人間関係による影響か。

 シュワーッと二つ小さな輪郭が浮かぶと、双子がその場に現出する。ティナは目を爛々と輝かせて、出産に似た儀式に立ち会えたのが余程嬉しいらしい。


 そして、裸の少女が二人パチクリと目を瞬かせ、余とティナの前に立っていた。

 黒々と細長く伸び自在に動く尻尾に、名馬の毛並みのようにサラサラと艶やかで程良く長い金髪。瞳は真紅の宝石。背丈や容姿は小春よりも年少といった所か。

 両名、鏡写しのように瓜二つ。だが余には微妙に違う波長が感じ取れた。今回は角タイプではなく、尻尾があるタイプである。

 何気に二人の魂や精神が繋がっている証拠に、赤い魔術の紋様が綺麗な二重円となりお臍の周囲に刻まれておる。


「ばーちゃんがヤミたちを産んでくれたおさ?」

「ヨミたちわかるよ。そっちのねーちゃんが先輩っしょ?」

 うむ。なんとも溌剌とした元気少女じゃな。声も非常に愛らしい。命名する前に自分で名乗ったのも興味深いぞ。

「うわー。妹! 妹ですよねーマスター? あたし大事にしますねー♪」

 ルンルンキラキラで裸ん坊の二人を食い入るように眺めるティナ。やらしさを全く感じさせず、この二人も――ヤミとヨミ、と呼べばいいのかの――既に姉に愛着を感じている様子で、キャッキャとはしゃいでいる。


「えーこほん。とりあえず服を着せてやらねばならんな。っちゅうても尻尾の穴も空けねばならんか。幼いし下着はブラとかまだ要らんのかな」

 そう余がつぶやいておると、双子は各々同じような仕草で見つめ合ってから、ニヒヒと悪戯っ子の笑みを浮かべよった。

「はーい。ばっちゃーん。ヤミたち自分で作れるよん。ソーニャばーちゃんの力は自動的に頭に流れてくるから楽ちん楽ちん」

「ヨミもヨミもー。長老のオリジナルがコピペし放題なんて便利だよねー」

 互いにうんと頷き合い、パッと瞬時に変化させるヤミヨミコンビ。末恐ろしいファミリーを遂に生み出してしまったのかいな、余はおのれの力が末恐ろしいよフフフ。


 イエイ!とVサインをする双子。髪もいつの間にか片側を結んでいた。

 えー、ヤミが余から見て左でヨミが右。外向きにお互いがサイドテール結び。まだ生まれたばかりの髪は、きめ細やかで美しい事この上ない。

 黒地の半袖シャツに赤い六芒星マーク。淡い水色のスカートは割とミニ。

 ・・・・・・驚いた。生後間もなくでこんなにも早く余の能力を制御するとは。

 ふ~む・・・・・・。これは凄まじい大物の予感。

 しかも多分、恐らく、余の当初の願い通りにいったなら、生存に特化した特殊な連携済みのハイブリッドシスターズなのじゃからな。


「おぉ~。めちゃんこかわいーですー」

 ティナが素直な褒め言葉を送り、拍手する。それに呼応して、えっへへーと双子も天真爛漫な笑顔をニコニコと振りまく。三人で尻尾をぴょこぴょこさせとるぞ。

「でしょでしょ? ジュニアモデルもいけちゃうね♪」

「ヨミはマニアな筋に受けると思う。ねーちゃんと一緒ならギャップも狙えるね!」

「ヤミ知ってる! 子供ならではの可愛さが大人をくすぐるんだよ。裸とか水着だとBANされちゃうから、知的なカリスマモデルの線が絶対バズるっしょ」

 いやいやいや、写真アップなんて絶対にせんでくれよ。尻尾を修正せずに出したらエラい事だ。一応その辺のフィルタリングはしとかんといかんか。


 フル・ハウスに連れてくのはもう少し後にして、牧村にだけ知らせておくか。その前に長老である余が、この子らの特性をすっかり把握しておかんとな。

 子の能力を充分に把握しておけば、後々この子らのスタイルも活かせるっちゅうもんじゃし。まぁこのヤミとヨミは余が思った以上に基礎スキル対応力両方ともバチバチに高そうだし、なんも心配せんでイイような気配。

 二人で一対の魔族、互いに相談し合って上手くやっていくじゃろう。性格も良さそうで余は安心した。ティナとも仲良くやれそうだし、老人はホッコリして一安心。

 今日は四月二日。新年度一発目。幸先良い初日となれば喜ばしい事よな。

 ヤミ・アストラルとヨミ・アストラル、この一心同体双子魔族が、これからどんな成長をしてくれるのか楽しみでしょうがないわい。ワクテカというヤツじゃな。



C:


「えーこほん。小春よ、進級おめでとう。それでじゃな、ファミリーの件で大事な発表があるんだが、聞いてくれるか?」

 余ってば角がピクピクするくらい緊張しとる。どうも家長の焚火ではなく、娘の小春の方が迫力も重圧も強めなのよな。焚火は超然とした天然っぽいし。

 ただ小春は不機嫌に見えて、ソロの読書時間を邪魔されたくないだけかもしれん。


「あーそっか。双子ちゃんだっけ。別に構わないよ。丁度お母さんの書庫スペース拡大でかなり地下に増築したから余裕はあるし。ただし生活費はソーニャさん持ちね。時雨にも迷惑掛けないコト」

「う、うむ。そういや土地も広げとったな。売れっ子漫画家は凄いな。余の封印生活期間に長い事掛けて積み上げた額より断然稼いでおるぞ」


 そうなのだ。その費用で時雨も雇われとるんだし。余も昔から一族に任された資産運用を重宝されたもんだが。

 しかしその影響でこの娘、お洒落より流行りとは無縁な趣味に全振り、イマドキの子供としてかなり意志的に個性を貫いている。

 今日の出で立ちも、緑のジャージに同系色のチェック柄スカートとシンプル。

 時雨も最近は冴子のアイデンティティファッション(本人談)を頻繁に仕立ててやっており、服作りの情熱は衰えてないようだから心配はいらんのか。

 余も最近は大きめサイズでだらしない恰好が板に付いてしまった。通販だとつい良さげな色やデザインのパーカーを買いすぎてしまう。


 と、脱線したな。

 扉の向こうに目で合図を送り、双子姉妹を促す。転校生紹介シチュみたいで余もワクワク度が上昇中。

「イエーイ! ヤミでーす」

「ヨミでーす。コハルねーちゃんよろ~」

「シグねーちゃんもよろしくね~」

「ヨミたちお手伝いもするよん。ハイブリッドな次世代型だよ~」


 あぁ・・・・・・やっぱ小春は引いとる。絶対住む世界の違うテンションだろこれ。

 時雨の方は若干邪な欲望で目の光が満ちているのだが、それを分かった上で演出しとるんだろうな。めっちゃ楽しそうなのが尻尾の動きで丸分かりだぞ。

「あー・・・・・・。うん。うん・・・・・・。ちょっと待って。あぁあっと。えぇと・・・・・・」

 珍しく言葉を失い、絶句する小春。予想外の反応がちょっと新鮮だぞ。

 余りの勢いに思考が追いつかんらしく、眼鏡を外して眉間を揉む動作中。こやつらキチッと交互に喋りおるもんなぁ。しかもゼロ距離ガン詰め。

 その陰少女とは正反対に、時雨はうずうずした様子が隠しきれておらんのだが。


「垂れてるのが右なのがヤミだよ」

「んで左っからにしてるのがヨミだよ」

 二人は相似形の双子。サイドテールが外側に向くよう結んで、お互いの立ち位置を意識している。まるで漫才コンビではないか。

「すっごくキュートでお可愛らしいですね! キッズがオフショルダーを着こなして双子コーデなんて、天国ですか?! しかも素足! 美脚です!」

 時雨は鼻息荒く双子を凝視する。そして二人に目が離せない模様。その瞬間、案の定小春の嫉妬モードが発動。この主従カップル、毎回これやっとるよね?

「時雨。やっぱり小さい子は誰でもエッチな目で見てる。しかも妙にフェチが強化されてるし・・・・・・。あれだけ注意されてもまだ・・・・・・」

「ち、違うんですお嬢さま。この子たちは謂わば姉妹ではありませんか。そう姉妹。私とも血が繋がってるんですよ。やだなぁ、そんな節操なしじゃありませんって」

 ヤミとヨミはにひひっと目配せして愉快な様子。余には悪戯娘の制御は無理じゃ。


「まぁ時雨の欲求不満は置いといて。ともかく二人をこれからよろしく頼む。ティナより外見そとみはしっかりしてると思うんだが」

「あーばーちゃん、そりゃティナねーちゃんに失礼だよー」

「そうだよー。いっつもティナねーちゃん頼りなのヨミたち知ってんだかんねー」

「そーそー。ヤミたちアストラル一族は構成要素がまるっと共有されてんだから、隠し事出来ないの元ネタなら知ってっしょー」

「ヨミたちばーちゃんがめっちゃスゴいのにポンコツなのも全部お見通しだよー」

「「ねー」」

 極上の笑顔でシンクロする双子。同位体故、息ピッタリ。

 新生児に余の本質をズバリ言われてしもうた。図星なの余だって痛いほど分かっとるわい。ティナにはそりゃ世話になりっぱなしじゃが、お主らの方がよっぽど抜け目なさそうだという意味だったのに。


「あぅぅ。やっぱ子供って苦手。無駄に明るい子は特に。時雨もスイッチオンだし」

「お、お嬢さま。めげないで下さい。近頃は出雲さまとも巧くやれてますから。私から見る限り小春お嬢さまの適応力は日々成長中です。それとこの世で一番えっちで可愛らしいのは小春お嬢さまただ一人ですから!」

「結局エッチな目で見てるんじゃん・・・・・・」

 二人の「いつも通りの光景」を見守り、ヤミとヨミは再度家族への挨拶で締める。


「へっへー。そゆことでよろしくねー。シグねーちゃんは軽く撃退出来るくらいヤミたち戦闘能力高いよ~」

「コハルねーちゃんも何とか二人で互角くらい? 初期値は高いけど、お互い戦闘経験は全然積んでないからねー」

「そっかー。確かにシミュレーションはいっぱいしとかないとだー。予測して対処出来るよう訓練でインプットしないとかー」

「能力バトルでは己を良く知り、最大限特性を活かした方が燃えるよね~」

 共鳴し合う二人はキャッキャと楽しそうじゃ。この分なら、この子らは大丈夫そうかのう。お互いに補完し合えるコンビほど強力なモンはない。

「っていうか、別にわたしはバトルオタクじゃないんだけど。運動嫌いだし」


「お嬢さまはドーンと構えていて下さい。その為の盤石の布陣じゃないですか。ソーニャさんも粋な事しますねぇ。あぁ、私はどんな風にあのきゅるんとした尻尾をスカートから出しているのか気になって気になって、もう我慢出来ません☆」

「うっふふー。尻尾は自由に動かせるんだよ。イイでしょ?」

「ぴょこんと出るながーい尻尾はお触り厳禁だよ♪」

 あれ触られると結構ヤバいからな。余も普段は能力で隠してるし。

 ともあれ皆とすぐ溶け込めたようで安心安心。時雨の言うように非常事態に備えた対策はしておかんとな。

 牧村と相談中の案件もあるしの。互助会でも自衛能力向上や戦闘に長けた会員との連携など、まだまだやること山積みじゃ。

 とりあえず余は内緒で次の計画を進めるとするか。


 何やら閉じた本に目を戻す小春と目が合った気もするが、この聡い子は今ので勘づいとるかもなぁ。現世に復帰してようやく力が戻ってきたとはいえ、まだ完全に現代社会の空気に馴染んでおらんのに、余も中々忙しい毎日だわい。

 こりゃあ当分マルとは遊んでやれんのう。あやつも勝手に一人で星の調査に出掛けたりしておるようだし、まぁ放置でエエか。


 小春たちの安全が最優先。魔族と人間の子供どちらも平和で安全に暮らして欲しいもんじゃ。今も昔も脅威は変わらずどっからでも突然来よるし。

 一応、今度ティナとヤミヨミで演習させるか。ファミリーの闘い方を把握しておくのが長の務めってもんだろうて。

 充実した魔力の巡りをリアルに感じる。遂に余も自由に動けるのか。あーシャバの空気ちゅうやつなんかの。

 この先も地道に地域の魔族を守る足場を固めねばな。子供らの平和と幸せのため。

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