最強聖者の宗教改革~異端扱いされたので、教団の不正を暴いてみた~

川崎俊介

第1話 智聖院ヒナビ

【波は砕けるが、海は永遠に満ちている。この世もまた同じである】―白銀聖典 牡鹿の章第2節より


「どういう意味か、分かったような気がします!」


 聖典を読み解いていた私は、師匠の前で得意気に答えた。


「そうかね。私としては、ヒナビのような小娘が聖典の深遠なる意図を理解できるか、甚だ疑問だが」


「こ、小娘ぇっ!? いくらなんでも失礼ですよ、羅漢どの」


 アノク教の神にして、戦を司る煌厳羅漢どのは、私の師匠だ。今日も今日とて、聖典の解釈を勉強していたのだが、相変わらずの毒舌ぶりだ。


「ふん。私から見れば定命の人間など、皆小娘のようなものよ」


「それは、そうですが。神様の視点でばかり物事を見るのはいかがなものかと思うのです。たまには、人間の視座で物事を眺めてみては?」


「人間の視座? 戯れを。アノク様の教えを歪め、

私利私欲のために争う人間ごときの視座になど、価値はない」


 羅漢どのは、ぷいと顔を背けた。機嫌を損ねたこの神様の立ち姿も、様になっている。彫像のように美しく凛々しい。


「羅漢どのも元は人間だと聞きましたが」


「大昔の話だ。お前も赤子の時の記憶などないだろう? 同じように、私にも人間だった時の感覚や記憶はない。それほどのまでに精神のステージが違うのだよ」


 どのようにして神にまで上り詰めたのだろうか? 私は別に神になどなりたくはない。だが気になる。神の視座から、世界がどのように見えているのか、とても気になる。


「そういうものですか。私も早くそのステージとやらにたどり着きたいものです」


「凡百の僧侶どもよりは、確実に近づいているだろうよ。愚かな衆生どもからしたら、お前の智慧も神の如く見えるはずだ」

 

 確かに。羅漢どのの下で修行を積んで早七年。齢十八にして私はアノク教団の枢要にいる。具体的には、【智聖院】と呼ばれる、教団内の教育・知識の伝承を司る役職に就いている。若い女が教団の上層に食い込むなど、前例のないことだ。だが、誰もが実力を認めざるを得ないほど、私は鍛錬を積んできた。今の地位に気後れしたことなどない。


 神にはどのように世界が見えるか、世界とは何なのか、自分とは何なのか、そして、開祖アノク様には世界がどう見えていたのか、気になって仕方がない。思えば、この人並み外れた好奇心と探究心が、私を今の地位にまで 押し上げたのかも知れない。


「えへへ、それほどでもありますねぇ。ではそろそろ、聖典の翻訳に戻りますか」


「ヒナビよ、そのことだが……」


 刹那、視界が明転し何も見えなくなった。同時に、凄まじい衝撃波が吹き荒れ、私の宿坊は破壊された。


 熱い。これは熱線による攻撃か。

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