最強種には淫魔を推奨する!

長月遥

第1話

『ラクス様』

『ラクス様』


 ――誰とも知れない、声がする。


『愛しております、ラクス様』

『わたくしは貴方の愛の奴隷。いかようにもご命令ください』

『貴方様の瞳に映れるだけで、至福にございます』


 誰もが、優しかった。

 誰もが、愛を希った。

 魔力が尽きる、その時までは。



 ヒソヒソと、聞えよがしな囁き声がする。


『あの方にお仕えするの、わたし、嫌だわ。ろくに魔力の制御もできないんだもの』

『さすがの血統だし、人材として考えるなら喜ばしいのかもしれないけど、側で働くのは嫌ね』

『今はいいわよ、子どもだもの。でも、大きくなったら恐ろしいわ』


 避けようとしても避けきれないほどの、自分を嫌悪する言葉の数々。少年はそれらを全力で無視した。


(俺だって、好きでやってるわけじゃない。誰がお前らみたいな性悪に言い寄られて喜ぶかっ)


 それが八つ当たりだということは、少年もよく分かっていた。

 悪いのは、持った魔力を制御できない自分の弱さなのだろうと。



「――違うわ。あんたは悪くない。悪いのはロクな抵抗力も持たない自分を棚上げして他人に責任をなすりつける、あんたの周りのバカ女だけよ」


 平然とそんなことを言ってのけた少女に、少年は正直、物凄く驚いた。

 少女のことは少年も知っていた。貴族の子息女の通う学院に、才能だけで飛び込んできた異彩の少女。


 当然のように身分という差別を受ける彼女は、今日もどこかでケンカをしてきたのかもしれない。

 髪も乱れぎみで、服も一部、破れている。ただでさえ貧相な服が、さらにみずぼらしい様相になってしまっていた。

 にもかかわらず、しゃんと背筋を伸ばして立っている彼女は内側から輝いて見えて、いっそ少年の知る誰よりも美しかった。


「だってほら、わたしはあんたといても全然平気じゃない」


 胸を張ってそう言って、少女は少年へと手を伸ばした。


「わたしと一緒にいればいいわ。強者は、強者と一緒にいた方が楽しいの。もちろん、わたしもよ。――あぁ、でも」


 付け加えるような呟きの直後、少女の瞳に獰猛な光が宿る。


「一番強いのは、わたしよ」

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