第3話 合宿あれこれ

 僕の名は慎二。南小学校の5年生。今回は僕が体験した合宿の話をします。

 僕は4年の時に足を骨折して6月の合宿の際にはリハビリ期間中でした。リハビリの先生からは歩くのは大丈夫だけれど、登山はやめといた方がいいと言われた。下りでの足の負担が想像以上に大きいとのこと。そこで、担任の松浦先生と相談して片道2時間の登山の前半だけを歩くことにした。それだと上り下りが少なくて、平坦の道を歩くからだ。それで上りが始まったところに大岩があり、そこで休憩と記念写真を撮ることになっているそうなので、そこまでがんばることにした。ボランティアの相沢さんがいっしょに歩いてくれることになった。

 さて、合宿当日。荷物を自然の家にあずけて、バスで登山道入り口まで移動。カーブの連続で気持ちが悪くなる友だちもいたが、見晴らしは最高。遠くの海まで見える。登山道入り口でバスを降り、いよいよ登山の開始。ここでボランティアの相沢さんやガイドの皆さんと合流。僕と相沢さんは最後の方でゆっくりマイペースで歩く。登山道は整備されていて歩きやすいが、ところどころに樹木の根っこがでている。それにひっかかると転んでしまうので、気をつけて歩く。途中、相沢さんが

「だいぶ樹木が枯れていますね。これでは冬の樹氷ができませんね」

 と言う。そこで僕が

「どうして枯れたんですか? 異常気象ですか?」

 と聞くと

「いえ、虫害なのです。蛾の幼虫やキクイムシにやられたんです」

「どうして対策をしないんですか?」

「それはここが国定公園だからです。むやみに景観を変えるわけにはいかないのです」

「それって、自然を守ることですか?」

「樹木を移植したこともありますが、根付くまで50年はかかります。枯れたからといって切るわけにはいかないので、困った問題です。君たちが大人になる頃には解決しているといいですね」

 と会話をしながら歩いているうちに。目的地の大岩にたどりついた。僕たちが最終だった。そこで休憩をし、全員で記念写真を撮った。卒業アルバムにものるということだった。

 そして、みんなとお別れ。と思ったら松浦先生が相沢さんに

「もう一人つれてもどってもらえますか?」

 と頼んでいる。

 それで、村上くんがいっしょにもどることになった。歩きながら相沢さんが村上くんに聞く。

「村上くん、どうした? 具合悪いのか?」

 すると、村上くんは

「お腹がいたくなったんです」

 と言う。

「ウンチをしたいのか?」

 と相沢さんが聞くと

「まだ大丈夫です」

 と答える。でも、歩いていると明らかにウンチをがまんしている顔をしている。そこで相沢さんが

「そこらへんで、野グソすれば・・」

 と言う。

「野グソなんて、したことありません」

「そりゃそうだろうけど、山にきたらそういう時もあるよ」

「洋式トイレがないとウンチはできません」

 と村上くんが答えると、相沢さんはなかばあきれていた。それに加えて村上くんは

「自然を汚すことはよくないんじゃないですか?」

 と言う。これには相沢さんも黙っていられないようだ。

「ウンチは植物の栄養になるんだよ。みんなが同じ場所ですれば衛生面の問題があるけれど、それぞれにすれば自然にもどるんだよ」

「ティッシュペーパーは?」

「紙も雨がふればとけます。もっとも私はウンチごと土や葉っぱに埋めますけどね」

 相沢さんは65才ほどの元教師である。ふだんは放課後子ども教室の指導員をなさっている。僕も3年生までは放課後子ども教室に通って相沢さんに教わっていた。宿題や算数の問題を丁寧に説明してくれる人だ。

 結局1時間歩いて登山道入り口までもどった。そこで待っていた保健の石田先生のクルマで近くの公衆トイレに行った。僕と相沢さんはそこで二人を待った。石田先生ともどってきた村上くんはすっきりした顔をしていた。それから相沢さんと別れ、石田先生のクルマで自然の家に向かい、そこで皆を待った。僕は村上くんといっしょにいられるので、一人でいるよりよかった。

 

 翌朝6時。起床タイムである。相沢さんが毛布たたみの手伝いにきてくれた。ところが、村上くんがなかなか起きてこない。相沢さんが村上くんに声をかける。二段ベッドの下段で二人でひそひそ話をしている。そして相沢さんがシーツをたたんでもっていった。どうやら村上くんはおねしょをしてしまったらしい。悲しい顔をしている。小さい声で

「どうしたの?」

 と聞くと、

「昨日のキャンプファイヤーの時の松浦先生のこわい話を思い出したら夜トイレにいけなくなっちゃった」

 と言う。

 松浦先生が学生時代に友だちといっしょに海の家に行った時の話で、夜に友だちがいなくなり、翌朝見つかったとのこと。そこで友だちといっしょに警察の死体安置所に確認に行くと、いなくなった友だちの死体があった。だけど、その死体は異様に背が高い。3m近い身長である。そこで一人の友だちが

「A君はこんなに背は高くないですよ。それに足の向きが変です」

 と言う。たしかに顔の向きと足の向きが違う。そこで、警察官が

「毛布をとりますけれど、びっくりしないでくださいね」

 と言って、かけられていた毛布をとりはずすと、A君の足に別の死体が抱きついていた。3日前に行方不明になった人だそうだ。この人に抱きつかれて海に引き込まれたのだろうか? 真相はわからなかったそうだが、夜に一人歩きするとあぶないよ~。という話だった。その後、部屋で死体ごっこをしたりしていたのを村上くんが見ていて、こわくなったようである。ウンチを1時間がまんできても、オシッコはがまんできなかったようだ。

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