第2話 マムシ先生現る

 私がいた北小学校は、全校で50人ほどの小さい田舎の学校です。本当は3・4年生が複式の学級になるはずなのですが、教務主任の先生が4年生担任になり全学年が1クラスずつという平穏な学校でした。給食は図書室で皆いっしょに食べます。学校に調理室があったので、昼時になるとおいしい臭いがしてきて、4時間目はお腹がなって授業に集中できないことがたくさんありました。

 図書室に行くと5・6年生が配膳をしてくれます。調理のおばさんもいっしょに食べます。そこで食べ終わると、おばさんに

「おいしかったです」

「いっぱいおかわりしました」

「もっと食べたかったです」

 という言葉をかけて教室にもどります。11月の感謝の日には半分ぐらいの子どもたちが感謝状を調理のおばさんに渡します。(あとの半分は用務員のおばさんに渡します)

 今の時代は、給食センターで作るので、そういうことはしません。自校給食を知っている給食センターの人は、

「昔の方がよかったわね。食べてくれる姿を見られたもんね」

 と言っていました。お金はかかるけれど、おいしい給食のためにはそっちの方がいいと給食センターの多くの人が思っています。残食だらけの食缶を見ると悲しくなるそうです。


 お昼の図書室には校長先生や教頭先生もやってきます。事務の先生だけは電話番の仕事があるので、職員室で給食をたべます。検食だそうです。校長先生は50代の女性で、とてもやさしそうな人です。話しぶりもおだやかで、毎回席を変えて子どもたちといっしょになごやかに給食を食べます。

 教頭先生は40代の若い教頭先生で、いつも配膳台の近くに座ります。そこは3年生の席なので、私たちといっしょです。話すことはめったにしません。その代わり、食べるのが早くて、いつも一番先にお代わりをします。この前のカレーライスの時には2回お代わりしていました。体がごつくて、まるで相撲とりみたいな体をしています。6年生の話では柔道か剣道の有段者だそうです。私たちは、教頭先生を「マムシ先生」と呼んでいました。顔はキングコブラみたいなエラがはった顔をしているので、マムシとは似てもにつかわない様相なのですが、先日こんなことがあったのです。


 春先のあたたかい気持ちのいい日でした。昼休み時間に教室にもどろうとすると、玄関の脇にある植木でゴソゴソっと動くものがいました。よく見るとヘビです。すると高学年の子どもが

「マムシだー!」

 と騒ぎだしました。一斉に他の子どもたちがそこから離れました。玄関の片方だけがやたらと混んでしまいました。その騒ぎを聞いて、教頭先生がやってきたのです。そして玄関脇にあるスコップを手にとり、植木に近づきました。後ろでは校長先生が

「教頭先生、気をつけてね。マムシはとんできますからね」

「わかっています。とぐろをまいたり、首をあげた時は攻撃態勢です。体がうねっている時はとびませんから、その時をねらいます」

 と言って、マムシを観察しています。私は玄関からその様子を見ていました。すると、教頭先生の表情が険しくなり、スコップがグサッと土にささりました。そして、

「やっつけました」

 と言って、ヘビの胴体をスコップですくいあげました。頭と首がありません。校長先生が

「お疲れさまです。ヘビは埋めておいてくださいね」

 と言うと、教頭先生が

「マムシ酒にしようと思っていたのですが・・」

「子どもたちがこわがりますし、マムシも生き物です。お墓を作って弔ってください」

 との校長先生の言葉でしぶしぶ校舎の裏に埋めに行きました。それ以来、教頭先生は「マムシ先生」と呼ばれるようになったのです。

 話はここで終わりません。今度は野良犬が校舎に入り込んだのです。1階にいる保健の先生が

「教頭先生! 野良犬が入り込みましたー!」

 と騒ぎましたが、教頭先生は職員室からでてきません。扉があかないようにガードしていたそうです。教頭先生は大の犬ぎらいだったのです。結局は保健の先生が玄関から野良犬を追い出したのですが・・・

「マムシも犬には弱いのね」

 と一言。保健の先生に教頭先生は頭があがらなくなってしまいました。

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