第61話 親友との出会い

「…………ん」


 瞼を開くと知らない天井が視界に飛び込んできた。

 匂いも我が家のものじゃない。

 ここは……。


「起きた? おはよう」

「うわっ」


 寝ている傍らで1人の少女が天井と私との視界の間に入り込む。


「キキョウ……だっけ」

「そーよ。あねさま〜起きたよ〜」


 てこてこと僕が目を覚ましたことを理解したキキョウは部屋から出ていく。


 そうだ……たしか僕はキキョウ彼女に連れられて、応急処置のためのに来たんだ。

 身体を見てみるといくつかのガーゼが僕の体に巻かれている。

 そう……そうだ。


「おう起きたか」


 一人のエルフがキキョウと共に廊下が歩いてくる。

 このエルフ……たしかアマラって人に手当てをされたんだっけ。


「痛みはあるのか?」

「あ、いやもう大丈夫……です」

「そうか」

「あのありがとうございます」

「別に礼はいらん。子供が大怪我をしてるんだからな。お前いくつだ? 親は何をしてる?」

「7です。両親は……既に亡くなりました」

「そうか……それは辛いことを聞いてしまったな」


 アマラさんは深く理由を聞かなかった。

 ただ一言。


「気が済むまでここに居ていいからな。気兼ねはするな」


 と言ってくれた。






 そして、数日が過ぎた。


「アリウム君、元気になったねぇ」

「お陰様でね」


 僕はすっかりと傷が癒え、アマラさんの処置のおかげか跡も全くもって残っていない。

 キキョウがぺたぺたと僕の身体を触っている中アマラさんが奥からやってくる。


「治ったんだな。それは良かった」

「ありがとうございます……泊めてまでいただいて」

「礼ならいらん。どうしてもやりたいっていうのならキキョウお使いでも行ってこい」


 お金とメモの入った籠を放り投げられ思わずそれをキャッチする。


「わかっていると思うが市場とか路地裏には行くなよ」

「はーい。じゃあ行ってきますねあねさま」

「……行ってきます」




 街へ繰り出し僕達はメモの通りに買ったものを籠に入れていく。

 次第に話すことも無くなっていくので僕は疑問に思っていたことをキキョウへ質問した。


「……そういえば何でアマラさんのことをあねさまって呼んでるの?」

「初めて会った時にお姉さん位かなーって勘違いしちゃって……それ以来ずっとだよ」

「キキョウも孤児なんだっけ」

「そうだよ。アリウム君と一緒で森であねさまと出会ったんだ」

「僕が出会ったのはキキョウだけどね……」


 魔物との争いが絶えないこのご時世、魔物に襲われたことによって親が命を落とし孤児になってしまった子供というのは珍しくないらしい。

 キキョウもその1人だそうで、一家で森で過ごしていたところを襲撃に会い命からがら逃げ出してアマラさんと出会ったと以前語っていた。

 アマラさん曰く同年代らしいから仲良くしてやってくれとの事だけど……むしろ僕の方がキキョウに仲良くしてもらっているような気がする。




「…………あれぇ?」

「どうしたのキキョウ」

「道間違えちゃってない?」


 キキョウの言葉を聞き辺りの建物をキョロキョロと見回すと見たことの無い建物ばかりだった。


「ちょっと戻って見てみるね〜」

「あっキキョウ!」


 制止も聞かないままキキョウは手を挙げて走ってその場を去っていった。


「待ってよ……」


 そう言って僕はキキョウの後を追おうとすると1つでの脇道に目がいった。

 陽の当たらない陰道。ゴミが散乱し腐敗臭が漂う道が視界に映っている。


「……路地裏だ」


 路地裏。

 そこはその日を暮らすこともできない人達が寄り合い奪い合い住んでいる場所であり、普通の女子供は近づいては行けないと聞いたことがあった。

 孤児である僕達ももしかしたらここで生活をすることになっていたかもしれない。


 そんなことを思いながらその場を離れようとすると、路地裏に居る同じくらいの歳であろう少年と目が合った。


「…………」

「…………」


 目が合ったとはいえ無関係の人間。無言のまま立ち去ろうとした瞬間。


 ダッ!


 と音がして少年が僕の方へと向かってくる。

 そしてその手にはキラリと光るものが握られており……。


「ナイフッ……!?」


 明確な敵意が秘められていた。


「くっ……」


 僕は身を半身にし向かってくる相手との面積を狭めていく。

 そして突き出した左手によって右手に握られたナイフの手首を払って相手の懐へと向かっていった。


「テメッ……!?」


 残された右手によって相手の顎を掴みそのまま脚をかけて投げるように地面へと叩きつける。


「おりゃぁ!」

「ガァッ!」


 後頭部を強打した相手は怯み、意識が僕から離れたのがわかった。

 その隙に握られているナイフをその手ごと蹴りはらうことで、ナイフは路地裏の隅へと転がっていく。


「テッメェ……!」

「っ……!」


 起き上がろうとしてくる相手の顔にそのまま拳を入れていく。起き上がらせたらマズイと本能が告げていた。



「ゴッ……グッ……ンノヤロォ!」

「ぐっ……!」


 僕を押しのけるかのような腹部への相手の蹴りを何とか防ぎながらも思わずその勢いのまま距離を取ってしまう。

 しかしガードをしたのに僕の腹部には少なかれどの衝撃が残ってしまっていた


「ボコボコ殴りやがって……テメェ殺してやる……!」

「襲いかかってきたのはそっちだろ……!」


 鼻血を出しながら血走った目つきで相手は僕を睨みつける。

 そんな時だった。


「アリウムくーん。道こっちだった…………えっ何してるの!?」


 キキョウの声が路地裏を覗き込み僕達の姿に驚愕していた。


「……!」

「あっ!」


 2対1になると思ったのかそれともキキョウを人質にしようとでも思ったのか定かではないが相手はキキョウに狙いを定め走り出す。


「キキョウ逃げて!」


 僕の叫びも虚しくキキョウは逃げずにその場に留まり……。


「うわわわ……『火球ファイアボール』!」


 掌から魔法を発生させ相手の顔面に直撃させた。


 ドォンという直撃の直後、相手はその衝撃に意識を保つことが出来なかったようで……ドサリと前のめりに倒れてしまった。


「……えっ何やってたの?」

「僕だってわからないよ……」


 困惑する僕とキキョウ。


 この時は当然知る由もなかったけど、この日は僕達3人の人生が交差した記念すべき日だったんだ。

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