第13話 地震
他者から授かった完成品に時間をかけて自分の手を加える金継の魅力はきっと、古い思い出と新しい思い出を共有できる事ではないだろうか。
真顔のままに背を向けて駆け出した
紫宙には絶望も葛藤も苦悶も乗り越えて、
会いたかったと強く抱きしめてほしかったのだ。
生きていて嬉しいと大粒の涙を流してほしかったのだ。
それを、
恐怖に負けて逃げ出した。
あの程度の人に兄様は渡したくない。
強く思った琉偉は紫宙に見切りをつけて、羅騎の元へ歩き出した。
一歩、また、一歩。
最初は羅騎の居る場所へと歩き出していたのだ。
一歩、また、一歩、いっぽと。
着実に。
(ぼくじゃあ。役者不足だけど。紫宙さんの方がずっとずっとずっと、役者不足。そんな人に、兄様を任せられない。うん。いいんだ。このまま。ううん。ぼくが強くなれば。兄様を守れる。守れる人狼になるんだ。
ぽたぽたぽたぽたと。
大粒の涙が琉偉の目から滴り落ちた。
(兄様を愛しているのに。本当に、愛しているのに。この心に偽りはないのに。ぼくは、)
悔しい。不甲斐ない。
一途に羅騎だけを想えない自分が。
どうしたって藤の事を考えてしまう自分が。
どうしたって紫宙に見切りをつけられない自分が。
どうしたって紫宙ならばと考えてしまう自分が。
(だって。だってだってだって、しょうがないじゃないか。一目見た時から、紫宙さんだって。分かっちゃったんだもん)
一歩、また、一歩。
いっぽ、いっぽ、いっぽ、またいっぽと。
琉偉は元来た道を徒歩で辿っては、元の場所に着いた瞬間に駆け出した。
(お願いお願いお願い!!! 紫宙さんっ!!! 逃げないでよっ!!! 兄様を助けてよっ!!! 苦しんでいる兄様を助けてよっ!!! 兄様を幸せにしてよっ!!! 二人で一緒に幸せになってよっ!!!)
「っ紫宙さん!!!」
琉偉が紫宙の背中を見つけては手を伸ばして、紫宙の名を叫んだ瞬間の事だった。
大爆発が起こったのかと錯覚してしまうくらいに、世界が大きく揺れたのであった。
大きな地震が起こってしまったのである。
(2025.4.29)
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