第6話  龍の王

夏成国  国王  ナオイク王




ナオイク王は齢、十五にして王となる。容姿端麗、頭脳明晰、閏年生まれ。

王であり言霊使である。

閏年生まれの王は数百年ぶりであり、伝説の書 〝 朱雀と王 〟の中で出てくる王の他はいない。

ナオイク王は伝説の王の生まれ変わりだと崇められた

王と言っても名ばかり。

夏成国の平和の祈りと政まつりごとに加え夏成国の情勢を納めているのは一回り上の姉であり言霊使のヒクイナが全てを統治しているようなものだった。

そのおかげもあってか、四季学仙校を卒仙し高等部への入仙を希望した

〝姉様が男なら良かった〟ナオイクの口癖である


王であるナオイクの高等部入仙を快く思わない者もいる。

〝早く妃を選び世継ぎを〟と。その声が益々多くなった事もあり、高等部への入仙を諦め言霊使として一日の大半祈りに捧げる事で妃選びを遠ざけていた。

世継ぎの為、日々妃選びが行われるようになり始め、ナオイクはそんな毎日に嫌気がさしていた

〝退屈だ〟が口癖になり、この頃の夏成国の天気は曇りばかりだった。側近の爺、

大犀鳥をいつも困らせていた。

玉座に座り脇息に肘を置き頬杖をつくナオイクはもうため息すら出ない。

そんなナオイクを見かねた大犀鳥が声をかける

「ナオイク様、よろしければ…」

最後まで話が終わらないうちにナオイクが口を開く

「縁談話に見合いの日取りなら勝手に決めて良い、私にこの美しさ、頭の良さを嫌う者はいないであろう」

困り顔で頷く大犀鳥

「縁談話に見合いの日取りはこの大犀鳥が決めます…それで…」

「縁談、縁談、世継ぎ、世継ぎと聞き飽きた。世継ぎなら姉様の子セッカでいいだろう

姉様は従兄弟と婚姻した。セッカは血も濃いはずだ、それに私は自分で妃を見つけたい」

「…セッカ様はまだ九つです」

「すぐに十五になるだろう、生涯の伴侶くらいは自分で決めたいのだ、自分で決めた人生を一つでも残したい」

大犀鳥が目を細める

「ナオイク様、外へ出られましょう、四月から新たに入仙する言霊使の指導をなさいませんか?」

「指導…私は高等部へは行っておらぬ、指導する資格がない」

「ナオイク様は成績もご優秀、高等部への内容は全て飛び級なさっています。筆記試験は合格です、後は実習のみかと…」

「なるほど…ハハハハハッ!我ながら自身の優秀さを尊く思う、ハハハハ!」

困り顔の大犀鳥

「祈りの時間はどうなる?」

「今まで通りに…」

「ほう、秀才の私ならこなせるな!ハハハハッ」

頭を下げる大犀鳥

「一つ、願いご…」

「何だ?」

指導者見習いのというお立場のお人がナオイク様だと解れば中等部の者たち、特に夏成国出身者は気を使われます、指導の間は面を…つけ」

「面などいらん、誰も私の事など知らんであろう、この美男子を!」

「せめてお顔を隠す変装を…」

「ならば片目を隠そう、この美貌を隠すのは忍びないが」

「はい…それと明日の午後、朱雀様がお見えになられます、鳳凰 音図堂へ」

「音図堂で会うのか?」

「はい、音図堂でございます」

「朱雀の死が近いのか…」

「…」





= 鳳凰 宝 音図堂 =



音図堂を取り囲むように強固な結界が張られている。

日照と露草が結界を解きナオイク王と朱雀が中に入り、日照と露草が外で結界を張る

大犀鳥は日照と露草に深々と頭を下げると静かに門の前で佇む



神聖な空気の中、頭を下げ両手をつく朱雀、ナオイク王も頭を下げる

「お久しぶりで御座います、ナオイク王様、先代の王が崩御された時にお会いして以来でしたがお元気でお過ごしでしたか?体調にお変わりはございませんか?」

「はい。熱も最近は出なくなり、以前ほど咳にも苦しめられる事も無くなりました。

弱気体に生まれた為、皆が世継ぎを世継ぎをと縁談話に疲れております」

互いに顔をあげ笑顔を見せる二人

「〝朱雀と王には見えない絆がある〟というのは誠だな。実に心地が良い」

「恐れ多くも私も同じ気持ちでございます。ナオイク王様にこうしてお会いになれるのも最後になる事でしょう」

「そうか…長い間、王家の為に祈りご苦労であった。ありがとうございました。」

「大きくなられましたね、ナオイク王様…」

「母の温もりを知らぬ私に朱雀の祈りの温もりは母のようであった。時間はどのくらい残っている?」

「はい…もって二年、早くて一年かと。これにあたり朱雀継承の儀を行うべくお話に参りました。」

「そうか確か、孫は二人いたな?どちらが継承する?」

「睡蓮が朱雀を継承いたします」

ナオイク王の悲しげな溜息が微かに溢れた」

「わかった。儀の日取りは二年後にする、それまでは生きて欲しいと願う、朱雀よ」

「ですがもしも…」

「私の命など運次第。朱雀の祈りが私を支えてくれている。睡蓮には幼すぎる十四になるまで待とう」

「はい、この命尽きるまでナオイク王様に祈りを捧げます」


音図堂を後にしナオイクは溜息をつく

「世界大地震があった、あの日。私たち世代の子は親を亡くした。齢十二で継承を覚悟し十四で朱雀を継承する、気の毒だ。朱雀は…」


平和な夏成国の空をただ、見つめる若き王は朱雀の幸せを願った。









           = 夏成国 ナオイク王と朱雀編 =


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