旨い! 旨い! 旨いぞぉぉぉ!

 突然、白い物が目のはじに入ってきた。


 ?

 わたしは視線をそちらに向け、驚愕きょうがくする。


 サ、サンドイッチだ!

 サンドイッチだった!


 白く綺麗に切りそろえられたパンの中には、黄色く柔らかそうな卵が挟まれている――そんなサンドイッチだった!

 それが、ポカンと開けているわたしの口に近づき――突っ込まれた。

「ぐがぁ!?」

 パンの甘みとふわりとした卵、そして、マヨネーズらしき酸味が口の中に広がり、わたしの体はブルリと震えてしまった。

 それは初めて甘い物を口にした幼児のようだったろう、だが、恥ずかしいと思う前にそうなってしまったのでどうしようもなかった。


 旨い! 旨い! 旨いぞぉぉぉ!


 わたしは芝生の上を横向きに転がりながら、咀嚼する。

 なにこれ!?

 お腹が空いていたこともあるけど、このサンドイッチ美味しすぎるんだけどぉぉぉ!

 ひょっとしたら、元の世界のものより美味しいかもしれない!

 まあ、前世では安い物しか食べてなかったってのもあるかもだけど!

 うっひゃぁ~!


 ……気づくと、口の中のサンドイッチが無くなっていた。

 いや、普通に食べ終えてしまっただけだけど……。


 ……。

 もう一つ、頂けませんか?


 ちらり、と上目遣いで見てみれば、おそらくサンドイッチを持ってきてくれただろう、騎士っぽいお兄さんがあきれた顔でこちらを見ていた。


 ふむ、恥ずかしい。


 恥ずかしいけど、背に腹は代えられない。

 それに、現在中学生女子ではなく、ちっちゃくて可愛いドラゴンなのだ!

 ギブミィ~サンドイッチ~!

 わたしはさささとすり寄ると、その鎧を着たお兄さんの足に頬ずりをする。

 もっと、そのサンドイッチをくださぁぁぁい!

 すると、今度はメイドさんが近寄ってきた。

 む、胸がデカい!

 かしずく者として、そのデカいのはどうなの!?

 でも、注目すべきはそこではない!

 その右手には、サンドイッチを持っていたのだ。

 それがずんずん近づいてくる。


 イヤ何でもいいです!

 胸が大きかろうが小さかろうが、老婆メイドでも、幼女メイドでも、竜人メイドでも良いです!

 だから、その、サンド――あ、ああ……。

 メイドさん、スカートを膝に挟みながら上品にしゃがむと、手に持つサンドイッチをわたしの口に入れた……。


 うまぁぁぁ!


 ハムとトマトとレタス――それを挟むパンのコラボレェェェション!

 シャリシャリと酸味と肉厚ジューシー、なんじゃこりゃぁぁぁ!

 うめぇぇぇ!

 わたしはまたしても、ゴロゴロしてしまう。

 もう押さえきれないこの気持ち!

 うまぁぁぁい!

 もう、またしても涙が頬を流れて行く。


 生きていて良かった!

 良かったよぉぉぉ!


 ……ようやく落ち着いてきたわたしは、うつ伏せになりながら咀嚼をしている。

 なにか、久しぶりに美味しい物を頂いたことで、そこはかとなく眠気がやってきた。

 三日間、不安でろくに寝てないんだよね。

 ドラゴンで避けられていたとはいえ、やっぱり、肉食系の動物(モンスター?)に襲われるんじゃないかってのもあったし。

 あと、ワサワサと湧いてくる虫が怖かったし。

 あぁ~このまま寝てしまったら、どんなに気持ちが良いだろうか?

 でも駄目だよね。

 この人達は優しそうだから大丈夫かもだけど、こんな目立つところで寝てたら、別のモンスターやら人間に狙われかねない。


 ああ、でも瞼が重くなってきた。

 ああ、ああ……。


 すると、頭に柔らかなものが置かれた。

 視線をチラリと上げると、ちょっと緊張気味のお嬢様がわたしの頭を撫でていた。

 ああ、気持ちいい。

 お嬢様とてもお上手だなぁ。

 ああ、駄目だ……。

 視界が暗く、黒くなっていった。



 なにやら、ゴトゴトと揺れている。

 なんだろうか?

 列車――とかにしてはずいぶん雑な感じがする。

 とはいえ、なんだろう?

 地面が柔らかで温かい。

 あれ?

 わたし、寝てしまったのかな?

 ゆっくりと目を開けてみる。

 なんだろう、ここ?

 首を少し上げてみた。

 目の前に――サンドイッチのお嬢様がいた。

 なにやら、こちらを気遣わしげに眉を寄せている。

 ふむ、なんだろう。

 少し寝ぼけ気味の頭で考える。

 そして、あくびをかみ殺しながら辺りを見渡した。

 どうやら、馬車の中のようだった。

 派手さはないが、天井を含む内装に細やかな柄が入れられていることから、相当お高いものだと想像できた。

 大きさもそこそこあり、対面して座る事が出来るようになっていた。

 こちら側にはわたしを膝に乗せているメイドさん(見上げると二つの山しか見えないが、たぶんそう)と若そうなお兄さん騎士さん、向こう側にはお嬢様とお爺さん執事さんが座っていた。


 ふむ……。


 とりあえず、わたしは首を下ろし、再度、寝る姿勢をとる。

 なるほど、わたしはお嬢様に拾ってもらったのか。

 いや、あの時はそこまで考えていなかったけど、確かにそのルートもあったよね。

 これはラッキーでは無かろうか。

 っていうか、まだ眠い。


 あ~メイドさんの膝の上、程良く温かくて良いなぁ。


 柔らかな感触がわたしの背を撫でる。

 どうやらメイドさんがしてくれているようだ。

「がががぁ~」

 ああ良い……。

 ただ、好みで言えば先ほどお嬢様がしてくれたのが良かった。

 贅沢すぎるのかもしれないが。

「   」

 お嬢様が何事か言っている。

 ただ、言葉が違うのか何を言っているのかさっぱり分からない。

 何故か日本語を話したり、自動通訳スキルが付与されているわけではないのか。

 まあ、そりゃそうか。

 そもそも、そんな都合の良い話は無い。

「   」

 メイドさんが何か答えた。

 どことなくたしなめている感じだ。

 お兄さん騎士さんもなにやら言っている。

 すると、メイドさんがわたしを持ち上げ、その豊満な胸でくるみ込むかのように抱きしめた。


 ドキッ!


 ……とはしなかった。

 そりゃ、男子だったらともかく、わたしは女子だ。

 っていうかむしろ、わたしの小さな体に比べてデカいそれは、苦しくはないものの圧迫感がハンパなくて、ちょっとやめて欲しい。

 それに、ブラの留め具なのかなんなのか分からないけど、金具らしきものがわたしのお腹に当たって、地味に痛い。


 もう! ハグをしたければ、このデカいのを外してからにして!


 わたしが鬱陶しそうに、デカイのを手(前足?)でギュギュと押した。

 しかし、ボヨンボヨンって感じで戻ってくる。


 うっとうしぃぃぃ!


 なんて悪戦苦闘していると、横からひょいと助け出された。

 一番初めにサンドイッチをくれた、お兄さん騎士さんだ。

 お兄さん騎士さんはわたしを目の前に持ち上げながら、なにやら言っている。

 ……この人、よく見ると結構なイケメンさんだなぁ。

 黒髪に黒い瞳だけど、アジア系ではない彫りの深い顔、肌は少し褐色みがかっている。

 何となく、かっこいいし頼りになるお兄さんって感じだ。

 ふむ……。

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