お嬢様のパパさんに会う!

「ガァガァ!」

 わたしは両前足を伸ばして、ハグを要求してみた。

 お兄さん騎士さんは少し困惑していたけど、優しく抱きしめてくれた。

 鎧を着ているので、金属の上に押しつけられている状態ではあったけど、正直、さっきのデカイのよりははるかに良い。

 って、これは!?

 わたしはお兄さん騎士さんの肩まで上ると、肩当ての上に乗った。


 ジャーン!

 ドラゴンテイラーのドラゴンの絵だ!


 ふふふ、しかもこの位置だと、イケメンさんの顔が間近に見える!

 わたしは微妙な顔をしているお兄さん騎士さんに頬ずりした。

 お兄さんは少しあきれた感じながらも、わたしの背中を撫でてくれる。

 お兄さん騎士さんの手は剣の修行のためか分厚くて、ザラザラしていた。

 でも、温かくてとっても良い。

 ああいい!

 わたし、撫でられるの好きだ。

 前世では、してもらった記憶があまりない。

 今は、人間じゃないし、〝面倒にならないし〟、思う存分撫でて貰える。

 幸せだなぁ。

「   」

 すると、前の席のお嬢様がなにやら頬を膨らませながら、お兄さん騎士さんに文句らしきことを言っている。


 ふふふ、お嬢様、可愛いな。


 わたしはお嬢様に両前足を伸ばして、ハグしてポーズを取ってみた。

 とたん、お嬢様の表情が明るくなる。

 可愛いぃ~

 お兄さん騎士さんがわたしを持ち上げると、お嬢様の方に運んでくれる。


 ぎゅぅ、とハグされた。


 お嬢様はどこか甘い香りがして良い。

 メイドさんみたいに〝デカイの〟も無いし、幸せだなぁ。

 なんて、お嬢様の膝の上に頭を乗せると、少し頬を膨らませるメイドさんに見つめられた。

 ゴメンね、メイドさん。

 大きいそれさえなければ、メイドさんも悪くはないんだけどねぇ。



 馬車に揺られながらのんびりとする。

 高級そうな箱馬車だけど、それなりに揺れる。

 だけど、ドラゴンボディには関係ないようで、酔うことなく過ごせている。

 ふむ、お嬢様の撫で撫では本当に心地よいなぁ。

 このまま、お嬢様に飼われるのも悪くはない……。

 いや、飼われるというのは違うかな?


 誇り高き竜として、お嬢様に仕えることにする!

 これだな!


 それにしても、前世では味わえなかった幸福感だ。

 ……前世、といいつつもわたしは日本人だった頃の最後が思い出せない。

 というより、女子中学生だったことは覚えているのだけど……。

 人生が本当に中学生の頃で終わったのか、正直分からない。

 ひょっとしたら高校生にはなれたかもしれない。

 それとも、大学生、専門生、社会人とかにもなれたのかな?


 そもそも、よく考えてみると、名前とかも思い出せない。


 確か、貧乏中学生だったことなどは思い出せても、父親、母親等のことは思い出せない。

 主に小学生、中学生時代の、貧乏生活などが断片的に思い出せるぐらいなものだ。

 貧乏生活っていうのも、そうだなぁ。

 例えば、お金がなくて男の子達に『貧乏人』とか呼ばれていたとか、近所のおばさん達に子供用の服をお古で貰っていたりとか、商店街の駄菓子屋さんで、店掃除をしてお菓子を貰ったりとか。

 そんなことだ。

 あとは、本とか漫画は図書館や学校の図書室でしか読めなかったりとか、あとは……。

 そうだ、どうしてだかスマホを貰ったので、Web小説投稿サイト……。

 名前は思い出せないけど、そこでは全ての小説が無料で読めるって事で読みまくっていた事ぐらいかな。

 あれ、どうやってインターネットにつないだんだっけ?


 まあ、いいか。


 いまいち思い出せないけど、あまり良い人生ではなかったんだろうなぁ。

 そもそも、家族が思い出せないってのが〝あれ〟だし。

 中学生でかどうかは分からないけど、早く死んだっぽいし。

 友達とか――。


『…で!? 何…!?』


 ――いたのかな?


『やっ…!

 …った!

 あ…がと…神……』


 何となくいた気が――。


『…れは、この……対……責…』



――



 体が揺さぶられる。


 ん?

 顔を上げると、どうやら目的地に着いたようで、馬車が止まっていた。

 お嬢様がわたしを持ち上げて降りようとしたけど、そこはやはりメイドさんがってことになったようで、大きいあそこに埋もれる羽目になった。

 正直拒否したかったけど、お兄さん騎士さんやおじいさん執事さんはすぐに外に出て、お嬢様が降りる準備をしているし、猫ほどのサイズとはいえ、7、8歳ぐらいのお嬢様に運ばせるわけには行かないので、結局メイドさんで我慢することにした。

 まあ、自分で歩けるけど、右も左も分からないのでとりあえず、されるがままにすることにした。

 デカイのは邪魔だけど、正直楽だしね。

「がぁ~」

と大きなあくびをする。

 変な寝方をしてしまったためか、しゃきっとしない。

 なんか、考えていた事と、夢の境界線が曖昧あいまいだ。


 馬車を出るとなにやらドでかい建物が現れた。


 これって、ひょっとしなくてもお嬢様のお家? いや、お屋敷?

 高さこそ三階建てだけど、横に広い。

 しかも、窓の脇やバルコニーには、少し古びたドラゴンやら天使? の彫像が取り付けられていた。

 少し先に視線を向けると、庭園があるらしく、柔らかな緑色が広がる一帯に、華やかな色彩がちりばめられていた。

 う~む、よく分からないけど、とにかく凄いお屋敷ということらしかった。

 歴史ある名家なんだろうなぁ。

 前世が貧乏女子だったので、全く持って縁がない世界だ。

「   」

 誰かが近づいてきた。

 視線をそちらに向けると、格好いいお兄様が近寄ってきた。

 お兄様っていうか、お嬢様のパパさんかな?

 薄金色の長い髪を後ろに束ね、キリっとした目でお嬢様を見下ろしている。

 ダンディーというより、ちょっと気の強い王子様が少し年をとった感じかな?

 何となく、雰囲気がお嬢様に似ているので、少なくとも親族なのは間違いないだろう。


「   」

 パパさんがこちらを見た。

 少し、不審そうな顔だ。


 そりゃそうだ。

 森から拾った得体の知れないドラゴンなんて、パパさんとして疑わない方がどうかしてる。

 お嬢様が何か、一生懸命に言っている。

 あれだな、この子飼っていいでしょう!?

 って奴だな。

 ふむ、是非とも飼っていただきたいので、こちらからもアピールしてみるか。

「がぁ!」

 わたしは害意が無いことをアピールするように、一鳴きしつつ、両前足を前に伸ばした。

 するとパパさん、少し驚いた顔で見下ろしてくる。

「がぁ!

 がぁ!」

 ほれほれ、早く! とせかしてみる。

 媚びを売る――という意味もあるけど、現在持ってくれているメイドさんより、パパさんみたいに格好いい人が好きなのだ。

 だから、ほれほれ、可愛いドラゴンだよ!

 抱っこなさいな!

と、急かしてみる。

「   」

 わたしの熱意が通じたのか、パパさんがわたしを抱き上げてくれる。

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