第12話 記憶の聖域と深層

ケイトの魂の影が姿を現した場所――それは、「聖域の深層」と呼ばれる領域だった。


淡い光に包まれた空間の中で、母の姿は優しく微笑んでいた。けれどその瞳の奥には、長い年月の苦悩と、秘めた決意がにじんでいる。


「……母さんは、本当はすべて知っていたの」


葵は黙って耳を傾ける。


「あなたがまだ幼かったころ、私は“聖域の巫女”として、異世界に通じる門を封じていたわ。でも、その力が弱まっていくことに気づいた。黒の教団は、あの頃から動いていたのよ。――だから、私は最後の希望をあなたに託したの」


「希望……?」


「そう。あなたは、“聖なる二重魂ディア・ソウル”――私と、あなたの父、そしてこの世界の大精霊の加護を受けて生まれた奇跡の子。……それを知った教団は、あなたの命を狙った。だから私は、あなたを現実世界に送り、異世界の記憶を封じたの」


「全部……全部、守るためだったの……?」


ケイトは微笑み、静かに手を伸ばした。


「葵、あなたに渡すものがあるの。これは、“光の冠”。聖女の資格を持つ者だけが扱える、本当の力よ」


その瞬間、聖域に眩い光が広がった。


葵の胸元に、金色の紋章が浮かび上がる。


その模様は、カインの“焔の紋章”と対になるものだった。


「さあ、目を開けて。あなたの戦いは、ここからよ」





【現実へと帰還――そして、戦端は再び開かれる】


記憶の聖域から戻った葵の瞳には、迷いがなかった。


彼女は今や、“聖女の覚醒者”。

母・ケイトの血を継ぎ、真の力を手にした存在だった。


そして、王都には不穏な空気が漂い始めていた。


黒の教団は、ついに「神殿の封印」に手をかけたという。


その封印が破られれば――世界そのものが、「虚無の神」に呑まれる。


「間に合わなければ、全てが終わる……!」


葵は、聖女の装束に身を包み、立ち上がる。


その背には、カインの影。


「俺はずっと、そばにいる。お前を守るために生まれてきたんだから」


隣に立つ義兄の言葉に、葵は静かに頷いた。


「行こう。母が遺した願いを、必ず果たすために――」

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