第7話ドラゴンとは何か

 金属製の軽装備の鎧を身に着けた騎士は、騎士らしく髪は短いが、しかし、兜をつけていないので、その美貌は晒されていた。彼女は少し戸惑うように、陽輝と賢翔を交互に見て、そして、賢翔のさらに後ろにいるドラゴンを見つけて叫んだ。

「ド、ドラゴン様」

 陽輝は風牙を振り返って見ながら「ドラゴン様だってよ。まあ、確かに強いけど、様、と、付けるほどのことはないよな」と、笑いながら言った。騎士はさらに戸惑いを見せながら「そ、それで、どちらが転生者様でしょうか」と、ドラゴンの風牙に尋ねた。

「さて、二人共に転生者のようだが」

 と、風牙が答えると、賢翔が「おそらく、彼が勇者として転生され、ボクはそれに巻き込まれた、かと思うのですが」と、補足した。

「勇者」

 騎士がさらに戸惑いながら言う頃には、他の騎士たちも、ようやくに追いつき、陽輝たちを囲んだ。

「勇者が召喚されたのでしょうか」

 追いついた男の騎士が先に駆け寄っていた女騎士に問いかけた。彼はいかにも騎士という風貌で、他の者に比べて頭一つ大きく、さらに体躯も立派だった。その剣も身体同様に大きいために、彼は剣を腰ではなく、その背に掛けていた。

「さあ、召喚されたのは勇者様ではなく、賢者様です。ということは、おそらく、こちらの」

 女騎士が賢翔の方を向き、最敬礼し、自分は「騎士のアルトだ」と名乗った。

 陽輝は、さらに笑いながら、今度は賢翔の横にやって来た。

「賢者というのは、俺でも知っているよ。ものすごく賢いんだろう。俺が勇者も、まあ、ないとは思うけど、お前の賢者もないよなあ。何しろ、日本でも有数のバカ高校なんだからよ。俺も、お前もな」

「うん。ボクが賢者というのは間違いだと思うけど、後で、隠していたように思われるのも嫌だから言っておくけど、ボクは、高校一年にして、どの大学を受験しても受かるから、家から近い高校に入っただけだよ。それでも、この世界で賢者と言われるほどではないと思うけどね」

「何それ、来年、東大受験しても受かるってわけ」

「それは分からないけど、少なくとも、今年の受験でも、合格確実は出ていたみたいだよ。興味はないけどね」

「なあ、風牙、こいつ、バカだよ。嘘が下手過ぎるもんな」

 今度は風牙の横に行き、その首を叩きながら陽輝は言ったが、風牙は、神妙な顔で陽輝を見て「他人に知恵あるが、分からないのは、お前に知恵がないからだと思うぞ」と、言った。

「俺は前衛騎士隊長のフォルトだ。とりあえず、ドラゴン様がいて、護衛もないだろうが、城まで案内する。馬には」

「馬を貸してくれるのか、もちろん、乗れるぞ。馬上からの弓も苦手じゃない」

「ボクも、いちおうの乗馬は習ってます。好きじゃないけど、強制的にやらされたので」

 と、賢翔も答えた。しかし、賢翔の馬は用意されていたが、陽輝のための馬の用意はなかった。召喚者が二人いることを騎士たちは知らなかったのだから無理もない。

「仕方ない」

 と、言ったのは風牙だった。そして、その長い首で自分の背を示して「私に乗ることを許そう」と、陽輝に言った。陽輝は、馬には乗ったことはあるが、ドラゴンになど乗ったことはない、そんな生物はいなかったのだから当たり前のことだ。

「乗れるのか」

「そこは、乗せてもらえるのですか、と、尋ねるべきじゃないのか」

 と、風牙が言い終わる前に、陽輝は風牙の畳んだ羽根を利用して、器用にその背に乗り込んでいた。そして、騎士たちに向かって「行こうか」と、声をかけた。その時、陽輝は気づいていなかった。騎士たちは、陽輝の行動に明らかに動揺していたのだということに。

 ドラゴン騎士というものは存在している。しかし、それはグリフォンやペガサスに騎乗する騎士のことであって、本物のドラゴンに乗る者も、いるにはいたが、それは伝説に近いところの尊い存在の者たちのことだったのである。そもそも、グリフォンやペガサスでも、多くの選ばれた騎士たちが、長い時間をかけて訓練し、その中のほんの一部の選ばれた者だけが、それに騎乗する騎士となれるものなのだ。それなのに、陽輝は、まるで、鞍の付けられた馬にでも乗るような気楽さで轡さえないドラゴンに乗ったのだ。乗せたドラゴンにも驚くし、それにかんたんに騎乗する陽輝の姿にも驚かないはずがなかったのだ。

「驚いたな」

 風牙も、それには驚いたようだった。

「ああ、驚いたな。家に近いという理由で頭が良いのにバカ学校に入るやつがいるんだな」

「そこじゃない」

「ああ、賢翔が賢者だってことか。でも、名前にケンも付くから、そっちは、まあ、あるんじゃないか」

「そこでもない」

「じゃあ、何だよ」

「お前は、どこまで愚かなんだ」

「否定しないよ。俺は武闘には自信あるけど、頭は悪いんだ」

「私が驚いているのは、この私の背に平然と乗るお前にだ」

「ああ、だって、お前が乗ってもいいって言うから。そう言えば、お前も、この世界じゃ偉いみたいだもんな。もっと、敬って、いや、そもそも、ドラゴンになど乗っちゃいけないものなのか」

「違う。普通は、お前を見ていると普通が何だか私にも分からなくなるが、まあ、とにかく、私の背中で自由に出来る運動能力が人間に備わっているはずがないんだよ」

「そうかなあ。乗り心地は悪くないぞ。馬より、ちょっと低いのが気に入らないけどな。まあ、聞けば、俺が賢翔のおまけらしいから、そこはいいか。それより、お前さあ、俺をバカだ、バカだって言うけど、お前だって、その強さで尊敬されているだけで、頭の出来は俺と変わらないんだろう。だいたい、お前、獣なんだし」

「言っておくが、ドラゴンは叡智の神獣として敬われているんだぞ。力の象徴ではなく、叡智の象徴な。お前は叡智の象徴に力で負けたんだ。少しは恥じろよ」

 陽輝は、急に、静かになってしまった。

「じゃあ、お前、強い上に頭も良いってこと」

「お前にくらべれば、はるかにな」

「風牙様とか呼んだほうがいいのかなあ」

「そこまではいい。しかし、お前は、力で負けたことでは落ち込まないのに、頭で負けたことには落ち込むのか」

「だって、力なら、いつか勝てるかもしれないけど、頭じゃ、もう、一生、勝てないってことになるんだからな。そりゃ落ち込むだろう。それに、いるんだよ。俺たちの世界にも、空手も強くて、なお、頭が良いっていう嫌味なヤツがさ。俺、そいつに、まあ、せめて空手では勝ちたいんだよ。頭は無理だからな」

「なるほど。私は人間を背に乗せたのは、はじめてなんだ。ドラゴンは気高い生き物で人間など乗せないものなのだ。どうして、お前を乗せる気になったのか分からなかったんだがな。少しだけ分かった。バカはバカだが、私は、お前のことが嫌いじゃないらしい」

「俺だってそうだよ。バカの仲間じゃなかったのには、がっかりだけどな。それと、お前が、いつか俺に倒されるのかと思うと、今は、お前が思い上がっているだけに、ちょっと気の毒だけどな。まあ、そんな、お前のこと、嫌いじゃないよ」

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