第6話街の入り口にて

 大きな城壁が街を覆っていた。城壁の上には弓を持った兵士がいる。ところどころにある東屋のような丸い石造りの囲いの中で休む兵士と、城壁の上を警戒しながら歩く兵士がいて、その数は、十メートルの長さに二人という厳重さだった。

 賢翔は、その様子に怯えていたが陽輝は平気そうだった。賢翔が怯えるのは人として当然のことだ。何しろ相手は武器を携帯して警備に当たっているわけだし、賢翔たちは、いかにも怪しいところの転生者なのだから。そのことを感じることの出来ない陽輝は、豪胆というよりも、いささか愚かなのだった。

 城壁の上にいた兵士が陽輝たちに気づいたようだった。明らかにこちらを指し、何か城壁の下に向かって叫んでいる。

 城壁の下には、多くの旅人らしき人たちが列になっている。馬車のようなものもある。城壁の外には堀があり、そこには水が張ってあり、壁の中に入るには、その堀に渡してある橋を使う必要があるのだが、その前には屈強そうな兵士がいて、どうやら、彼らの許可なしには堀を渡ることは出来ないようなのだ。

「日本の城と基本は同じだな。ただ、城壁の造りは西洋式みたいだけどな」

 陽輝が楽しそうに言った。

「何を呑気なことを言っているんだよ。いくら君が強くても、あの兵士たち相手には闘えないだろう」

 賢翔はそう言って立ち止まった。陽輝は呑気に賢翔の先を歩いて行く。立ち止まった賢翔の背をドラゴンの風牙がその鼻先で押した。

「待って、何するの」

「大丈夫。この距離はすでに人間の弓が届く、攻撃する気なら、もう射っている。陽輝はそれと知っているから平気で歩いているんだ。彼はバカだけど、戦闘における勘どころだけは確かなようだ」

 城壁に通じる橋の通行が兵士たちによって一時的に封鎖され、中から、騎士だと思われる者たちが出て来た。その数は十人近く。甲冑こそ着ていたないが、門を守る兵士たちとは明らかに違う、高価そうな革の鎧を着ていた。しかも、鎧の上には、薄いローブも纏っている。そして、腰には門を守る兵士たちと違う装飾の多い剣を下げている者がいた。また、別の者は、やはり装飾の多い鞘に入った大きな剣を背負っていた。

「転生して来られた方ですね」

 他の騎士よりも少しばかり早く走り寄って来たのは、背は高いがスリムな身体の女性だった。

「空間転移の魔法陣に誤差が生じ、心配しておりました」

 陽輝はその騎士の問いには答えずに、相変わらず、その背を後ろからドラゴンに押されている賢翔を振り返り見て「彼らも日本語で会話するんだな」と、楽しそうに言った。

「日本語じゃないよ。おそらく、この世界では言葉は想念としてあるので、通じてしまうんだと思う」

「そういうの分からない。とにかく、会話は出来るってことだろう。俺は風牙としか会話出来ないと思っていたんで、これは助かるよな」

 そう言いながら陽輝は駆け寄って来た騎士に向き合い「転生が何か知らないけど、たぶん、それだと思う」と、答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る