第4話(中編)――「和か抗戦か、風が答えを出す」
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『エルデン公爵家の末子』(第十章第4話)の【登場人物】です。
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『エルデン公爵家の末子』(第十章第4話)【作品概要・脚注※】です。
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前書き
同夜の貴族会議は、敗戦直後の動揺から「抗戦派」と「和議派」に割れる。翌15日朝、アレクサンドロスは砦でアシュタル族の使節団と向き合い、風の魔術で主導権を握ったうえで条件を明快に提示する――無条件降伏、そして東岸のロカール族討伐で先兵を務めること。威圧ではなく短期で被害を広げない現実的な選択肢として示し、北部の服属を確定させる。
本文
2月14日午後8時。ヴォルテックス島北部山岳地帯アシュタル族ロルフ・ヴェルネ邸離れ
ロルフ・ヴェルネは今夜も貴族たちの集まりに参加し、その後は第三夫人のところに泊まるようだ。夕食後、無言で出かけていった。子どもたちは子どもたちの生活があり、カトリーナはひとりで過ごす日が多くなっていた。
どこの貴族の家もそうだと妹のエリザベスも言っていた。エリザベスのほうが私よりも大変だ。アレクの持ってきた書簡にはアレクの紹介だけでなく、ガンナ国からの征服者のことも書いていた。族長は監禁され、夫人たちは征服者の人質になったそうである。
人質とは言っても、ひとの紹介も自由にできるようだし、征服者の
カトリーナはエリザベスに比べるとまだマシな身分だと思い返した。亭主が他の夫人のところへ行くくらい何の不都合があろうか?
カトリーナはふとアレクのことを思い出した。あの不埒者はキスを許すとすぐに他のことまで要求し、挙句の果てに家族の目を盗み、調理中のドサクサに紛れてカトリーナの身体まで自由にしようとした。最後のものだけは許さなかったが、次回はおそらく奪われてしまうだろう。
不思議なことに、カトリーナはアレクに腹を立てていなかった。心の何処かで何時かそうなると予感していたからに違いない。
2月14日午後8時。ヴォルテックス島北部山岳地帯アシュタル族:貴族集会所
アシュタル族の貴族たちが集まる会議所は、緊張感と不安に包まれていた。暗い照明の中、貴族たちは低くざわめきながら、酋長カルロス・アシュタルの敗戦の報を受けていた。
誰もが事態の深刻さを理解しており、これからの決断が族の運命を大きく左右することを感じ取っていた。
ロルフ・ヴェルネが議長席に立ち、重々しい口調で会議を開始すると、室内は一瞬で静まり返った。彼の鋭い視線が集まった貴族たちを見渡し、その場にいる全員が彼の次の言葉を待っていた。
「我々は今、重大な岐路に立たされている」とロルフは低く、しかし力強く語り始めた。
「カルロス・アシュタルの敗北は、我々にとって厳しい現実を突きつけている。ガンナ国から来た若き征服者は、ただの少年ではない。
彼は強力な魔術を操り、我々の防衛をあっという間に崩してしまった。これに対して我々がどう対処するか、その結論を今日ここで出さなければならない」
貴族たちの間からはすぐに様々な意見が噴出した。一部は再度の戦いを主張し、「今こそ力を結集し、敵を追い払うべきだ!」と声を上げた。彼らはアシュタル族の誇りを守るため、全力で抗戦するべきだと熱弁を振るった。
一方で、他の者たちは和議を求めた。「無益な血を流すよりも、彼らと和解を模索すべきだ。我々の資源を守るためにも、無駄な戦いを避けるべきだ」と冷静に意見を述べる者もいた。両者の意見は平行線をたどり、会議は徐々に白熱していった。
ロルフは議論が紛糾する中、しばらく黙って彼らの意見を聞いていたが、やがて全員が注目する中で静かに口を開いた。
「皆の意見には一理ある。しかし、我々は今、冷静かつ戦略的に行動するべきだ。敵はすでに我々の一部を掌握している。無謀な戦いに突入するのは危険だ」
彼の言葉に、室内の雰囲気が一変した。ロルフはさらに続けた。「我々が今できる最善の策は、まずは和議を進めることだ。
敵の意図を探り、その弱点を見つけ出す。そして、和議の過程で自分たちの立場を強化し、次の手を打つ準備を整えるべきだ」
貴族たちは互いに顔を見合わせ、しばらくの沈黙が続いたが、やがて一人、また一人と頷き始めた。彼らも、ロルフの提案にある冷静な判断と戦略的な考えに同意し始めたのである。
最終的に、全員がロルフの提案を受け入れ、和議を進めるという結論に至った。彼の指導力と決断力により、アシュタル族は今後の方針を定め、ガンナ国との交渉を進めていく準備を整えた。
ロルフ・ヴェルネは、第三夫人の家に行き、家族団らんの時間を楽しんでから翌朝、アシュタル族砦に行くことにした。
2月15日午前10時。ヴォルテックス島北部山岳地帯アシュタル族砦
ロルフ・ヴェルネは、ガンナ国の征服者アレクサンドロスと面会した。風の魔術の達人と聞いていたので、ロルフは恐る恐る顔を上げた。何とアレクサンドロスは昨日自宅を訪れたアレクと瓜二つの美少年だった。
アレクサンドロスは、恫喝した。
「お前が貴族会議の議長か?結論は出たのか?何時でも相手になるぞ。今度俺達に逆らったら、アシュタル族は皆殺しにする。覚悟しておけ」
アレクサンドロスは、その場で風の魔術を使用し、使節団を全員山頂へ拉致した。標高4,000メートルの頂上で下は断崖絶壁である。
ロルフ・ヴェルネは、和議の話を切り出し、自分たちに有利な結論を引き出そうとしたが、命を落としては何にもならない。
アレクサンドロスの条件「無条件降伏し、ヴォルテックス島頭部海岸を拠点とするロカール族征伐の先兵となれ」を飲まざるを得なかった。
後書き
中編で固まったのは「北を速やかに安定させ、外敵に矛先を向ける」という筋。人員・通訳・案内役の提供を取り付けた一方で、反発や離反の芽も残る。後編では、即応力を生かしたロカール族中枢への急襲と、その後の任命・体制づくりで島全域の再編に踏み出す。
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