41日目
洞窟での会話…その3
「…へぇ。そんな愚かな奴らがいた…いや、今この大陸にいるの?そんなまさか…」
【旅を続けていれば、いずれ会う機会が来るでしょう。その時に説明します。】
「教えて…くれないんだ。」
【はい。私の知るノエルは「ここで全部、説明されたら、旅が6割くらいつまらなくなるだろ!?」と言いそうだったので。】
チッ…正解だよ、こんちくしょう。
【いくら感情を抑えようと、顔に表情に出過ぎです。鏡で見てみます?中々の傑作ですよ。おっと…ノエルは吸血鬼でしたか。共有出来ないののが、残念です。】
「私が本気になれば、鏡に姿を現すくらい…余裕だね。」
【なら出し惜しみはしない方がいいですよ。どの道、『精霊の森』に来た時点でノエルは】
——詰んでしまっているのですから。
……
魔法は強力だが、極限まで集中しなければ、発動すらしない。なら動揺を誘い、集中を途切れさせればいい。
……い
いつも研究ばかりしている精霊…それも、私と同い年っぽい少女(精霊も吸血鬼同様、長命種だから、外見と精神年齢は一致しないけどね。)にベロチューは効果的だろう。
……悪い
事実…ツインテールの少女は既に、私のテクで気を失って……
「……っぷ。」
気持ち悪い
私は気を失ったツインテールの少女を、適当に地面に転がしておいてから、湧き上がる嘔吐感に従い、吐いた。
その時、不意に…(母様を誑かす白い精霊を、密かに殺すために)母様に精霊について、教えを乞うた日々が脳裏をよぎる。
城内にある大浴場跡。母様が朝風呂を楽しんでいた時。
『…精霊は魔力量が非常に多い。魔力操作に優れ、初級から上級魔法を全て覚えた状態で、誕生するのじゃ…』
「…ふむふむ。」
『…はぁ。』
玉座前。母様の魔眼によって、砂となって散った勇者で母様が、砂遊びをしている時。
『その肉体は、唾液の一滴ですらも高純度の魔力の塊。うぬの大好物のAB型の血液は入っておらん。』
「……メモメモ。」
『のう…そんな暇があるなら、水を取ってくるのじゃ。ここに水堀を作る。』
母様の部屋…寝る前。
『ふぁぁ…じゃが所詮は魔力の塊。うぬでもギリ食えるじゃろうが、強烈な魔力酔いで、後で後悔する事になるぞ。』
「なるほど!では、次の質問を…」
『もういいじゃろ、寝かせろよ!?先に、うぬを永眠させて……っ、無理か。』
……
「……うぇぇぇ」
視界が回る……唾液を摂取しただけでこれ…即死しないだけマシだけど……うっぷ。ダメだこれ…
「……何?」
僅かに、視線を上に上げると、さっきまで怯えていて、遠くにいた黒髪の少女が立っていて、優しく背中をさすってくれた。
「っ…君にとっては、敵だろう…どうして。」
「……悪い人には…見えない…から?」
疑問形かよ…変わった奴だなぁ。
……数分後。過剰に摂取した魔力を吐き出し終えた私は、ふらつきながらも立ち上がる。
「ありがとう。こんな裸の私に…親切にしてくれて。」
「…裸?」
あー、まだ真夜中だし、姿がよく見えなくても無理はないか…あれっ?私は魔法とは無縁だけど、記憶が正しければ暗視魔法って、初級も初級の魔法じゃなかったっけ?
実際、ツインテールの方は私の姿がちゃんと見えていたから、攻撃して来た訳で…どうしてだろ。この少女が精霊じゃない…とか?
そう思っている内に黒髪の方の少女は、意識を失っているツインテールの少女を背負って、さっきの戦い(一方的な蹂躙)によって出来た窪みに引っかかり何度もコケて、キョロキョロと辺りを確認しながら、ここに戻って来ていた。
「うわっ…土まみれじゃないか。」
「その。家…来る?服…あるよ。」
「えっ……いいの?」
ええと、いくら何でもお人好し過ぎない?世が世なら、典型的なオレオレ詐欺に引っかかるレベルのチョロさだぞ??
でもまあ…こっちとしても都合がいいし?しっかりと利用させてもらおうか。曰く、現在の私は『精霊王』の貴賓だしね。
「うわ。」
まーた転んだよ…精霊族の中には、こんなにドジな奴もいるのか……はぁ。
「……?」
何処かクールぶっている癖して、転んだ痛みで涙を堪えている少女に、私は手を差し伸べた。
「……私が彼女を背負うから、君は私の手を握ってて。」
「…ありがとう。」
こうして私は、トラブルはあったものの、門をくぐり、精霊国に入国する事に成功した。
「ええと…私はノエル。吸血…人間だよ。君の名前は?」
「…スロゥ。」
へぇ。スロゥ……スロゥ。同姓同名…?いや、まさかね。
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