別世界の自分(女)に“英雄”を託されたけど俺モブよ!?
ドラゴンスキー
第1話 勇者敗北!?
「どうやら、ここまでのようだな・・・・・・」
「くっ・・・・・・!」
魔王の言葉に私の心は折れそうになった。
地に伏している私の仲間達。魔帝と言われたリリアも、聖女と崇められたナナも、戦士として共に旅に同行してくれたライアもピクリともせず血を流して倒れている。私は呼吸が上手く出来なくなり酸素を取り入れるため深い呼吸を繰り返す。全員、魔王に殺されてしまった。
「残るは貴様だけだ、勇者」
「・・・・・・」
そう、残ったのは私だけだ。
でも、もうどうすることもできない。魔力も体力もほとんど残されてはいない。魔王も決して無傷とは言えないくらいのダメージは与えたが致命傷には至らせることが出来なかった。反則のような強さだ。魔王は平行世界の自分と繋げるスキルで、本来一人一つだけのはずのスキルを平行世界の自分のスキルを扱うことによって、複数のスキルを使用していた。
「どうする?続けるか?無意味だと思うが」
「そうね・・・・・・確かに、私では勝てなかったみたい」
「だろうな」
魔王の言葉に頷く。ここで最後の力を振り絞ったとしても、奴には届かない。ここまで一緒に旅してくれた仲間、応援してくれた家族や友人、お世話になった人達には悪いけれど、どうやらここまでのようだ。それは認める。
「クハハ!ではどうする!?命乞いでもしてみるか!?」
「・・・・・・しないわよ。したところで意味ないし」
「当然だ。不安要素をそのままにするはずがなかろう」
「だから、託すことにしたのよ」
「・・・・・・なに?何を言っている・・・・・・?」
魔王は勇者を視界の端に捕らえたまま倒れ伏した勇者の仲間達を見つめる。確かに息を引き取っている。問題はないはずだ。
「託すも何も、貴様の仲間はもういない。神にでも託すというのか?」
魔王の問いかけに勇者はいいえと首を横に振った。
「神になど頼まないし、頼れる仲間はもう死んでしまった。それでも・・・・・・!」
「・・・・・・!貴様、まさか・・・・・・!」
魔王は何かに気づいたというように目を見開いた。驚愕によって今すぐ勇者も仲間達のように葬り去るという最適な行動を出来ずにいた。
「まさか、俺と同じように自分自身に・・・・・・!?」
「そのまさかよ・・・・・・!」
勇者アイナはスキル【
(なら、いるはず!魔王を打ち倒せる可能性のある自分が・・・・・・!)
悠長に選んでいる時間はない。一番枝が太い世界―――魔王を最も打ち倒せる可能性が高いであろう自分に託す!
(見つけた!多分これだ!!)
一番可能性が高いであろう自分を見つける。詳しく調べている時間はないので、もう一つのスキル【譲渡】を発動させる。
「させるか!!」
魔王の属性変換も行われていない魔力の塊が私の胸を打ち抜いた。だが関係ない。
もうすでに私の全ては渡し終えた。
あとは託すしかない。
(みんなごめん・・・・・・。私も今、そっちにいくから・・・・・・)
ゆっくりと意識が遠のいていく。
もう本当に何もすることが出来ない。せめて天国で仲間達に会えたら良いなと願い、意識を手放した。
「クソッ・・・・・・!」
勇者も、その仲間も、もういない。これで邪魔する奴はいなくなった。そのはずだ。
しかし、魔王の胸に渦巻く苛立ちは消えない。
「なんなんだこの胸騒ぎは・・・・・・!」
「それじゃ、気をつけて行ってくるのよ、アイルくん」
「はい、ありがとうございます!セラさん!」
俺―――アイル・ウェンナーは栗色の髪を後ろで束ねた美女、ギルドの受付嬢のセラさんに挨拶をしてから今日もダンジョンへと向かった。
ダンジョン―――魔力が濃い地域に現れるのが特徴でダンジョン内にいるモンスターから取れる魔石やドロップアイテムは高く売れる。また偶に宝箱が出現して中には珍しい物が入っているとかいないとか。俺は宝箱を見つけたことはあるがすでに開けられていて中身を手に入れたことは実は一度もないのだ。まあそれもしょうがないだろう。俺のスキルが【ゴミスキル】なせいでパーティーを組んでくれる人はあまりいない。入れてくれる人もいるが迷惑になるのが嫌で、自分から抜けてしまう。
「まぁ、ソロの方が気楽だし、俺にあっているのかもなあ」
別に複数人で潜ることが推奨されているほどの深さまで潜るつもりは今のところないし。
『ねえ――――ちょっと』
「ん?」
今誰か俺に話しかけなかったか?
そう思って辺りを見回してみたが、俺に注目している人はいない。
「なんだ、気のせいか・・・・・・」
まあダンジョンがあって活気のある街だ。話声が自分のことのように聞こえてくることもあるだろう。そう思って気を取り直していざダンジョンへ――。
『ねえ、ちょっとあなた!聞いているの!?』
「うおっ!?」
気のせいじゃなかった!?誰かが呼んでいる!?
「だ、誰・・・・・・!?」
辺りを見渡しても、やはりこちらに話しかけているような人は見つからない。
何かそういったスキルを身につけている人がいれば声に出さずとも声をかけることは可能だろうが、そんな手の込んだいたずらをするものだろうか。
『私は、アイナ・ウェンナー。平行世界―――別の可能性の世界のあなたよ。今直接脳内に語りかけているわ』
「・・・・・・ッ!?」
誰かスキルを使っていないか見張っていたのにそんな素振りはなかった。本当に脳内に直接話しかけられているのか!?それに平行世界・・・・・・別の世界の俺ってどういうことだ・・・・・・!?
「おい、お前はなんなんだよ!?」
周りが一人で虚空に話しかけている俺を見てギョッとした目でこちらを見てくるが、気にしない。今はそんなことを行っている暇はないのだ。
『だから、別の世界のあなただって言ってるでしょ?それに声に出さなくても意識すれば伝わるわよ』
「・・・・・・!」
もっと早く言ってくれよ!白い目で見られただろ!えっと、意識すればいいから・・・・・・。
(こんな感じか・・・・・・?)
『そうそう。そんな感じ。でね、改めて自己紹介をすると私はアイナ。さっきからしつこく言っているけど、別の世界のあなた』
そうそれだよ!
『それって・・・・・・何が?』
声の感じからして女でしょ!?もう一人の自分って言われて「そうか」って納得できるか!
『そうね・・・・・・なんと言えば良いのかしら。・・・・・・これは知り合いの研究者がしてくれた話なんだけれど、あなたが2つのことで迷っているとするじゃない?例えば夜ご飯とか』
ふむふむ。
『その時未来は分岐するのよ。つまりAという夜ご飯を選ぶあなたと、Bという夜ご飯を選ぶあなたがいる』
俺が選んだのとは逆の選択肢を選んだ自分が、別の世界の俺ってこと?
『そう。今の例え話は近い過去で話したからそこまで大差ないと思うのかもしれないけれど、もっと根本から分かれた場合は変化も大きいのよ。この世界ではあなたは生まれてこられたけれど、別の可能性では生まれてこなかったかもしれない。世界は木の枝のごとく分岐しているの』
つまり・・・・・・。
『男として生まれてきたのがあなたで、女として生まれてきたのが私ってコト』
まあなんとなくは理解した。
『それで私は勇者なんだけどね』
勇者!?え、別の可能性の俺って勇者なの!?
どう分岐したら勇者と平民ってここまでの違いが出てくるんだよ!
俺は日々ダンジョンに潜ってちまちま稼いでいるような冒険者の中でも割と底辺だぞ!?
『まあまあ落ち着いて。やっと本題に入れるんだから』
本題?
『私は勇者だったのだけれど・・・・・・私の世界で魔王に敗れた。今あなたに話しかけているのは私が送った力に含まれている残留思念ってこと』
魔王に、敗れた・・・・・・。
ってことはそっちの世界は・・・・・・。
『魔王の手によってめちゃくちゃにされているかもしれない。・・・・・・もうそれを確認するすべはないけれど』
・・・・・・。
『それで、あなたには魔王を倒して欲しいのよ』
・・・・・・。
はあ!?
話飛びすぎだろ!
なんで俺が!?いやいや無理だって!俺勇者とかじゃないし!スキルも使えないゴミスキルだし!
『あーもう落ち着いてってば!私がさっき言ったでしょ?私が送った力に含まれているって。あなたダンジョンに潜ってって言ってたし冒険者なんでしょ?だったら冒険者カードはあるわよね?内容を確認してみたら?』
俺は声に言われるまま冒険者カードを魔力によって取り出す。魔力は生物であれば誰であれ持っているもので、その魔力を使って取り出せる仕組みだから無くしたりする心配はないのだ。内容なんてそんなに変わるものじゃ。
「・・・・・・!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:アイル・ウェンナー
性別:男
年齢:16
スキル:【
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ええええええええ!?」
冒険者カードを見て思わず絶叫してしまう。周りからさっきからなんだコイツみたいな目で見られてるけどしょうがないだろ!
一つしかなかったスキルが9個になったぞ!?
『ふふん。驚いたでしょ?』
めちゃくちゃスキル増えてるんですけど!?
渡したってことはもともとスキル8個持ってたってこと!?
『いや?私も最初はみんなと同じ一つだけだったわよ。【
ダンジョンを完全に攻略するって条件はあるけど、めっちゃ強いスキルじゃん!たくさんスキルを手に入れることができるスキルなんて聞いたことないし!
『あなたが思っているほど良いスキルって訳じゃないけどね』
・・・・・・?なんでだ?
『考えてみてほしいのだけど、ダンジョンを完全攻略したらスキルが手に入るスキルってことはダンジョンを完全攻略するまでは私にはスキルがないことと同じなのよ』
・・・・・・!!
『しかも仲間だけの力で攻略してパーティの後ろでジッとしているだけじゃ攻略した判定にはならなかったし。自分の力で攻略しなきゃダメみたい。どこまでが自分の力と言って良いのか分からないけれどね。』
・・・・・・じゃあアイナは実質スキルなしで攻略したのか。
『まぁ、そうね。もちろん仲間にはたくさん助けられたけど、私自身も身体を鍛えて技を磨いたわよ』
「・・・・・・。」
やっぱり、アイナと俺は全然違うと思う。
ゴミスキルとはいえ、スキルがあっても底辺で活動してた
別の世界ってだけでこんなにも違いが出るのか。
「なんで、俺なんだ・・・・・・?」
『ん・・・・・・?』
声に出さなくても良いのに、声に出してしまう。
スキルがたくさんあったのには驚いたけど、それを持ってしてもアイナは負けてしまった。なら、俺がその力を引き継いだからって魔王に勝てるものだろうか?
そんな不安が声となって漏れた。
『なんでか、か・・・・・・。それはもちろん、あなたが魔王を倒せる可能性が一番高いからよ』
・・・・・・!
何を根拠に・・・・・・!
『魔王はね、私と同じ名前のスキル【
魔王とはどう違うんだ?
『対して魔王は自分としか繋げられない。自分本位だから他者と繋がろうなんて考えすらないのよ、魔王は。魔王は平行世界の自分と繋げることによって平行世界の自分が持つスキルを共有しているの』
スキルの共有・・・・・・!
アイナみたいに一つのスキルしか持って無いけど実質たくさんのスキルが使えるっってことか!?
そんなのどうやって勝てばいいんだよ!
『スキルの共有って言っても、数はそこまで膨大ではないの。さっき世界は木の枝のごとく分岐しているって言ったじゃない?だからこそ男として生まれたあなたと、女として生まれた私がいるみたいに』
言ってたな。
『だけど、魔王は例外よ』
・・・・・・!
『死の間際に色々な可能性を見たけど、魔王の姿はどの世界でも変わってない・・・・・・というか同じだった。おそらくだけど、スキルで繋げている影響で分岐の幅が狭いのよ。だから見た目が変わってない』
つまり、どういうことだ・・・・・・?
『分岐の幅が狭いってことは取得しているスキルの幅も狭いってことよ。奴が共有しているスキルは多くて10個、といったところね』
それでも、同じぐらいの数のスキルを持っているってことか。
『楽観視は良くないわ。そう考えたほうが良いでしょうね』
・・・・・・。
『ところで、一つ聞いていいかしら?』
なんだよ。
『あなたが持っているスキル【
どうって、使いどころが狭すぎるゴミスキルだよ。
繋がりが強い存在の相方を倒すともう片方も倒せるスキルって言えばいいのかな・・・・・・。俺も説明するのが難しいんだけど、例えばスライムが分裂したら、分裂した片方のスライムを倒せば、もう片方のスライムも消滅するんだ。強い繋がりあるやつしか適用しないから今までスライムぐらいにしか使ったことないぞ?そもそもスライムならそんなことしなくても倒せるしな。
『・・・・・・。なるほどね・・・・・・』
なるほどって何がだよ。
『話を戻すわよ?』
どこに戻すっていうんだよ。
『なんであなたが選ばれたのかって話』
・・・・・・!
『私は平行世界を覗いたとき、魔王を倒せる可能性が一番高い世界の自分を選んだ。だからあなたが魔王を倒せる可能性が一番高いのは間違いない。でも、時間がなかったから、明確な根拠があったわけじゃなかったのよ。枝が太い世界を選んだってだけだから』
・・・・・・俺が一番・・・・・・。
もっと他にいそうだけどな、魔王を倒せそうな自分は。
勇者になっている俺がいるんだから魔帝や有力な戦士になっている自分だっているかもしれない。
『私も正直、そう思ったわよ』
おい。
『だって、あなたって物語に出てくる
俺もまあそう思うけどさあ!
もっと言い方あるだろ!
『だけど、あなたのスキルを聞いて分かった』
俺の、スキル?
『あなたは平行世界に存在する全ての魔王を倒せる可能性を秘めている』
「・・・・・・!」
その言葉を聞いて思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
平行世界全ての魔王を、倒すことができる・・・・・・?
『そうよ。あなたがこの世界で魔王を倒せば、平行世界に存在する他の魔王全て消滅する』
いやいやいや!
言っただろ強い繋がりがないと無理って!
しかもスキルで繋げるのを解除したらどうするんだよ!?
俺は内心で捲し立てるように脳内のアイナに詰め寄る。
『強い繋がりならあるわよ。言ったでしょ?魔王は平行世界でも見た目が変わらないほどスキルの影響が強いって。それに同じ理由でスキルの解除もありえないわ。しないっていうよりできないのよ。平行世界と繋げ続けることで魔王は魔王たりえるほどの強大な力を手に入れた。それゆえ、繋がりが深くなりすぎて自分からスキルを解除することはできない。』
「・・・・・・!」
『平行世界に存在する私たちの中で、勇者でなく、聖女でなく、魔帝でない、物語の
ゴミスキルだって今まで思って生きてきた。
だから、しょうがないって。諦めて生きてきた。
なんでこんなスキルで生まれてきたのだろうと考えない日はなかったくらいだ。
『確かに魔王を倒すだけならもっと別の可能性もあるかもしれない。だけど、私の世界も一緒に救える可能性があるのはここだけなの!この世界だけなの!』
俺はこの時のために、このスキルを持って生まれたのかもしれない。
『私に出来ることなんてもうほとんど終わっててこうやって残った意識であなたにアドバイスするくらいしかできないかもしれない!無茶なお願いをしてるって自分でも分かってる!でも―――』
幼い頃、英雄に憧れていた自分がいた。
だけど、それを言葉にはしなかった。
できやしないって、なれやしないって分かってたから。でも―――。
『魔王を倒す
でも、それが俺にしか出来ないってことなら。
「―――なってやるよ、
本でも読んだことがない。
ある日脳内に別世界の自分がやってきて魔王を倒してとお願いされて、それを承諾する英雄譚なんて。
物語はこの日を境に動き出した。
別世界の自分(女)に“英雄”を託されたけど俺モブよ!? ドラゴンスキー @dragonsuki
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