第19話:裁きの始まり
王都の中心、かつて栄光の聖女が賛美された大広間は、今や断罪の場として沈黙していた。荘厳な天井画も、重々しい石柱も、今日ばかりは冷たく感じられる。傍聴席には貴族や王国の重鎮、そして魔王クルーゼの側近たちが並び、法廷の空気は張りつめていた。
玉座のような裁判席に王が座り、左右には大司教と魔王クルーゼ。王の隣には、特別証人としてレティシアとセドリックの姿もあった。
そして、その中央。
鎖に繋がれた女――ミリアが立たされていた。
「……これは、間違っているわ。わたしは、皆を救おうと……そう、そう願っただけなのに」
彼女はそう呟きながらも、背筋を真っすぐ伸ばし、毅然とした表情を保とうとしていた。しかしその視線の奥には、かすかな怯えが見える。
(なぜ……なぜ誰も、わたしを信じてくれないの? あんな平民の女の言葉を……!)
ミリアの心の声は、冷たい現実に混乱していた。
王は静かに開廷を宣言した。
「旧聖女ミリアの裁判を開始する。罪状は、虚偽による信仰の強制、不当な神託の捏造、並びに脱獄と扇動による内乱未遂……」
読み上げられる罪状の数々に、傍聴席がざわついた。かつては「光の聖女」と讃えられた存在が、今や国家の敵として糾弾されているのだ。
「異議あり!」
ミリアが叫ぶように声を上げた。
「それらの罪状はすべて、わたしを貶めるための捏造よ! 本当に悪いのはあの女……レティシアよ! 彼女こそ、偽りの未来を語って王国を混乱させた張本人……!」
傍聴席にどよめきが走る。
だが、王もクルーゼも表情を変えなかった。すでに真実は――“未来から来た記憶”という特異な証言と、数々の証拠が出揃っていたのだ。
レティシアは一歩前に出て、冷静に語る。
「この世界は、元々“ゲームの中”だったの。あなたは、その中で暴走して世界を破滅させる“バッドエンド”の引き金……。だから私は、あなたを止めるために行動したのよ」
「そんな……妄言を……!」
(やめて……そんなの、みんな信じるわけない……)
心の中でそう叫ぶミリア。だが、傍聴席の視線は明らかに変わっていた。
冷たい――。
まるで、罪人を見る目だった。
「信仰は人を救うものだが、同時に縛るものでもある。お前は、その信仰の名のもとに、多くの者を支配し、苦しめた」
セドリックが告げたその言葉は、かつて彼女の信仰を支えていた騎士の言葉だった。
(やめて……やめて……そんな目で見ないで。わたしは、間違ってなんか……)
ミリアは震える唇を噛みしめた。
だが、彼女の言葉はもはや誰の心にも届いていなかった。
王は最後に静かに告げた。
「証言と証拠を確認し、明日の正午、判決を言い渡す。被告人ミリアは、それまで地下牢で待機とする」
鎖が引かれ、ミリアはゆっくりと引きずられていった。
その背に、もう聖なる輝きはなかった。
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