山岳の死神

天漿琴季

第一陣 防空戦闘の過ち

“鉄血山脈” 上空27000ft 合衆国支配領域


「イーグル1-1 ベルよりイーグル全機、マスターアーム オン」

「1-2リン copy」「1-3ポーター copy that」「1-4カイン copy that 」


4機のF-15Cがフィンガー4の編隊を組み、地上レーダーからの管制を受け交戦準備を整える

その強力なレーダーには、自軍より少ない3機の敵機が映っていた

連邦軍のSu-27S フランカーの小隊だ


「性能ではこちらに利があるが、全機舐めるなよ」


「ばーか、いまさらブリキ連邦軍機に負けるかよ」


「私語を慎め1-2」「んだポーター、小隊無線で私語なんかいつも通りだろ」

「ははは……」


そんな様子を気に留めず、隊長機はアフターバーナーを点火し、戦闘速度まで加速する

同時に空となった胴体下の増槽を投棄した


「敵機を落とすぞ。高度制限8000ft、雲より下には行くな。イーグル1-1エンゲージ」

「1-2エンゲージ」「1-3エンゲージ」「1-4エンゲージ」


続く3機も加速し、レーダーでそれぞれの目標を捉え、射撃トリガーに指を添えてタイミングを伺う


「イーグル1-1 FOX-3 ブルズアイ 202/22 リード」


「先手は貰った!あたしはトレイルを撃つ!」


「1-2 1-3 FOX-3 ブルズアイ 211/31 トレイル!」


早々とミサイルの応酬が繰り広げられ、戦場にはカウンターメジャーと噴煙の跡が残る

高空の飛行機雲は大きな旋回を繰り返しながらも次第に近づき、やがて


「距離が近い!回避機動を怠るな!気を抜けば落とされるぞ!」

「2サークルならイーグルに部がある!」


先手を打った利を活かし、フランカーが反撃体制を整える前に食って掛かる


「シーカーオープン!目標……ロック!1-2 FOX2!FOX2!」

「AIM-9M命中!命中!1-2 スプラッシュ1!」


「1-3、1-4は援護にあたります!状況を見て2機は離脱を!」


「やらせとけポーター。俺たちゃあんなヤバい空域に突っ込まず、戦場を客観視しとけばそれでいいんだ」


カインとコールしたパイロットがそう言うと、高度をおとし少数乱戦となった空域を監視している

そしてレーダーと戦場を交互に見つめると、2機でタイミングを合わせて突入進路を取り、ミサイルを放った


「1-3 1-4 FOX3!ブルズアイ 278/18!2機は離脱を!」


高度25000ft、マッハ1.5で放たれたAIM-120C AMRAAMのシーカーは目標を逃す事なく追尾し、発射から28秒後

その弾頭を炸裂させ、合衆国領へ侵入を試みた連邦軍機2機を撃墜した

黒煙を噴き上げ雲海へ突入する連邦軍機を視認するとイーグル隊の4機は慣れた手つきで編成を組み直し、進路を連邦領に向けた


「楽……てわけでもなかったな。フランカーとの2サークルファイトは肝が冷える」

「ターンファイトはファイターパイロットの華だろ?ったく、ベルは慎重すぎんだ」

「見てるこっちまでヒヤヒヤするんですから、1-2はもう少し慎みというものを……」

「まぁまぁ落ち着け。まだ増槽はタプタプ、ミサイルも6発残ってるんだ」


なあ隊長さんと問うと、ベルは短く返答してから口を開いた


「イーグルは任務を攻勢対防空作戦へと移行、目標を敵航空戦力撃滅とする」

「つまり戦果の拡張って訳だ。旧式機を叩き落とす楽な仕事だぜ」


余裕をこいた口調で機体を飛ばすリンと、それに同調する3人

事前のブリーフィングで、「想定される敵はSu-27S、MiG-29のみ」と説明されていたからこその、この空域に自機より性能の高い敵機が存在しないと言う慢心が

彼らに、死をもたらすこととなった


「地上管制よりイーグル!ボギー出現!ブルズアイ119/9!高度1200ftから急上昇中!」


「9マイル?!目と鼻の先じゃねぇか!」


「ミサイルローンチ!ブレイクブレイク!」

「1-1ブレイク!ブレイク」「1-2回避回避回避!」

「1-3ブレイク!チャフ全弾打ち尽くせ!」「1-4回避回避!クソどっから出て来やがっ」


「1-4ロスト!撃墜された!」

「敵機はどこだ!機種は!」

「9マイルからのミサイル!それも雲の下から正確に突き上げてきた?!」


イーグルが編隊を解き各個の回避機動に入るも、9マイルと言う至近距離から放たれたミサイルは、反撃の隙もなく飛来する


「敵機は……Su-30!まずいもう至近距離に!」


回避しつつ乱暴に報告した1-3は、途切れ途切れの息で喋り続ける


「ケツに付かれた!フレアフレアフレア!あああッ!」

「落ち着け1-3!高度を落とすな!無駄に機体を振って速度を削るな!」

「敵機ミサイル発射!1-3回避しろ!回避回避回避!」

「1-3被弾す」


無惨にも最後の言葉を言い切ることもできず、Su-30から放たれたR-77は機体下面へと突き刺さり、十数メートルの巨体を木っ端微塵に破砕した


「サイドワインダーはもうない!AMRAAMの距離じゃない!2v1に持ち込むぞ!」

「言われなくても!」


ミサイルを間一髪で避けた2機は再び攻勢に移ると、雲海を滑る様に飛ぶ黒いSu-30へと急降下する

エアインテークに据え付けられたM61A1バルカンが猛烈な火を放ち、徹甲曳光弾を雲海へと叩きつけるも、Su-30は風に揉まれる木の葉の様に機体を翻すと、2機と進路を合わせる

黒灰色の海中を、3機の怪鳥が組み合う様に地表へ向けて急降下、ついにはバラバラに引き起こすも、最も最後に操縦桿を引いたベルは、ついに雲海の下へと抜け出した


「雲海の盾を……ッ!まずい!」


バーナーへと点火、70度の上昇角で再び上昇へと転じるも


「地対空ミサイルッ!」


すでに、生還のチャンスは失っていた

連邦軍の対空陣地から放たれた4発のストレラ対空ミサイルは、虚しくも雲海へと手を伸ばしたF-15へと喰らいつき

その機体へと次々に突き刺さり、爆炎となった機体は果たして雲海に辿り着くことなく爆散した


「イーグル1-1ロスト!ベルが落とされた」

「なんだってんだこのフランカーは!どうやってこの雲海からアタシ達を見つけた!なんでさっさと空戦に参加しなかった!」


F-15の各所が高G機動に悲鳴をあげ、それでも依然としてフランカーは彼女の旋回半径の内側へと入り込む

増槽はもちろん、AMRAAMすら投棄したにもかかわらず、フランカーはその努力を嘲笑うかの様に機体を翻し、そのレーダーが、パイロットがF-15を捉える

リンは持てる空戦技術を、これまでの人生の結晶を注ぎ込むもその全てが圧倒的な機体性能差に捻り潰される。遂に6時を取られたF-15に、最後の時が降りかかった

Su-30の機首左に取り付けられたGSh-30-1から、暴力的な30mm焼夷榴弾が連続して放たれ、まるでミシンの様にF-15の機体上面を撫でる


「化け物が……」


震えた声で、震えた瞳が見据えたその先には

燦々と降り注ぐ30mm機関砲の弾丸と、そしてひどく対照的に冷たい、フランカーパイロットの視線があった



━━━━━━━━━━━━━━┫



雲海をすべる黒いSu-30SM2。その機首には白く縁取られた青い00の数字が刻まれている

そのフランカーはゆっくりと機首を下げ、雲海へと包み込まれていった

この鉄血山脈は、文字通り錆鉄と流血で創られている

今日もまた、錆びた血が一段と深みを色を増していた


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山岳の死神 天漿琴季 @Kaltzaf

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