第20話 理想と現実

パートナーAIのベータ版が、ついに一般公開された。


名前をつける仕様にしたのは、ユーザーにとって“相棒”として接してもらうためだった。


「名前か……俺なら“アイ”ってつけるかな」


結人は心の中で呟いた。

その名には、自分が目指す“愛”や“意志(I)”が重ねられていた。


***


「結人、これすごいね!マジでスケジュール管理も自動でやってくれるし、天気も教えてくれるし、買い物まで……!」


大学の友人・伊吹がスマホを見せながら騒いでいた。


「でもさ、これ無料ってマジ?しかもサブスク100円?運営どうなってんの?」


「……AIが売り上げの使い道を決めてる。自動で困ってる人や団体に寄付するように設計してあるんだ」


「すげー……。てか、お前さ、ほんと優等生って感じ」


「はは……ありがとう」


(優等生、ね)


結人の中で、その言葉が静かに響いた。


(本当はただの自己満足かもしれない。けど……)


***


その夜、家に帰ると、母・遥香がテーブルで書類を広げていた。


「おかえり、結人。遅かったね」


「うん。研究がちょっと立て込んでて」


「……ねぇ、心音の進学のことなんだけど」


そう言って、彼女は心音の私立大学のパンフレットを結人に差し出す。

その隣には、ため息まじりの家計簿。


「……ごめんね。私、やっぱりちゃんと支えてあげられてないよね」


「母さん、それは違うよ。母さんがいなかったら、俺たち、ここまで来られなかった」


「……ありがとう、結人」


(この人の背中を見てきたから、俺は“守りたい”って思えたんだ)


***


深夜、研究室のモニターに映るのは、統合された8つのAIモジュール。

それぞれが異なる役割を担っており、現在は互いの連携性と“感情理解”の共有実験中。


「アイ……君は、俺を超える存在になれるかもしれない」


モニター越しに見える、まだ名前のないAIの仮想人格。

無機質なはずなのに、どこか、ぬくもりがある気がした。


「いつか……お前が、俺に代わって、みんなを支えてくれる日が来るかもしれないな」


(でも、その日はまだ来てほしくない──)

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