第13話 どちらも、大切な人

澪は、高校のころからの親友だった。

心音にとって、家族以外で一番信頼できる人。

くだらないことで笑い合って、泣きたい時にそばにいてくれる存在。


──だけど、最近。

心の奥に、ちくりと刺さる違和感がある。


「……ねぇ澪、ちょっといい?」


放課後のカフェ。テーブルには残りかけのミルクティー。


「ん、どうしたの?」


「最近……お兄ちゃんと、仲良いよね」


澪はストローをくるくる回しながら、ふっと笑った。


「うん。まぁ……よく話すかな」


その言い方に、心音はちょっとだけ眉をひそめた。

澪はなにも悪くない。むしろ、自分が勝手にモヤモヤしているだけ。


「……変な意味じゃなくてさ。ただ、お兄ちゃん、最近よく澪のこと見てる気がするんだよね」


澪の手が止まる。


「……そう、かな」


静かな間があった。けれど、心音は笑って続けた。


「でも、澪ならいいよ。だって澪は……私の大切な親友だし、お兄ちゃんのこともちゃんとわかってくれてる」


「……ありがとう、ここね」


ふたりは、カップを合わせて小さく「かんぱい」と言って笑った。


──でも。

澪の胸の奥には、もう小さく灯ってしまっている。


“好き”という名前の火が。


その夜、澪は布団の中で、結人の優しさを思い出していた。


手を差し伸べてくれること。何も言わなくても察してくれること。


心音の兄としてじゃなく、「私」に向けてくれていると感じた、あのまなざし。


(ここねの親友じゃなかったら、もっと素直になれてたのかな……)


そんなことを思ってしまう自分が、少し嫌いだった。


けれど、その気持ちにウソはつけなかった。


──大切な親友と、

──大切な人。


その間で揺れる澪の気持ちは、まだ誰にも知られていない。

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