サイダーの記憶
kukii
第1話
風がさらさらと吹いている。窓の外を眺めていると、高橋先生が感動的な朗読をしている。まるで3年前のようだ。声はぼつぼつ耳に入ってくるが、さっきの卒業式でもう泣いたから、もう感動しないよ…でも、今日はちょっと変だ。いつもなら泉が飲み物を持ってきてくれるのに、今朝はいつもの無表情だったけど…
「ね!源希ちゃん、泉のこと考えてる?」
前の席の人が首を回して、僕に訊いた。
「違うよ…莉子、君の目が真っ赤だよ。」
目の前の見慣れた顔に、いつもは見られない紅潮が広がっていた。
「源希ちゃんだってそうじゃないの。うう、もう君に会えないかもしれないよ!私がいなくなったら、必ず思い出してね…」
莉子はわざとしわ寄せて、すすり泣くような声を出した。
「そんなに大げさなことないよ…」
「じっと見てるよ——どうせ源希ちゃんは泉がいるから、大学に行っても続けるんでしょ…え?今日の飲み物は?」
「知らないな。」
「いいな~泉は君のことすごく愛してるのね。だからもう10年近くだよね…」
「そんなこと言わないで…」
実は、泉が大学に合格できなかったことを、莉子には言えなかった。クラスで仲のいい友達は、泉もきっと自分と同じ大学に行くだろうと思い込んでいて、僕はいつも心虚しく答えるばかりだった…幸い泉は少ししか話さないし、同じクラスでもないから。
そういえば、彼女と同じ学校に通っていた10年以上の記録も、これで途切れることになる。少し悲しいな…
「これからは私のパーティーの誘いを断ったりしないでね!怒るから!」
「…気分次第だな。」
少し首を振って、莉子を見るのが怖かった…3年前入学したとき、泉は「高校生は恋愛禁止」と真剣に言って、いろんな異性がいる集まりに行くのを止めていた。今はもう卒業したから、きっと、大丈夫だよね…
「またこんな顔して…ああ、最後に一言言うけど、頭の中いっぱい泉ばかりじゃないでね。」
「そんな…」
反論できないから、莉子が席を立って教室から出ていくのを見ていた。入学したときより、莉子はずっと明るくなり、背も少し高くなった。3年間同じクラスだったのに、今分かれるとなると、少し慣れなくなってきた。
ゆっくりと、この学校で最後の痕跡を片付けていた。
「3年間お世話になりました、莉子さん。」
「うん、お世話になりました、源希ちゃん!」
---
人混みの中を歩いていると、一番多く聞くのはもちろんさまざまな別れの言葉だった:
「さよなら!」
悲しい…
「明日また一緒に遊ぼう!」
切ない…
「同じ大学で本当によかった!」
もう言わないで…
早足で誰もいない場所に逃げ込んだ…いつもは絶対に来ない自動販売機の場所だ。そうだ、泉は…もう会えないのかな、どうせ彼女がこの高校に来たのも不思議だったし、家はここから遠いのに。
自動販売機にもたれかかって、ああ…自分はいつも泉のことを心配していると言っているけど、結局は…泉は恋愛什么的したくないのかな。
気分がだんだん落ち込んで、目を閉じた。10年前の記憶が頭に浮かんできた:当時は泉の方が背が低かったし、ただ数回会った程度だった。泉の両親に頼まれて、彼女と遊びに来たのだ。
「前村さん?なんでサイダーを持ってるの?」
半袖を着た桐生泉が言った。無表情だったが、それが彼女の最初の印象だった。
「君、中暑しそうだったから、どうぞ。」
水気の滴る瓶を彼女に渡した。
「…ありがとう。」
最初は彼女が頭がいい、理性的で、勇敢な人だと思っていた。だが10年間で、この変人はいつも自分の常識を覆してくれる:セミは怖くないのに、セミの抜け殻が怖い。人付き合いが上手そうに見えても、見知らぬ人には一言も話さない。明らかに人気があるのに、いつも自分を理由に…
そんなことを思っていると、風が吹いてきて、思わず腕を組んだ。突然、頬に冷たい痛みが走り、反射的に横に身を寄せると、清瘦な影が自分を覆っていた…泉が半袖を着て、サイダーを持っていた。
「驚いた…どうしてここにいるの?」
サイダーを受け取ると…なんだか懐かしい?その時彼女に買ってあげたのと同じ種類だった。
「直感?」
「泉の直感?全然頼りにならないよ…」
下を向いてサイダーを見ていると、突然泉の手が視界に入ってきて、あ、サイダーを取られた…
「…どうしたの?」
不思議に思って訊くと、泉はサイダーを頭上にかざして、「届かないでしょ」と得意そうな表情をしていた。悪いな、彼女が背が高くなってからは、よくこんなふうにからかわれる…
「返してよ——」
足をかがめて伸ばすと、あと少し…
突然、唇に柔らかくて冷たい触感がして、反射的に放って、泉の腕の中に落ちた。彼女は片手で肩を抱きかかえて、距離をなくした。
…羞恥心が一瞬で全身に広がった…
「…顔赤いよ、源希。」
一瞬で離れると、彼女は笑いながら頭を撫でた。
「場所を考えろよ…いきなり何してるの…」
彼女を押し返すと…心臓がどうにかなりそうだ。
「何を怖がってるの?初めてじゃないし…」
泉の顔には計略得逞ったような表情が浮かんでいた。
「あああ…黙ってて…」
彼女の言葉で1年前の夏休みを思い出した。その時はただ騙されただけだ…ただ友達同士だから、普通だよ!
「源希、これ。」
彼女はポケットの中を探って、メモ用紙を取り出した。
「どうぞ。」
受け取ると、上には「今日はオムライスが食べたい」と書いてあった。
「…じゃあ近くのファミレスに行く?」
「うちに来て。」
泉はそう言うと、外に出ていった。
「待って、」
校門を出ると、泉は逆方向に向かっていった…
「方向違うよ!ね!」
泉はまるで聞いていないかのようだが、ゆっくりと足を止めて、振り返って僕を見ていた。
彼女の姿を眺めていると、なぜか安心感が湧いてきた。
後ろからついていくと、たくさんの人々が通っていた。制服を着た人、職場の制服を着た人、普通の服を着た人…この道は知らないが、数日前大学を見学した時に通った道のような気がする。
地下鉄に乗ると、家からはますます遠くなるのに、自分の合格した大学には近づいていた。泉の服を引っ張って、訊いた:
「大学はもう見学したのに、どこに行くの?」
「え——そうだな…忘れた。」
泉は首を振って、ぎこちなく頬を掻いた。
「…君、嘘が下手だと言ったでしょ?」
「違うよ…」
ため息をついて、また彼女を見た。じっと見つめても、彼女は気にしないだろう、毕竟这么多年了。ずっと訊きたくなかったことを、口にした:
「…泉、卒業したら何するの?」
「適当に、親と同じようなことかな。」
「そうなんだ。」
少しの間、空気が沈んだ。
「…あっ、源希、大学に行っても人が多い集まりに行かないで、約束して。」
泉は多分前回のように、ポケットからキャンディを取り出そうとしていた。
今日はそんなに甘くはしない。
「今度は理由を言ってくれたら約束する。」
「…」
「源希は単純だから、騙されやすいんだ…特に誰かに頼まれると、何も考えずに承諾しちゃうから。」
「…分かった。で、恋愛は?」
緊張しながら呼吸をして、彼女の反応を待っていた…泉は意外そうな表情をして、少し真剣になった。
「ダメ…こう言ったら承諾する?」
「わかったよ、冗談だった。」
会話は突然止まり、地下鉄は泉の目的地に着いた。彼女は慎重に自分の手に触れて、それから握り返して、外に引っ張っていった。
今日の泉は変だけど、一番変なのは自分の突然静かになった心だ。静かに、ただ二人の手の間の優しい触感だけを感じている。やっぱり、泉がいると安心する。
「着いた。」
目の前には少し古いビルがあり、ここは大学から意外と近かった。
「…」
泉は自分を見て、一瞬黙った。それから口を開いた:
「源希、これからの何十年もよろしく。」
鍵を一つ手に塞いでくれた。それを見て、なかなか言葉が出てこなかった。
「…驚かせないでよ…」
「安心しろ、俺にオムライスを作ってくれるなら、これからも飲み物は続けるよ。」
泉はサイダーを渡してきた。
飲み物を受け取って、ボトルをしっかり握った…
「うん。」
サイダーの記憶 kukii @kukii
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