第53話 灰色の空に差し込む光
声が届いた瞬間、私の胸の奥が僅かに熱くなった。何度も祈り続けて……でも届かないんじゃないかと思っていた。ずっと待ち焦がれていた声。
その声を、音を、聞いた時痛みも恐怖もほんの一瞬だけ消えた気がした。私はもう一度……私の神様の名前を呼んだ。
「っ……蓮華……様……」
「やめろ……やめてくれ……その名を呼ばないでくれ……!」
私の手を掴んでいた久遠様の指先が小さく震えまるで奪われる事を恐れる子供のような……そんな歪んだ感情を露わにしていた。
「お主は……お主はここで咲けばいい……!我はもう二度と奪われない……もう二度と……!」
「っ……助けて……」
私の小さな声に反応したかのように光は揺らめき灰色の世界に色が差した。そして私の背後から柔らかな温もりを感じ、見上げれば会いたくて、ずっと待っていた私の神様が立っていた。
「……その手を離せ久遠。」
その声は弱っているはずの身体から絞り出されたはずなのに……どこまでも揺るぎがなく真っ直ぐな意志を感じ取れる声だった。
「っ……蓮華……お主はまた……また我から奪うのか……!」
「もう一度告げる。紫苑の手を離せ。」
いつもとは違う、静かな怒りを含んだ蓮華様の声。服は所々裂けていて顔や身体にはまだ痛々しい傷が残っている。神気もいつもより弱っているはずなのに私に触れている光は一滴も衰えてないかのように温かかった。
「何故……何故だ蓮華……我はただ……光を失いたくないだけだ……!」
「久遠。もうやめろ……その手を離せ」
久遠様は私の手を離すことは無く、まるで壊れた祈りかのように言葉を紡ぎ続けた。灰色の神域は揺れ空がひび割れ黒い風が渦を巻き始めた。
「っ……やめて……やめてください……久遠様……!」
「っ……久遠……!」
蓮華様から光が放たれれば久遠様は漸く私の手を離し目を押えながら苦しそうにしていた。私は手を軽くさすりながら小さく息を吐き蓮華様の隣へ立った。
「……蓮華様……」
「もう大丈夫だ。久遠……裁きを受ける覚悟は出来ているな?」
「……何故だ蓮華……何故……!いつまでも彼岸のように遠いのだ……!」
「遠ざかったのは私では無い。お前の心だ久遠……紫苑を傷つけるお前の手を私が私が許すと思っているのか」
その言葉はまるで久遠様に刺さったかのようで苦痛に顔を歪ませていた。神域に吹き荒れる黒い渦は久遠様の心を表しているようで……
「っ……蓮華様……」
「……紫苑。必ず連れて帰る。だから安心していい……私が必ず守ろう」
その言葉は祈りであり誓いであり……そして私だけに向けられた愛そのものだった。
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