第30話 届いた文は


あの神量りから数日が経ち、私たちは穏やかな日々を過ごしていた。鳥のさえずりを聞き偶に聞こえる村の人たちの声を聞き。でも会いに行こうと思えなくて。でもたまに…たまに妹には会いたくなる。


「……黎那…元気だといいけれど……」


「花嫁様。こちら花嫁様へ届いた文でございます。」


「私に…?一体誰が……」


私は文を受けとり宛名を確認した。そこには黎那……つまり私の妹の名前が書かれていて目を見開いた。その様子を見た白耀さんは笑みを浮かべた。


「本来なら花嫁様に文が届くことは無いのですが……この文だけは強い願いが込められているみたいでしたので私の方で回収致しました」


「……ありがとうございます白耀さん。私の大切な……大切な妹からの文みたいです」


私がそう告げれば白耀さんは笑みを浮かべ私に軽く頭を下げてから奥の方へと戻って行った。私は小さく息を吐いたあと文を開いた。


【お姉様。この文が届くかどうかは分かりませんがどうか届くことを祈って…私はこの間とある方と婚約致しました。お会いして、お話を聞いてとても優しい方なんだと思いました。この方となら幸せになれるとそう感じました…どうかお姉様も土地神様とどうかお幸せに。】


私は文を読んで小さく笑みを浮かべた。良かった黎那も幸せになれるんだ……私はそっと目を閉じ黎那の姿を思い出していた。優しくて温かくて……強い心も持つ私の可愛い妹。どうか…どうかこの地から離れても幸せになりますように



「おや……紫苑。その文は?」


「…白耀さんが届けてくれたんです。妹からの文を。」


「へぇ……婚約か。良かったね紫苑」


「えぇ……とても気になっていたので近況が知れてよかった……」


私の言葉に蓮華様は笑みを浮かべていた。私もつられて笑みを浮かべた。でもそれと同時に1つの考えがでてきた。この婚約が無事に進み黎那が嫁げば家はどうなるのだろう……確か天咲の家には跡継ぎは居なかったはず……私自身兄や弟が居るだなんて話は聞いたことがない。


「紫苑?なにか気になることでもあるのかい?」


「……妹が幸せになるのはとても嬉しいんです。あの子は私の大切な妹ですから……でも妹が家を出ると跡継ぎが居ないのでどうなるのかなと……」


「このまま衰退を辿るのかどうかは彼ら次第だろうね。」


「……そうですよね。ごめんなさい久しぶりに妹の事を思い出してしまったので」


「気にしなくていいよ。ほら白耀が食事を用意して待ってくれている。一緒に行こう」


「…そうですね。行きましょうか」


私は笑みを浮かべながらそう告げた。どうか黎那が幸せな日々を過ごせますようにと心で祈りながら。


でも私はまだこの時は思いもしなかった。お母様やお父様が……あんな事をするだなんて。

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