第23話
「「本当に付き合ってないの!?」」
「え……えっと……どうしたの?二人して。」
あれから数日後
学校のカフェテリアでお昼を食べていると
エディとフローネにそう言って詰め寄られた。
というかいつの間に仲良くなったのかしら、この二人……。
「最近ルナが東洋人らしき男の子と歩いてるのよく見るの!前に泊まりにいったのっておそらくあの人の家だよね!」
「え……えぇ、セツナの家にはよくお世話に……。」
「ルナっ泊まりに行ったって……友達だって言ってたじゃないか!いや、この前一緒に帰っていたし……もしかしてもう……。」
「え?セツナは友達よ。」
「嘘だぁ!ルナ、ちょっとヒマワリちゃん呼んできて!」
「えっ?さすがにそれは……。」
今は狐化して私のバッグの中でスヤスヤ眠っている。
これを起こすわけにもましてや人化なんてこんな人の多いカフェテリアではさせられない。
「何本気にしてるの、可愛いなぁ。しかしこれはそのセツナ君のアピールが足りないとみた。」
「アピール?何の?」
「アピールしてもルナにはなかなか分かってもらえないよ、フローネ。」
「うんうん、大変だったね。エディ君。」
そう言ってポンポンとエディの肩を叩くフローネ……。
「えっと……二人して何の話を。」
「よし、ルナ。質問の方向を変えよう。ルナは彼氏が欲しい?」
「え?うーん……。」
「なぜそこで悩む……。」
「今までお付き合いってしたことなかったからどういう感じなのか想像出来なくて……!?」
途端、フローネに肩を掴まれた。
「ルナ!何があったの!?いつものルナだったら「今は勉強のことで頭がいっぱいで〜。」とか「彼氏なんて私には勿体ないよ〜。」とか言ってたのに……何があったの!?この短・期・間!!!」
「別に何もないわ。勉強も大事だけど他のことにも余裕を持ってやっていこうかなって思ってるだけで……。」
「まあ確かに前のルナは余裕ないというかいつも忙しそうというか自分のことは二の次というか……うん、いい変化ではある。それはもしやそのセツナ君の影響だったりするんじゃない?」
「え?セツナ?うーん、セツナも確かにそうかもしれないけどここのところ色々な人に会ってきたからその影響もあるかも……。」
マスターから始まってヒマワリ、セツナ、テンバ先生。
そこからまたアルジ達とも出会えたわけで……。
誰一人欠けてたら今の私は形成されないわけで……。
「色々な人って……本当に何があったの?大学デビュー?大学生を機に生まれ変わろうとか?」
「たまたま時期が合致しただけよ。 」
「うーむ……。」
フローネは顎に手を当てて何か考え込み……。
「誰かと付き合いたいという気持ちはある……。」
「ま……まあ将来的には。」
そうは言っても少なくとも裏世のことを受け入れてくれる人じゃないと難しいわよね。
「よし、お試し期間でエディ君は?」
「フローネ、軽い気持ちで俺の心を抉るのやめて……。」
「エディは友達よ?友達にそんなことさせるわけにはいかないわ。」
「ルナも追い討ちかけないで……。」
「えっ?追い討ち?」
かけたつもりはないんだけど。
「ルナ、やめてあけで。エディ君のライフはもうゼロよ。」
「私、何もした覚えはないんだけど。」
「これだから天然は……そうだ!下着!下着について何か感想貰えた?」
「し……ししし下着!?こ……これ、俺が聞いていいの?いや……でも……。」
そう言いながらエディは耳を両手で押さえたり離したりしてる。
「えっと……良いデザインって言われたかなぁ。ダイタンなようで清楚で……とか?」
確かそういうふうにミオさん言ってたような……。
「私の目に狂いはなかったな……お幸せに。」
「ルナ……君が幸せなら俺は……。」
「えっと……。」
何で二人して糸の切れた人形みたいに伏してるのかしら。
お店にて……
「天然って怖いわね。」
リッカさんはそう言って鮭のムニエルを口に運ぶ。
「えっと……養殖の方がよかったですか?」
「魚の話をしているんじゃないわよ。この天然記念物。」
「はい?」
リッカさんは機嫌悪そうに言いながらも魚の乗ったお皿を綺麗にしていく。
「何で会う度、天然に拍車がかかってるのかしら。母親だけでなく父親まで取り込んでいるんじゃないでしょうね。」
「えっと……そういうのあるんですか?」
「冗談よ。浄化の他に吸収の能力まで開花させられちゃたまらないもの。」
「はぁ……。」
リッカさんは落ち着いたのかナイフとフォークを置いて私を見る。
「けどまあこのままじゃくっつくものもくっつかないわね。男は嫌いだけど男がいないと可愛い私好みが生まれないもの。ねぇ、あなた本当に自分の気持ちに気づいてないの?」
「自分の気持ち……ですか?」
「まあ、過ぎる時間が長かったもの。大体私と出会った辺りの話は早めに作者がくっつけさせようとしてたけどそっからまた話が膨らみ始めて恋愛小説が全く別物のジャンルになりかけてたんだから。やっと軌道修正し始めようとしてるの。少しは乗ってあげてちょうだい。」
「えっと……どういうことでしょうか。」
マスターは私達のやり取りを見ながらクスクスと笑っている。
「一葉、あなたも傍観してないでさっさとあっちをたきつけてきなさいよ。」
「全く、そういうのは急かしてもいいことはないよ。そういうわけだから六花ちゃん、完全に酔ってるってことで今日はお酒終わりね。」
「情報提供して食事の代金払ったのにお酒も飲ませてくれないなんて……店ごと潰れろ。」
「うわぁ、本当に珍しく悪酔いしてるなぁ。ほらほら、ベッドはあっちだよ。」
「ちょっと待ちなさい!私悪酔いなんて!」
マスターはひょいと六花さんを抱えて奥の部屋へ入っていった。
「えっと……。」
何だったのかしら。
「何かあったん?六花ちゃん、普通あそこまで酔ったりせんっちゃけど。」
ウノハさんはそう言いながら食事を再開させる。
「ルナちゃん、好きな人できたん?」
「え!?いえ、そういうことでは……。あの、ウノハさん。」
「ん?」
「ウノハさんはどうやってハルキさんと出会ったんですか?」
「どうしたん?いきなり。」
「いえ、以前テンバ先生からウノハさんがいつの間にか婚約者連れてきてたって言ってたので……あと付き合う男性の見極めとかはウノハさんに聞いた方がいいとか……。色々と今後の参考にできればと。」
「何?母さんそげなこと言いよったん?見極め言ってもお互いウマが合っただけやし、結婚相手を選ばれるよりは選びたいやん。羽琉貴さんとは青龍の経営してる博物館で会ったんよ。そっから。そげん参考になるもんでもなかよ。」
「はぁ……選ばれるよりは選びたい……ですか。」
「刃さんや澪さんみたいな婚約関係なら幸せやろうけどね。でもそういうの稀なんよ。根本は貴族の存続や保身のためのもので……もちろんそのために産まれてきたわけなんやけど……っていう考え方をしたくないんよ。大事なことでもあるけどでも私は私、一個人で好きにさせて欲しいってね。周囲でどうこう決める考え方はもう終わったんよ。」
何か時代開拓者みたいな言葉だ。
「やけん、まあなにあったか詳しくは分からんけど彼氏出来たら教えてね。」
「はい。」
とりあえずマイペースで行けばいいってことよね。
次の日……。
朝、テンバ先生の研究室に行くと
「あっ、ルナ。おはよう。」
「セツナ、おはよう。何読んでるの?」
セツナが読んでいた本はいつもの学術本のようなものとは違い
写真が多く載っていた。
まるでガイドブックのような……。
「これ、八重から君にだよ。」
見ればセツナの隣には似たような本が十冊ほどあるだろうか……積み上げられていた。
って……。
「ヤエさん?」
「君が裏世のことをあまり知らないからってことでガイドブックを送ってきたらしい。言語置換結界はかけておいたからもう読めるはずだよ。」
「そんなわざわざ……うわぁ、綺麗。」
試しに一番上のガイドブックを開いてパラパラめくると湖や洞窟やそういうパワースポットみたいな所が写っていた。
「暁にあるパワースポットだね。恋愛成就とか必勝祈願とか……。あっ、明陽神社もあるよ。」
「あっ、本当だ。癒神の祀られている大社……。やっぱりあそこってすごく大きいのね。」
「どこか行ってみたいところはある?」
「そうね……ってそういえば私って神社以外の場所って行けないんだった。」
「あっすまない……そうだったね。」
せっかくヤエさんが送ってくれたのに……。
そうだ!
「ねぇ、セツナは遠見の魔法とか使える?」
「遠見かい?」
「えぇ、ママはそれで裏世を見たりするって言ってたんだけど。そういうので観光気分だけでも味わえるかなぁって。」
「うーん、神様のものと一緒にしていいかは分からないけど動物の眼と同化してその景色を見ることなら出来るよ。さすがに相当懐いている動物じゃないと難しいけど。」
「そんなこと出来るの?」
「私ができるのは黒百合と白梅だけだけどね。詳しくは戦羅さんに聞いたらいいよ。」
というわけで……。
夢の中
いつものリビングにて二人に説明。
「そういうことでしたら菖蒲の出番ですね。」
「え?アヤメ?」
「菖蒲がルナ様になって行けば全て解決です。遠見の魔法とやっていることは変わりませんし神社の結界破りのご法度にも触れていません。それコンコンっと🎶」
そう言ってアヤメが風に巻かれたかと思うと。
「私?」
目の前には私が立っていた。
……ただし狐の耳はついたまま。
尻尾はついていない。
「まあ、耳は帽子でどうとでもなりますとも。どうですか?ルナ様、どこか他におかしな所はありますか?」
アヤメは私の声で手を上げたり下げたり、その場でくるんとまわったりしてる。
「いや、どこからどう見ても私……アヤメって他の人にも変身できるのね。」
「もちろん!狐ですから。」
「それで、これでどうやるの?」
「簡単に言えば身体は菖蒲で中身をルナにするのですよ。」
「ど……どういうこと?」
「試しにやってみた方が早いですね。ルナ様、そちらにまずはおかけ下さい。」
私は言われた通りにソファーに座る。
「目を瞑って……体内の魔力を循環させてください。そしてその魔力が徐々に中心に集まるように……そうです。そして目の前にいる菖蒲に向けるような形にしてください。ボールを投げるように。……成功です。切り替えますね。」
「えっ……?」
目を開けるとそこには目を瞑ったままの私。
頭の上に手を載せるとピコピコと狐の耳が動いている。
ママは私のそんな姿にニコニコしている。
「今、身体は菖蒲、精神はルナになっています。」
「アヤメは?アヤメの精神は?」
「心配要らずとも精神の深いところで眠っています。」
「えっと……。」
何がなにやら。
「とりあえずこの状態なら明陽神社の外を歩くことも可能です。菖蒲は明陽神社の使者ですから。」
ママはそのまま説明を続ける。
「でもこれをするにはアヤメを現実世界に出すってことよね?そんなことできるの?」
「えぇ、今のあなたなら出来ます。現に菖蒲の尻尾は人化した時点でしまえるくらいになっているのですから。そのように出来るのもあなたの魔力が強くなっているおかげですよ。そうですね、不安ならば現界場所は明陽神社の裏本殿になさいな。あそこが一番魔力の恩恵を受けやすいですから。」
「それでこれってどうやったら戻るの?」
「簡単です。」
そう言ってママは目を瞑ったままの私の身体を軽く揺する。
「あっ……。」
一瞬で視界が切り替わった。
目の前には私の姿になったアヤメがいる。
「ルナ様、もうよろしいのですか?」
「え……えぇ。びっくりした……こんなに簡単に。」
「はい、元の肉体になんらかの衝撃を与えれば精神をすぐに戻すことが可能です。精神を菖蒲と繋げている時は無防備ですから。」
「なるほど……確かに衝撃をあまり与えられないようにするためにも人が来ない裏本殿の方がいいわね。ママ、ありがとう。アヤメ、当日はよろしくね。」
そして週末
裏本殿にて……。
「よし、成功。」
私は帽子を被って裏本殿から出た。
「ルナ、本当に大丈夫?」
外で待っていたセツナは心配そうに私を見る。
「とりあえず出てみないと何とも……。」
「なに、明陽神社の使者の身体なら問題なかろう。道中気をつけて楽しんでこい。」
「うん、ありがとう主。行ってきます。」
私とセツナは結界をくぐり抜けた。
「わあっ!!!」
着いた湖には陽の光が当たってキラキラ輝き
湖面は水色だけではなくピンク、黄色、紫など色鮮やかに変わっていく。
「どうなってるの?これ。」
「裏世の鉱石の一つに彩珠石(さいじゅせき)っていうのがあってね。ここはそれが多く採掘できる場所で湖の底にもあるんだ。光を当てれば七色に光る石だよ。それがあってかここはカラフルな土産物が多いみたいだね。」
確かに周りを見てみると
ワゴンにはレインボーアイス、レインボーチュロスといった色鮮やかなお菓子が並び
土産物屋らしき建物の屋根や壁は七色に彩られていた。
周りにいる人達はカラフルなものに身を包み写真や動画を撮っている。
「ここはどんなご利益があるのかしら。」
「恋愛成就とか言われてるけど……来ているのはカップルが多いみたいだね。こういう所だから若者の割合が多いんだろう。」
「恋愛か……。」
周りから見たら私とセツナもカップルみたいに見えるのかしら。
って私ったら何考えて……。
「ルナ?顔が赤いけどどうかした?」
「えっ?そんな気のせいよ。せっかく来たんだしお土産物屋さんでも見に行きましょう。」
そしてセツナと他にも色々なところを廻った。
「ここは願いの社。中をくぐりながら願い事をすると叶うと言われているんだ。」
「金守泉(かねもりのいずみ)、見た通りお金の投げ入れられている泉……金運アップの御加護があるんだって。」
「ここは武術の神様が祀られている神社。もしかして戦羅さんとも関わりがあるかもね。」
そして……。
「時間的にここが最後かな。ここも恋愛とかいわく付きになっちゃったけど……恋路岬(こいじみさき)、ここで夕日を沈むのを見たカップルは幸せになるとか……まあ言っちゃえば兄様が改めて澪さんにプロポーズしたのもここらしい。」
時間帯はちょうど水平線に日が沈む頃だった。
「すごく綺麗……セツナ、今日は色々なところを案内してくれてありがとう。」
「いや……君が望むなら他にも色々なところへ連れていきたいと思う。一緒に……これからも……。」
セツナは私の目を真っ直ぐに見る。
「ルナ……私と……」
その時身体に衝撃が走って
「えっ?」
「戻ってきた……。あなた正気!?一体何をしたの?魂が半分に分かれているんですのよ!」
「え……えっ!?」
気づけばそこは明陽神社の裏本殿で
私はヤエさんに揺り動かされていた。
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