第22話
そしてそれからアルジは会議に戻り、セツナがヤイバさん達に連絡をとってくれ……。
「ルナちゃーん!戻ってよかった〜!!!!」
「むぐっ!!!」
「み……澪、ルナ君が潰れるから手加減してあげて。」
二人は明陽神社に来てくれた。
「本当に戦羅様になったときはどうしたものかと思ってたんだけど……とりあえず魔力も回復してるようで良かったわぁ。」
そしてミオさんは抱きつきから頭ナデナデにシフトチェンジ。
「ご……ご迷惑をおかけしました。というか母と会ったんですか?」
「君の父上の葬儀の時にね。」
「えっ!?パパの!?忙しいのにわざわざありがとうございました。」
「君のおかげでこの領土は変わらず安泰だ。恩恵を受けている分せめて手向けの花くらいはと思ってね。」
「安泰……ですか?」
「戦羅神から君に変わってもということだよ。神の世代交代は容易じゃない。しかし君は問題ないみたいだ。」
「そう……なんですか?」
神様に世代交代とか普通にあるんだ……。
「さてと……刹那どうする?今から行く?」
「えっ?まあ兄様がいいなら。」
「行ってらっしゃい。私はルナちゃんとのんびり留守番してるわね。」
そう言うとセツナとヤイバさんは出ていった。
「えっと、二人ともどこに行ったんですか?」
「お義父様とお義母様のお墓参り。ルナちゃんのお父様の件があってからかしら。刹那君が行きたいって刃さんに言っててね。刹那君にとってはご両親は記憶にないからなんとなくあやふやな存在みたいだったようなんだけど。」
それでセツナ、ちょっと複雑そうな顔をしてたのか。
「でもせっかくだもの。兄弟水入らずで色々お話すればいいと思うわ。」
「ミオさんはセツナのご両親と会ったことあるんですか?」
「もちろんよ。随分良くしてもらったわ。ようやく結婚できて少しだけど恩返しもできたと思う。本当に長かったわね〜。結婚してみたらあっという間……というか何も変わらない気がするわ。」
「そ……そういうものでしょうか。」
「結婚する前から入り浸っていたのもあるからでしょうね。結婚してその後挨拶とかでまわったらあとはいつも通り。でもそれが一番かしら。何も変わらなくて平和な日にしていくのがやっぱりいいわよね。」
「そうですね。」
ミオさんの笑顔につられて私も笑った。
そして夕方、界路を通って表世へと戻り、セツナと家に向かって歩いていた。
「どうだった?お墓参り。」
「ん?あぁ、澪さんから聞いたんだね。どう……と言われるとなぁ。うん、やっぱりいつ見ても大きなお墓だったなぁ。」
「そんなに大きいんだ……。」
「霊園に巴家関係一帯の土地があるからね。巴家だけじゃなくてそこで働いていた身寄りのないスタッフも一緒に祀られているから。巴家も歴史は古いし、まあそれなりに大きくもなるよ。」
まさかのスタッフさんまで……。
「せっかくだからと思って黒百合と白梅も出してあげたんだけどそしたら二体ともお墓の前からなかなか動かなくて……珍しく言うこと聞かなくて大変だったよ。」
「前にお母さんの形見とか言ってたかしら?」
「うん、だからか母様のお墓って分かってたんだろうね。改めて母様に追いつける召喚魔導師にならないとって思ったよ。手始めに向日葵と牡丹かなぁ。」
そんなにすごい人だったのね……。
そういえば……。
「私、ずっとヒマワリを見てないんだけど……。」
ミオさんの結婚式前にセツナの時空空間に入ってから会えてない……。
「あぁ、ルナが戦羅さんになってから一度出したんだけど調子が悪くなってそこから戻っちゃったんだよね。多分、魔力に当てられでもしたかなぁ。天羽さんの魔法石があるからある程度抑えられているはずだけど。」
「だ……大丈夫なの?」
「さすがにそろそろ大丈夫とは思う。ルナの家に着いたら出してあげるよ。」
「えぇ、私も久しぶりにヒマワリに会いたいわ。」
そんなこと言いながら家に向かっていると……。
「あら?」
玄関先にいるのは
「あっ、ルナさん、刹那さん、おかえりなさい。ちょうどよかった。」
リリさんと……。
「ルナ……。」
エディだった。
「エディ、この前はありがとう。」
「いや、俺は何も……。元気そうでよかった。これよかったら……。」
そう言ってエディはトートバッグの中からファイルを取り出した。
「これって。」
「先週あった授業のノートのコピーと配布されたプリント。ルナほど綺麗にまとめられてないけどないよりマシかと思って。」
「エディ、わざわざありがとう。来週からは学校に行くから。あっ、上がっていく?」
「いや、これを渡しに来ただけだから。それにルナだってまだ彼と話したりするだろ?」
エディはそう言ってチラリとセツナを見た。
「私の用事はすぐ終わる。その後で問題ないなら……。」
「いや、そこまでして上がろうとは思わないよ。ルナ、また学校でね。」
そう言って手を振ってエディは帰っていった。
「……マスターから改心したとは聞いたけど……あれって別人じゃないよね?兄弟とか。」
セツナは訝しげな視線でエディの背中を見ていた。
「改心って……それにエディに兄弟はいないし、彼は一人暮らしよ。」
「ふふっ、仲直りされたようでよかったです。改めておかえりなさい。夕食がそろそろできますが刹那さんも食べていかれますか?」
「いいのかい?」
「はい。マスターから色々と食材も頂きましたから。」
そして中に入ってリビングへ
「向日葵、もう出て大丈夫だよ。」
セツナがヒマワリに呼びかけるけど……。
「あれ?」
「出てこないですね。」
「寝てたりするの?」
「いや、そんなはずは……。」
「ヒマワリ〜、ご飯よ?」
「デザートにゼリーもありますよ?」
食べ物でつっても出てこない……。
「具合悪いんじゃ……。」
「どちらにしても出さないことには……ちょっと待ってて。」
セツナは目をつぶって手をかざす。
「……時空空間位置把握……接続開始……完了……同時召喚!」
すると辺りが光って……。
光が消えた場所にはヒマワリの首根っこを銜えたクロユリがいた。
「何をしたの?」
「向日葵と黒百合が入っている時空空間を繋げて黒百合に向日葵を連れてきてもらったんだ。うわっ!?」
ヒマワリを触ろうとしたセツナの手を目掛けてヒマワリは火を吹いた。
「セツナ!?」
「大丈夫だよ、結界は張ってるから熱さは感じない。しかし、どうして出てこなかったんだい?元気そうじゃないか。」
ヒマワリはぷいっとそっぽを向く。
「私は君に何かしたかい?」
その言葉にヒマワリは気まずそうな顔をして私を見る。
助け舟を出して欲しいのかなぁ……。
「ヒ……ヒマワリ。とりあえずご飯食べよう。話はそれから……ね?」
するとヒマワリは身体をよじってクロユリから脱出しドアの隙間からリビングの外へ逃げ出した。
「ヒマワリ!」
私はヒマワリを追いかける。
ヒマワリは私の部屋のベッドの上で丸まっていた。
「ヒマワリ、どうかした?具合悪いの?」
途端ポンッと軽い音がしてヒマワリは人化した。
私はヒマワリの服を渡す。
ヒマワリは無言で受け取り着替え始めた。
「……昔々な、ある娘に恋した男がおった。」
「はい?」
なぜだか昔話が始まった……。
「男は娘をどうにかものにしたいと考えてな。最終的には家族の反対を押し切り、正妻や側室との縁を切り、そこまでして娘を欲そうとしたのだ。だが娘はそれでも男の求婚を断った。娘は人に在らず狐の物の怪だったのだ。」
もしかしてこの話は……。
「しかし男は言うた。「狐であろうともそなたの心は化け物に在らず」と。それまで頑なに人と関わらなかった娘はそれから自分を受け入れてくれたその男と一緒になろうと誓った。だが……その年、日照りや豪雨が続き男の治めている土地は食うものも困る有様になった。そして男は考えた。これは狐の仕業であると……そして娘を殺した。その血は雨となり大地を潤し、その身は土と溶け合い次の年は多くの実りを捧げることになった。狐がおらぬようになったことでその土地は豊かになったのだ。」
「それが……ヒマワリの昔の話なの?」
ヒマワリはそれにコクリと頷いた。
「我は九尾の妖狐。吉凶をもたらし人を惑わす者……。我がいたからそなたの周りに善くないことが起こり始めたのではないか?」
「そんな……ヒマワリのせいだなんて……。」
「そなたがその体質になったのも父上が死んだのも全部我のせいではないのか!」
「そんなわけないわ!ヒマワリのせいじゃ……。この体質も私が弱いのが原因だし、パパのは……合宿に行ったから起こったことで……決してヒマワリのせいじゃないわ。」
「だがそれでも!」
「ヒマワリ……。」
私はヒマワリの手を握る。
「考えすぎよ。私は何もヒマワリのせいだなんて思ってないし、ヒマワリのおかげでこうしていられるの。ヒマワリがあの時に私のところに飛びこんでこなかったらテンバ先生やセツナとも会えなかった。ううん、違う形で二人と会うことはあってもきっとあなたとは会えなかったわ。私はあなたと出会えて幸せよ。あなたといるとたくさん笑顔になれるわ。」
「ルナ……。」
「だからね。ヒマワリは私の所に吉を呼び込んでくれたの。いつもありがとう。」
「ルナぁ〜!!!」
ヒマワリは再び狐化して私の腕に飛び込んできた。
私は泣きじゃくるヒマワリの頭を優しく撫でた。
「ルナさん、おかえりなさい。あっ、寝ちゃったんですね。」
それから少ししてヒマワリは泣き疲れて寝てしまい
私はリビングに戻った。
「君にまた色々迷惑をかけて……済まなかったね。」
「そんな……ヒマワリは私のことを心配してくれてたのよ。セツナが謝ることじゃないわ。」
「そうか。人化したみたいだし一度時空空間に戻すね、帰りにまた出してあげるから。」
そしてセツナはヒマワリを時空空間に戻した。
机の方を見ると色とりどりのご馳走が並んでいる。
「わぁ!これ全部リリさんが?」
「ついつい作りすぎてしまって。ルナさんの快気祝いとでも思っていただければ。」
「ありがとうございます。」
「いえ、冷めないうちにいただきましょう。」
そしてセツナとリリさんと夜ご飯。
その間、さっき裏世であったことを話した。
「そうですか、明陽神社から先は行くことはできなくなったんですね。今度は私が家にご招待しておもてなししようかと思っていたのですが……。」
「いえ、もう十分おもてなしを受けているかと……。というか料理や家事もしていただいて……本当にありがとうございました。」
「いえ、私がやりたくてやっていることですし……本当はもう少しいたかったのですけど。」
「え?」
「すみません、こんな時に……実はフランスに繋げていただいた界路の期限が最長で十日なんです。なのであと数日であちらに戻らないと……。」
「そう……なんですか。」
「逆に十日も界路が繋げられるというのは凄いことだと思うよ。主に頼んだのかい?」
「いえ、七尾さんという方です。以前橙真さんがこちらに来る際に界路を繋げてくださったのもその方で、その時のベースがあったのもあり繋がりやすかったのだとか……。」
「へぇ……そんなことが。」
「はい。……ルナさん、残りの数日宜しければこちらに置いていただけますか?」
「え?それは嬉しいんですけど……いいんですか?ゲンザさんの方とかは。」
よく考えたら新婚ホヤホヤなのに……。
「大丈夫です。玄冴さんも行けない自分の代わりにと言ってくれましたし。」
「そうでしたか……。それならあと少しですがよろしくお願いします。」
「はい、こちらこそ。」
夢の中で目が覚める。
いつも通りなんだけどいつもと違う自分の部屋。
ここで目が覚めるのも久しぶりな気がする。
私は伸びをしてリビングへ向かった。
「ルナ様、お久しぶりです!」
「アヤメ。」
アヤメは私に気づくとピョンピョンと跳ねるように来た。
「体調も魔力も回復されたようで良かったです。快気祝いに何か美味しいものでもお作りしますね。ルナ様は何か召し上がりたいものはありますか?」
「えっと気持ちは嬉しいけど……リリさんのお料理で今お腹いっぱいで……。」
「じゃあデザートでもお作りします。そのうちお腹も減ってくるでしょうから。」
そう言うとアヤメはパタパタとキッチンへ……。
「ルナ、色々と勝手に進めてごめんなさいね。」
「ママ……。」
声がした方を見るといつも通りソファにはママがいた。
私はその隣に座る。
「本当はあのままあなたを眠らせておいた方が早く目が覚めるはずでしたが事が事なだけに私が代理しました。」
「ううん、ありがとうママ。自分勝手な行動をして……ごめんなさい。」
ママはそのまま私を抱きしめた。
「私とて……あなたの立場ならば自分の命が危うくなってもルウェートさんを救おうとしましたから……謝る必要ありませんよ。」
「ママ……。」
「大丈夫です。これからまたゆっくりやっていきましょう。」
「うん……。」
私に出来ることは
これから同じようなことを起こさないことだ。
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