第11章 孤独の果てに——暗闇に灯る“アニキ”の呼び音
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中学も高学年に入る頃には
一部の暴力的な連中が台頭し
校内は荒れ果てていた。
夜中に教室のガラスが割られ
プールに忍び込んで
騒いだやつが捕まったり
他校との喧嘩で警察が来たこともある。
そんな風景は、もはや“日常”だった。
尾崎豊の歌詞みたいな
嘘のような世界が
そこには広がっていたんだ。
ある日、友達だと思ってたやつに
「ちょっとトイレ来いよ」と呼ばれた。
ふざけた冗談だと思って、ついていった。
——そこには、10人以上待ち構えていた。
「おい、金、出せよ」
「金出すかボコされるか。どっちか選べ。」
その言葉に、遊びの色は一切なかった。
俺は震える手で
財布から1000円札を差し出した。
それはもはや
“命乞い”
のようだった。
屈辱的で情けないはずなのに…
それでも俺は
殴られずに済んだことに
ただただ…ホッとしていた。
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それからも日に日にエスカレートしていき
廊下ですれ違いざまに腹を殴られ
上履きはゴミ箱に捨てられ
机の中には生ゴミが仕込まれていた。
『おまえくせーんだよ!
どっか行けよ!』
まるでバイ菌扱いだ。
「先生」は見て見ぬふりだった。
クラスメイトも、その光景に目を逸らした。
家に帰れば、母親の怒鳴り声が響く。
「おまえはいちいちうるさいんだよ!
産まれてこなけりゃよかったんだ!」
味方だったはずの父も
ガラケーの件以来
口をきかなくなっていた。
休みの夕飯時だけ同じ空間にいて、
何も言わずにテレビを見ていた。
俺は——
どの空間にいても
ひとりだった。
自分でも気づかないうちに
息を潜めて生きていた。
声を出すのも億劫になり
目立たないように歩き
呼吸すら邪魔に感じた。
人の顔色を伺い
とにかく自分を押し殺す。
自分の存在意義が霞んでいくのは——
誰の目にも明白だった。
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だけど、そんな毎日のなかで
たったひとつの
“あたたかさ”
がたしかにそこにはあった。
「アニキ、マリオテニスやろーぜ!」
「アニキはライフガードな!」
「駄菓子パーティーしよーぜ!」
——"ゆうひ"だった。
ゆうひはいつからか俺のことを
「アニキ」と呼ぶようになっていた。
家でゲームをして
駄菓子を分け合い
ジャンプを回し読みする時間。
そのひとときだけは
“俺がいていい場所”
だったのかもしれない。
⸻
『塾の帰りに焼き鳥食わね?』
学校では孤独な俺も
唯一塾では友がいた。
中学2年から通い始めた塾。
初めのころは何故か成績が良かった。
“早慶受験コース”にまで上がっていたけど
徐々に授業についていけなくなり
クラスの振り分けテストで
わざと回答を間違えて提出を繰り返すと
あっという間に
"最下位クラス"という名の天国に
無事仲間入りを果たした。
「あんたはほんとダメね!
塾なんか行かせても意味ないわ!」
当然母の罵倒が止むことはなかった。
もうこの頃の俺には——
存在する意味すらも
見えなくなっていた。
⸻
受験の時期が近づくにつれて、
教室の空気が少しずつ
張り詰めていくのがわかった。
周りの生徒たちは
志望校や模試の話で盛り上がっていたけど
その輪の中に、俺の名前はなかった。
入試説明会や見学会のプリントが
配られるたびに
俺の手だけ、宙をさまよっていた。
塾では「早慶も狙える」と言われていた。
塾長にも、親にも。
だけど、正直、もう
“どこでもよかった”。
どこに行くかより、
“行っても何も変わらない”
って気持ちのほうが大きかった。
進学校に入れば
また周りと比べられて
また期待されて
また裏切ることになる。
自分でそう決めつけて
そのくせどこかで
"こんな自分が嫌だ"
とも思ってた。
でも
結局俺は…
推薦で簡単に入れるD大学附属高校に
何の迷いもなく進学を決めていた。
とにかく楽をしたかった。
夢なんて
描く気力もなかった。
目標なんて
持つ勇気がなかった。
未来を語る資格なんて
俺にはないって——
いつのまにか、思い込んでいた。
⸻
もしかしたら
俺の“逃げ癖”って
あのときから既に始まったのかもしれない。
息を潜め、声を殺し
空気のように存在し続けていた日々。
だけど——
暗闇に彷徨う俺に
"アニキ"って呼ぶ
あの一筋の光だけが
俺を俺でいさせてくれたんだと思う。
———
春は、音もなくやってきた。
暗い季節をひとつ越えた先
逃げるようにたどり着いた
高校という新しい舞台で
さらなる苦境に立たされながらも
小さく息を吹き返すように
人生が少しずつ色を取り戻し
はじめていくことを
絶望の淵に迷い込んだこの頃の俺に
気づく余裕があるはずもなかったんだ。
第11章 了
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第11章をご覧いただき
誠にありがとうございます!
拙い文章で読みづらい点も
多々あるかと思いますが
応援ボタンや感想、
ここはこうした方がもっと良くなるよ!
といったアドバイスも
どしどしお待ちしております!
また次章も読んでいただけたら
涙が枯れるほど嬉しいです!
よろしくお願いします!
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