第2話 運が良い日ほど悪い事もある

あの後俺は教室に戻った。相変わらず誰も俺に話しかけないどころか遠くでヒソヒソと悪口を言われる始末ではあるが別に今に始まった事ではない、寧ろ高校に入ってからこうだからもう気にしない。今は寧ろこの後に自宅に帰ってからスーパーに夕飯を買いに行がなければならない状況の方が問題だ。


(さて、キャベツはある。ならベーコンを刻んで一緒に蒸してポン酢で…うん、良いな。ならベーコンは確定で買うとして…)


俺はそう考えつつ自分の席に戻る…が、自分の席に椅子がないのに気がつく。そして教室内に不特定多数の押し殺す様にして笑う人達の声が聞こえ始めた。


「…ハァ…」


俺は何時もの事なのでため息だけ吐いてから取り敢えずまた生徒指導室に戻るために歩き始める。こんなイジメは日常茶飯事、俺で受験のストレスを発散しているのか知らないけれどクラス全体で俺をいじめて、いじめた人を特定されない様に連携したり隠蔽したりするもんだからタチが悪い。


「取り敢えず、地元で就職したらこのイジメの延長になりかねない…叔父さんには悪いけれど、北海道辺りで就職先を探そうかな?」


俺はそう呟き、生徒指導室に入る。その時に遠藤先生も帰ってきていたので椅子の件を報告したら代わりの椅子をくれたのでそれを持って教室に戻った。そうしたら次は机が壊されていて教科書もビリビリに切り刻まれていた、そしてまたあの笑い声が聞こえ始めた…マジでタチが悪いよ、本当に…



〜 放課後 某大型スーパー 〜



あの後、俺を心配した遠藤先生が教室に来た事で状況は一変。先程まで笑っていた誰か達は笑いを辞めて我関せずの態度をとり、キレて状況説明を怒りながら始めた遠藤先生にクラス一丸となって「知らない」の一点張りで押し通した。遠藤先生も教師、だから強くは出られないのをクラスの誰もが知っているからこその態度に遠藤先生は遂にジャージの上半身を弾け飛ばし、分厚い筋肉を見せて再度現状を聞く。しかし誰もが口を揃えて「知らない」の一点張りを崩さなかったからかとうとう遠藤先生が折れて変えの机を生徒指導室から持ってきてその場は収まった。

その後はいつもの如く足を引っ掛けられて転ばされたり、無実の罪をなすりつけられたりと散々な事をされつつも教師陣は俺の味方だから大事にはならずに放課後を迎えた。

自転車を持っているから自転車通学も一応できるが今の俺の現状だと自転車にイタズラをされて壊されるのがオチなので俺はそのまま誰とも話さずに歩いて自宅であるボロアパート帰り、着替えてから財布とエコバッグを持って少し離れた大型のスーパーに自転車で向かう。

そして、スーパーに到着してからカゴを取り食品売り場へ、到着したらまずはベーコンに和風出汁、ついでに切らしていた牛乳をカゴに入れてレジに向かい、会計した。


「はい、これお釣りと本日開催の抽選会の補助券です」


「…あ、今日だったか」


その際にお釣りとレシートと一緒にピンク色の紙をもらった俺はそう言って紙を受け取り、近くの台に精算済みの買い物カゴを置いてから財布を開ける。


「…5枚、あるな。一回はできるか」


そのままお釣りをしまいつつ俺は財布から前に貰った同じ補助券を取り出して枚数を数える。

確かこのスーパーは今ハズレなしのガラポン抽選機を使った抽選会のイベントをやっていて、会計時に貰える補助券5枚か抽選券1枚で一回ガラポンを回せるイベントをやっていた筈だ。


「せっかくだし、やって行くか」


買った物をエコバッグに入れつつ脇の柱に貼られたイベントのポスターに書かれている景品欄を見て俺はそう呟く。別にこれといった欲しいのがある訳ではない、特賞の温泉旅行や一等の商品券3万円分とかは確かに魅力的だが正直にいえば手に入る確率は低いだろう。だからあくまで暇つぶし、もし良い奴を手に入れたらラッキー程度に考えて俺は荷物を詰め終わったエコバッグを持ってイベント会場に行く。


「…へぇ、今のガラポンはハイテクなんだな」


会場に到着する俺の目の前には自販機の様な機会が置かれていて、色んな人達がその機械の前でキチンと列を作り、順番に次々と券をその機械に入れていく。するとその機械にある排出口からタグ付きの鍵が落ち、それを拾った人達は傍にある鍵付きロッカーの中から番号を探して次々と扉を開けていく。あのロッカーには景品などが入っているのは間違いない、ならば俺もその機械の列に並んでガチポンをしようと思い、俺はキチンと列に並ぶ。そして15分後くらいには俺の前の人が鍵を取って離れた。


「さて、何が貰えるかな?」


俺は順番が回ってきたので機械に補助券を5枚投入する。するとカチャンっと軽い音が聞こえたので排出口を見ると『Tー5』のタグが付いた鍵が出てきていたので俺はすぐにそれを取り、ロッカーを探す。

だが、幸いな事にTー5のロッカーは目の高さにあったので俺はすぐに鍵を刺してロッカーの扉を開ける。


「…エアガン?」


そこにあったのはラミネートフィルムに包まれたエアガンが箱ごと入っていた。俺はそれを取り出して箱の文字を見る。


「『M92F』…だめだ、銃の種類はよく分からん」


箱にはデカデカと『M92F』の文字と共に『5980円』の値札シールが貼られていたので多分当たりの分類ではあるのだろう。俺は取り敢えずその箱をエコバッグに閉まって歩き出した…次の瞬間!


〈ウゥ〜!!ウゥ〜!!!〉


「クッ!?」


突如脳内に鳴り響くサイレンの音に俺は顔を歪めて地面に倒れる。周りの人達もまた顔を歪めて地面に倒れており、更に周囲の壁や床などが捻じれ始めて他の何かに変化していくのも見える。つまりこれは…!


…!?」


ダンジョン化現象、その言葉の通りこのスーパー自体がダンジョンに飲まれて一つのダンジョンに変化してしまう現象だ。それは突如おきる、故に不回避かつ理不尽。何せこの現象に巻き込まれると生まれたてのダンジョン内にランダムで配置され、モンスターや錯乱した人や略奪者などに殺されるか壁や床の中に配置されてそのまま死ぬ、あるいは運良く生きてダンジョンから出るか救助が来るまで生き延びる以外に選択肢はないからだ。


「く…そ…が…!?」


俺は徐々に消えていく意識を感じつつエコバッグだけは抱き寄せて離さない様にする。最悪ダンジョン内に数日サバイバルする羽目になるかもしれない。ならば例え牛乳とベーコンでも貴重な水分と食料だ、生き延びる糧は確保しておきたかった。だが、抱き寄せて離さない様に固定した途端に俺の意識は完全になくなった。最後に感じたのはサイレンの音と全身が水に押し流される用な感覚だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る