Oversight

欠落

  午前七時

 

 目覚めると、顔を洗う。

 ラジオの電源を入れる。


『れ、警察では情報提供を求めています……』


 何があったのだろう。

 ネットニュースを開く。


 "公園で不審者"

 "交通事故 バイク逃走"

 "連休最終日 各地のお出掛け情報"


 別段珍しくもない。 

 支度をし、掃除機をかけて家を出る。

 パトカーが、やけに多い。

 

 午前十時

 

 秋の三連休最終日、歩道では学生が走り込んでいる。


 ──マラソンの時期だしな。


 固まって、背の高い子が、妙に周囲を警戒している。


 私は自転車で、車道側を走る。


 私は、何か見落としているような気がした。

 

 正午

 

  市の公共スペースに立ち寄ると、テーブルを探し、座る。


 ネットニュースを再び開く。特に何もない。

 途中で買ったポテチと炭酸水を開ける。


 家族連れも多い。これが平和か。


 食べ終わったので、図書館へ向かう。


 午後二時

 

 図書館で作業をしていると、私のいるテーブルに男性が座る。何やら強面の、髪の色も明るい若者だ。互いに会釈を交わす。


 ──多いですからね。


 彼は、文庫本を開いた。

 

 午後六時

 

 休日なのに、閉館までいてしまった。


 まぁ、資料は完成したから良しとする。


 学習スペースから、制服姿が数人出てくる。


 ──最近の子達って、見た目も中身も、昔より遥かに素敵だよな。


「うわっ、もう暗いね」

「毎回それ言ってんじゃん」


 自動ドアを潜る。


「しばらく固まって帰んなきゃね」

「……だね」


 不審者のニュースは、隣町だった。まぁ、注意喚起のメールでも回っているのだろう。関係無い話だ。


 午後八時

 

  アパートに戻り、ポストをチェックする。

 ポストに鍵をかけたその時、背中が熱を帯びた。


 ──?


 膝から、がくりと崩れ落ちる。

 低くなった目が、人の姿を捉えた。


 黒い服、プリーツスカート……女?


 叫ぼうとしても、こみ上げる血が私の邪魔をする。鉄の臭いが満ちる。


  女は、顔を近づけて語りかける。

 

  「気付きませんよね、男だって思いますよね? お姉さんも、そう思いましたよね。ふふっ、一目惚れだったんです。すごく速くって、風みたいで」

 

  若い、十代くらいの声だ。

 

  ごぼごぼと鳴る喉は、私から言葉を奪った。

 

 ──私は、やはり何かを見落としていたのだろうか。

 

 私が最後に見たのは、私を見下ろす少女の蛇のような目だった。


 <了>

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