第26話 ツンデレ系トップモデル系ラミア
「飲み会……ってええ!?いいの!?あなた一応トップモデルですよね!?」
本気かとベルリアナの言葉目を丸くする。明らかに一般モンスターも利用していそうな普通の居酒屋である。そんな場所に今を時めくトップモデルが現れたら大騒ぎになるんじゃ……。
しかし僕の心配をよそに、ベルリアナはなんてことないようにさっさと裏口に向かい始めた。
「いいのよ。ここ知り合いの店だから平気なの。さっき連絡したら個室用意して待ってるって言ってくれてたし」
「へええ……?」
普通芸能関係者って御用達みたいなセキュリティガッチリな店に行くものではないのだろうか。
しかし戸惑っているのは僕だけのようだった。
「わぁ、ベルちゃんと飲み会久しぶりですねぇ」
「えー?俺も行くの?」
「アンタもよ。アンタら研究所組はいっつも忙しい忙しいって断るんだから、こういう機会に捕まえておかないと。……ラウ何してんの」
危機から脱したミモザと流石にスケルトンから降りたロイドがベルリアナの後に続く。えーいいの?と逡巡しているとベルリアナに「そんなところ居たらほかの客に見つかるじゃない」と言われ慌てて後を追った。
「気にしなくていいぞ。アイツしょっちゅうパパラッチに泥酔現場撮られてるから慣れてんだ」
「失礼ね、しょっちゅうではないわよ。たまによたまに」
撮られてはいるらしい。
それでいいのかと思わないでもないが、まあ本モンスターとその幼馴染が言うのなら大丈夫なのだろう。知り合ったばかりの僕がとやかく言うことでもないか、と一応の納得を見せて僕は頷いた。
「お邪魔するわよ」
勝手知ったるとばかりに、ベルリアナが従業員専用っぽい入り口を開け放った。
扉の向こうではおそろいの制服を着たモンスター達が忙しそうに料理を作っていた。どうやら厨房に続いてる扉だったようだ。
揚げ物の良い匂いが漂ってきたところで、洗い物をしていた一体のトカゲのモンスターが「おっ」と嬉しそうに泡だらけの手を振った。
「ベルちゃん久しぶりだなぁ。二階の個室とってあるよ」
「ありがと。今日のオススメは?」
「シュリプンポテトの煮っころがしだな」
「じゃあそれ二つ。後は飲み物と一緒に注文するわ」
「あいよぉ!」
手慣れた様子で会話をこなすベルリアナは、そのまま客席が並ぶスペースには出ず二階に続く階段を上り始めた。
こじんまりとした厨房をモンスター達に会釈しながら通り抜け、僕らも二階へ上がる。
どうやら一階はテーブルを並べて大衆居酒屋風に、二階は個室でゆったり過ごせるようになっているらしい。
『予約席』のプレートが掛けられた引き戸を開けると、お洒落な敷物が敷かれた寛ぎやすそうな座敷の部屋だった。
「はいメニュー。っていうかラウ、アンタ飲めるんでしょうね?」
「え?あーまぁ……昔?と言っていいのか分からないけど、前はそこそこ飲めてたし好きだったよ。今は……どうなんだろ。飲んでいいの?」
いの一番に奥の席に座ったベルリアナにメニューを手渡されながら曖昧な顔でロイドとミモザを見遣る。
ニンゲンの頃は務めていた会社の気質がどっちかと言えば体育会系寄りだったこともあり、先輩後輩上司問わずしょっちゅう飲み会に行っていた。
お陰でしこたま飲まされても酔いつぶれないくらいには鍛えられていたが、モンスター化した今その辺りはどうなっているのだろうか。
そもそもアルコール摂取が厳禁なんてことは……
「平気じゃねえか?アルコール分解する臓器もちゃんと修復されてるようだし」
「むしろ新たなデータが取れるのでグイグイいってほしいですぅ」
なんとも研究者な返答にホッとする。ここでもしドクターストップならぬリサーチャーストップが掛かったら無念どころの話ではなかった。
とはいえメニューを見ても、いったい何がどんなお酒なのかさっぱり分からない。とりあえずベルリアナに『飲み会で一発目に飲むお酒といえばコレ』みたいなチョイスをお願いした。
問題ないと分かるや否やさっきまで戸惑い一色であった僕の心は、未知なるモンスターのお酒に現金にもわくわくと踊り出し始める。
「そういえばモンスター的に成人は……何歳からお酒飲んでいいとか決まってるの?」
「アルコールへの耐性は種族により大きく異なりますので特に法律で決まっているわけではありませんがぁ……まぁ大体生まれて25年くらい経てば大人として認められるケースが多いですねぇ」
「あっぶねぇ!」
丁度25歳だったわ!体的には大丈夫でも年齢的な問題でお酒飲めないところだった!
ちなみに聞くところによると、ミモザの言う通り魔法界では未成年者の飲酒について法律に定められている訳ではないが、未熟なものが酒に酔って暴力沙汰を起こしたり器物損壊したりした場合は保護者へ多大な損害賠償や罰則が発生するらしい。
その為調子に乗った未成年者が飲酒をしようものなら、同じ種族の大人に制裁を受けることがあるのでなんだかんだで未成年者による飲酒問題というのは少ないらしい。
大人が粗相した場合?それはどこの世界でも自己責任です。
「それで。ベルに酒が入る前に大事な話だけ済ませておきたいんだけど」
参加者がテーブルを囲むように座り一息ついた頃。ロイドがそう言って机をトンと軽く指で叩いた。
その音にみんなの意識がロイドに移る。かつての後輩が酔っ払って公園の銅像と添い寝し警察のご厄介になった過去を思い出し遠い目をしていた僕もロイドを見た。
頭蓋骨を侍らすロイドはチラリと僕を横目で見た後、口を開く。
「ベル。お前どこまで博士から話聞いてる?」
「……まあ大体聞いたと思うわよ。ラウの事情とか、来年の話とかね。……ほーんと、仕事中にこんな重たい話持ってくるんじゃないってのあの変態博士」
「お陰で動揺して何度かリテイクくらっちゃったじゃない」とベルリアナは大変治安の悪い顔で舌打ちした。個室とはいえどこで誰が聞いているか分からない居酒屋であるため、上手く濁しながら話すベルにロイドは頷く。
「博士が変態なのは今に始まった話じゃないけどな。……まあお前が大体把握しているなら助かる。今後の話とかはまた追って連絡が来ると思うが、ラウが話した『主要メンツ』の中では俺ら研究所組を除くとベルが一番話が早いし機転も利くからな。ラウのフォロー含め頼むよ」
「そうねぇ……まあ残りがパーシーとあの方向音痴猫侍じゃねぇ」
ため息交じりの言葉にミモザが「アジェルの事そんな風に言っちゃダメですよぅ」と頬を膨らませながら嗜めた。
まあ確かにベルリアナのいうこともわかる。まだ実際にあっていないが、残りのふたり……ロイドの弟パーシーと王国騎士団のアジェルは、何というかちょっと抜けているというか少し天然ボケな性格なのだ。そこが彼らの良いところでもあるのだが。
ゲーム内で彼らの天然ボケによって引き起こされた大小様々なトラブルに思いを馳せていると、突然僕の顔が何者かの手によって鷲掴みにされた。
「ぶぇ!?」
「んー……そうねぇ」
グイッと強制的に顔が上を向く。両頬が潰されて不細工な声が出たが、僕の顔を覗き込むベルリアナは気にもせずその柘榴石のような瞳を瞬かせた。
瞳の奥で金色の光がチラついたのを見て、僕は今自分が何をされているのかを悟る。
ベルリアナは強力な氷魔法を使う魔導士だ。しかし彼女の本髄はまた別のところにある。
彼女は精神や魂魄に働きかける系統の魔法のエキスパートだ。軽い洗脳や魅了、精神分析など目に見えない『心』や『精神』に対して作用する魔法を得意としている。
そして今僕に施しているのは恐らく『精神分析』の魔法だ。昨日フリント博士がドッキリで使用した悪趣味銃と似たような、対象者が嘘をついているかとか魔法の影響を受けているか等を視るものと思われる。
落ち着いてベルリアナの分析が終わるのを待つこと数分。満足いく結果がでたのか、彼女は前触れなく僕の頬から手を離した。
心なしか凹んだ気がする頬をむいむいと揉みしだく。
「もうちょっと優しくしてくれても罰は当たらないよ?」
「このベルリアナ様のご尊顔が間近で見られたんだからむしろ感謝しなさい。……そうね、アタシ達を騙してやろうとかそういう魂胆は無さそうね。むしろ馬鹿正直者だわアンタ」
「そりゃどうも……」
二日連続で似たようなことを言われたな、と昨日遠回しに僕を馬鹿正直者と言った隣のアンデッドを見遣る。しかし当のモンスターは僕の視線など少しも痛くない様子で肩をすくめていた。
複雑な心境だが、とりあえずはその馬鹿正直さのお陰でベルリアナの信頼を勝ち得ることには成功したらしい。
「まあアンタも大変よね。困ったことがあればこのベルリアナ様を頼ればいいわ。───助けるかどうかはアタシの気分次第だけどね」
まるで女王様のように尊大な態度でそう言ったベルリアナは、丁度良く飲み物と『シュリプンポテトの煮っころがし』なる料理を持ってきた店員に次々と美味しそうな料理を注文し始めたのだった。
ツンデレラミアめ……くぅ、推せる……。
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