第7話
ボケタコアホナス先輩は何を勘違いしているのか、あろうことか海流と春日夏日に「やあ!諸君も取引かい?」と白い歯をキラめかせて爽やかに挨拶をすると3人をスルーして真っ直ぐにユラの元へ歩む。
そしてギュッとユラの手を取りぶんぶんと振りまくる。
「さて、理事長のご子息とお仲間達も気になるが、とりあえずキミが今回の取り引きの主導者とお見受けする。
いやー、まさか栄光ある皇立魔術研究院の方のご助力をいただけるとは誠に感謝の極みだ。いやあ、僕の未来も安泰と言うやつだな!。
将来、僕がキミの上の立場に立ったらキミの地位を今の数段上に引き上げる事を約束しよう!なにせ僕の父は幾多の大臣を務めた経験がある優秀な辺境伯「齎陰寺」家の当主だからね。
僕は嫡男の義光と言う。
僕も省庁務めに入り込めさえすれば父の力で出世する事間違い無いだからな!。名前を覚えておくとキミにも良い事もあるだろう。是非覚えておきたまえ!!。
その為にもこの『受けたら最後、合格以外は即退学』の理不尽な卒業試験をスマートに切り抜けたいのだ!よろしくお願いするよ、キミ!」
おぅふ……仮面つけるタイミング逃して顔バレとか。
もうやだー!義光センパイったら『取引』っつってんのに名乗るとかも、もーどこから突っ込めばいいのか海流、わっかんなーい!。
と、再び現実逃避しかけた海流だが、同じくチベスナ顔をしていた春日と夏日の手前、逃避ギリギリで踏みとどまった。
ユラも「どうしたらいいの?」と言いたげな雰囲気を纏って海流をチラチラ見て来ている。
ような気がする。
こればかりは海流も同調する。どうしたらいのよ?。
記憶改ざんの為に『過去』を『剪定』する?。けどこれだけの『剪定』となると半年分くらいは寿命が削れるぜ?。
どーすっぺかな……。
海流は考え込む。
Au fait,それにつけても…。
海流は改めてユラをよく見た。
漆黒の闇ばかりだと思ったユラのケープ付きマントだが、ポンコツの海流でも分かるほど高級な生地が使われており、今ごろ気づいた海流も海流だが、金糸や銀糸で荘厳な皇立魔術研究院の魔術紋章が施されていた。
わーを。メモ紙の事で頭いっぱいでなんも見えてなかったわ。
えーっと?確か皇立魔術研究院って皇国で1番権威ある研究院デスナー?。
確か救国級皇国魔術師以上の魔術師しか所属出来ない、魔術師の卵にとっちゃ雲の上どころか天にまします神域のごとき研究院じゃん。どの神の神域かは知らんけど。
義光のおぼっちゃんは、んなとこの研究員が解答漏えいなんざするわけないっつーの何で分かんねーんかな?。
アレか?
アタオカはアタオカを呼ぶのか??。
そんな11行くらいの事を秒で考えていたら、ユラはくすぐったそうに笑って
「ううん。ユラは古代魔法部門の研究にちょこっと参加させてもらってるだけのただの外部協力者なんだ。このマントは着替えとか持つ習慣が無いユラに師匠が特別に仕立ててくれたからなんとなく羽織ってるのっ」
ぶんぶんと先輩に握られたまま振られていた手を、グググと力強く引き剥がした。
ユラ氏は細身だが意外と力があるようだ。
へー。外部協力者ね。……って、待てよ?。
もしかしてこのユラとか言うアタオカ1氏って、救国級かそれ以上の魔術師サマってこと……?。じゃねーと全世界から集った最つよ魔術師サマ共が「俺の魔法がセカイイチィィィ!!!」なんてバチバチにぶつかり合ってそうな研究所とか言う魔窟なんぞが外部協力の受け入れなんざしねーっしょ。
「院への協力者と言う事は、貴殿はまさか神話級皇国魔術師殿であらせられると?」
おお。アタオカ2先輩も海流と似た疑問を抱いたのか、おずおずと尋ねている。
ん?神話級って皇国に数名しか居ないとか聞いたような?。
するとユラはあっけらかんと笑い出した。
「あはは!ユラは救国級のあの子達とは全然違うよー。ユラは『こんな研究室でよかったらユラちゃんの好きに使って良いよ!いつでも気軽に遊びに来てね♪』って誘われたから使ってあげてるの。このマントは通行手形代わりなんだ」
そう言ってユラはファサッと皇立魔術研究院の魔術紋章が縫い込まれたマントを捌く。
良かった。
物言いが若干上から目線なのが気になったが、ユラは救国級皇国魔術師でも神話級皇国魔術師でもなかったか。
……って。救国級皇国魔術師様からの呼び名が「ユラちゃん」?。
?。
その愛称は親愛からのやつ?。
「使ってあげてる」って言えるっつーことは神話級の更なる上?。
それとも救国級の下?。
どっちだ?。
「春日、お前どっちだと思う?」
『何がでス?」
海流は春日にヒソヒソと耳打ちする。
「いや、神話級の上よ……なんつったかなってな?。なんかあった気もするが。確か皇帝陛下にも同格で物言い出来るランクの、皇国にたった1人しかいないヤベー奴」
「いらっしゃいマすけど……。ソんな恐れ多イ方が、辺境ト言っタら失礼デすが、ド田舎のウチの学園に用事なんてありマす?」
答えたのは夏日。
そうだな、確かに。
「無いな?」
「「ナイナイ」」
3人はひっそりと一様に納得する。
『見神確殺!』。
皇国に関わる案件ならば、神祖同様にあのク創世神ともク創造神とも2神まとめてガチンコ勝負して2神とも冥界送りにしかけたとかいう『神殺級皇国魔術師』様がこんな所に居るわけねーわな!。
ガハハハ!!!解散!!。
あ〜、なんかワロタら冷静になってきたわ。
てかユラ氏。やっぱ女の子ぽくねー?。
いや?声こそ完璧に可憐な女の子なんだが、立ったユラ氏は身長185cmの俺と東雲の双子の155cmの真ん中のちょい上な身長だから、女子にしては背が高い気もするし?。
何もかもわからん。コイツ、女子?男子?。
最近の男性声優の『両声類』プリ、パネェからな。
俺が見てるアニメだけで榊原優希さんとか村瀬歩さんとか蒼井翔太さんとか。男だって指摘されなきゃ全然気付かねーレベルよな?。正体知ってもアニメは見るけど。
ん?逆に女性声優が声当ててる感じもあるような……?。
そ。緒方恵美さんとか斎賀みつきさん味もある。
声まで認識阻害魔法をかけてなければ、な話だが。
ちなみに俺様の声は千葉翔也さんに激似と言われている。異論は認める。
まあ、なんにせよだ。
くぁーっ!わからん!。
「良声類」と言う事しかわからん!。
わかるのは俺様を「未成年」扱いしてっから、成人済みのアタオカ古代魔法研究者(かなり上位かも?)って事くれえだな。
などなどと、海流がまた現実逃避しかけていると
「では貴殿は何故今日の取り引きの場にいらっしゃるのですか?」
ボケナスアホタコ鼻クソアタオカ2先輩はなおも食い下がる。
だーかーらー!「取り引き」て、口にすんな!。
「ユラ?ユラはね『トリヒキ』って言うのは分かんないけど、ユラはこの学園の下見に来たんだ」
アタオカ1も返答すんな。
「『下見』ですと?」
アタオカ2が尋ねるとアタオカ1の纏う空気がぱあっと華やいだ。
「うん!。ユラが保護してる大事な子がね、まあサ…クライの理事長に任せきりと言えば任せきりなんだけどー。サクライがあの子を来期からこの魔導学園に編入させるつもりだって聞いたから。
ユラ、学校って行った事ないからさー。家庭教師しかあてがわれなかったしね。だからサクライっ……が理事長やってる『学園』っていう所って、どんな所なんだろー?って思って、ちょこっと見に来たの。
なんたってユラはあの子の『保護者』だもん!」
アタオカ1はそう言って嬉しそうにトンっと自身の胸を叩いて、ふふんと甘い水蒸気を吐いた。
海流は傍らの春日がクンッと制服の裾を引くのを感じた。
「どうした?」
「かいるサン、ユラさんはいわゆる『父兄』と言う奴でス?」
春日は爪先立ちでうんと背を伸ばして海流にヒソヒソと囁きかける。
「みてーだな。だったらアレか?」
「2人まとめてプランBでいけるカも?」
少し腰を屈めた海流に夏日も頷く。
海流は腹を括った。
決めるしかねえな!今!。必殺の「プランB」をよぉ!。
「委細一切、お前らに任せる!」
「「お任せアレ!!」」
春日はウェアラブルPCを立ち上げ、夏日はスマートウォッチを操る。
「では取り引きは?」
「ユラ、知ぃーらないっ」
「そんな…君たち、これはどう言う事だい?」
ようやく困惑し始めてこちらを見たボケ(以下略)先輩と呑気な闖入者へ、双子が仕掛ける。
「「どうニもこうニも先輩ト僕たちノ『取り引き』ノ開始デス!!」」
スクランブル!スクランブル!。
これより「プランB!」
「緊急脱出」の開始だ!。
くははは!アタオカのお2人さんよ、東雲兄弟の口八丁に丸め込まれるがいい!。
海流は双子の背後に回り、腕を組んで後方ドヤ顔で笑みを浮かべたのだった。
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