第6話
「っ!」
海流はユラのゆるゆるだが鋭い指摘に返す言葉が見つからずたじろいだ。
なにせ海流は『視』た解答をただ書き写しただけだ。内容なんざてんで解っちゃいない。
マジかよ、万事休すってやつか?俺。
海流のこめかみに再びたらりと冷や汗が流れる。
まさかの出題者に遭遇とか俺様ぜんぜん『視』てないんだが?。
未来予測さんよ、変わるにも限度あるっしょ!。
これがあれですか?「因果律」の変化ってやつですか?。
変わるようなことをした覚えはねーけど。
あーいや、昨日この解答を書き写しながら「この写しづれぇ式考案した奴ブッころ案件だわ」と声に出して読み上げた記憶があるようなないような……。
いや「そいつに会いたい」とか俺様言ってねーから!。
これだから『未来視』怖っ。「因果律」さんステイステイ。
てかコイツ俺様の親父を、「櫻井の……理事長」って呼び捨てにしかけてたな?。
なんか仲良さげな空気?出してるし?。
あんのクソ親父の奴、屋敷じゃ仕事の話は一切しねーから。俺、親父の交友関係とか全然知らんし。
うん。貴人を集めたパーティとか乃蒼の奴は良く開いてるが俺様は顔出し禁止だし。する気もねーし。
はい。俺様は皇国の筆頭公爵家の長子だが婚約者もいねーですよ?。婚姻話はみんな乃蒼に持ってかれるからな。
なんて俺様のみじめな状況はどうでもいいわ。
その前に解答よ、解答。
そんなあぶねーもん例題に持って来んな、こいつが1番ヤバ過ぎんだろ。
と、とにかく逃げる!それしかねえ。あ、でも親父にチクられねえようにメモ束を取り返した上で口止めも必要か?。
どーする?。俺?。
『過去視』して『剪定』する?。
『コイツに遭遇しなかった『今』に?。
でも『剪定』って『過去視』するより寿命の食い度が半端ねーのよな。『剪定』後の『未来視』も同時にやんねーとだし。
さらに寿命削って『固定』もしねーとだし。
たったの5分程度の『剪定』に、1回につき20日分くらいの寿命を持っていかれるのん。
よーするにめんどダルい。
疲れるのよ、アレ。
お袋も数年間一日中ようやってたわ、すっご。
など、頭をフル回転しても答えを出せず海流が固まっていると、夏日が何か策を思いついたのかダンッと机に手を付き、ユラと海流の間に割って入った。
「コの人は実は卒業試験の優秀なテスターなんデす!」
?。なんか夏日がよくわからん事を言いだしたが?。そーなん?いつから?俺??。
「へー?同じ学校の後輩なのに?そう言うのって外部の機関がやるものじゃない?ましてやこの学園の卒業生って皇国の重要ポジにいきなり推挙される子も居るって聞くよ?そんなチェック体制で良いの?」
ユラは座り込んだまま、すー、ふーっとシーシャをふかしつつ、深く被ったフードをもたげる。夏日を見上げているようだ。
「いイえ、同校生かつ来期は最終学年になる海流さんこそがテスターになレば、卒業試験に臨む先輩方とほば同ジ修学度で試験を受けらレるじゃないデすか」
「そう言われたら、……そうかなあ?どうかなあ?」
するとユラはぴょこぴょこと首を左右に傾げる。
白煙もユラに釣られて揺れている。
「ホら、他のメモ紙も捲っテ古代魔法学試験以外の解答も見テくだサい。ホら、コちらも一言一句間違イが無いデしょう?」
「えー。ユラ、古代魔法学以外興味無いし。見てもわっかんなーい」
「じゃあ違ワ無いデ良いデすね?。なノデそのメモ束ヲ返シてくだサい。あなタはコの卒業試験問題作成者カと思うワれマすが、ソれならナおさら解答ガ流出すルと困っタ事にナるノダとおわかリになルかと」
「んー?そーかなー?そーかもー??」
ユラは全身でゆらゆら揺れなが考えこみ始めた。
おお?夏日よ、夏日さんよ!。
かなり苦しい言い訳に思えたがユラとか言う奴、考え込んでるみてえだし、あとちょい押してみ?イケるかもしれねーぜ?。
知らんけど。
すると、海流のテキトーな祈りが通じたのだろうか?。
なんとユラは「そっかぁ、そこまで言うんなら分かったよ」と、まだ多少訝しみながらもメモ束を返して来た。
Ça y est !。やるやん!夏日!。
海流は心の中でガッツポーズを取りながら、ドキドキを隠しつつさも当たり前のように平然を装ってメモ束を受け取った。
ユラはシーシャをまたひと吸いすると、立ち上がりながら
「ごめんねー?ユラ、古代魔法の事になるとうっかり自分を見失なっちゃう性分でさ。サクライ…の理事長にも『突っ込んで行く前に深呼吸しなさい』ってよくたしなめられるんだ。まーたやっちゃったなー」
と言うと、フードの上からシーシャの吸い口で頭を掻いている。
「ご理解いだダき感謝いたしまス。この件は誰にモ御内密に……」
夏日に続き春日が畳み掛けて仕舞いをつけようとしている。
ナイスフォロー!春日!。
「ん、わかった。黙っとく。てかさぁ君も、テスターならお家で解答した方が良いよ?またユラみたいな部外者が突然現れて手元を覗き込まないとは限らないんだから」
「そりゃどーも。ご心配いただき痛み入りますわぁー」
海流も2人に合わせて、気持ち深妙な雰囲気を装いつつ、闇取引の証拠たるメモ束をさりげなさを心がけて内心ドキバクの心音を聞かれぬように抑えながら慎重にバッグの奥底に仕舞い込んだ。
あー、心臓もたねーかと思ったわ。
そしてなるべくゆっくりと、浮かしていた腰を立て直してユラから距離を取る。春日と夏日もニコニコ笑顔を貼り付けて海流の背後に回る。
「そんじゃ、俺らは帰るすわ。ウチ門限厳しーんすよ」
「はいはーい、ユラも用事あって来たし。寄り道してないでそろそろ行かないとなの忘れてたし」
「「「ハーイ、デワ〜」」」
3人のお手振りに、ユラも手を振り返して背を向けた。
「うん、ばいばーい♪」
そしてユラはシーシャをふかしながらゴキゲンに、空中に転移の魔法陣を描きはじめる。
セイ!おらあ!。完勝よ!はよ行けや!。
後はメモ束を燃やして逃げるだけだ!。
あばよ、アタオカ!。
なーんて。
物事はそうそう上手く行く事は無いって奴で。
「はっはっは!やっと巡り会えたかな?諸君!。早速卒業試験の解答の取り引きと行こうじゃないか!」
海流達の背後で「すっぱーん!」と教室のドアを開ける音がした。
『旧校舎って今の校舎と違って自動ドアじゃ無いのよねー!』
おかげ様で海流は現実逃避寸前まで思考を持って行かれる。
もう、立て直すとか無理でござりませんの?奥様。
って、だりゃぁぁぁぁ!。どこの爵位持ちのおぼっちゃまなんか知りゃーしませんが、なーんでそう、最悪なタイミングで登場するんすか?。
つーか!「取り引き」て、口に出すな!。
頭足らな過ぎじゃねーの?このボケナスアホパイセンはぁぁぁぁ!!。
頭、創造神か?!。創世神か!?。
口をパクパクさせて泡を吹く海流と春日と夏日、そして何もわかってないユラとか言う人物へ向かい、ボケタコナス坊っちゃまはズカズカと、さも「実技試験の補講頑張って受け出来ました!」な汗くささを隠そうともせず、室内に入って来た。
「取り引き?」
コテンとユラは魔法陣を描く手を止め、小首を傾げてしまった。
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