2回目は美術部で!

@yurayurajima

第1話卒業式が終わり暗く鬱々とした気分で帰路を歩く

卒業式が終わり暗く鬱々とした気分で帰路を歩く。

帰り道が同じだっただけの友人と薄っぺらい会話をし家の前で別れた。どんなに憂鬱でも卒業式にもらった謎の紅白饅頭は美味しかった。

その友人からは人の温かさと言うものを感じたことが今までで一度もなかったのだが、白い紅白饅頭がいいからお前のその赤い紅白饅頭と交換しようと言うと、してくれた。ただの気まぐれだろうが。そして彼は今日もfpsを夜通しやり続けるのだろう。

家に両親はいなかった。卒業式だからきっと今頃学校にいるのだろう。

僕は卒業式が終わるとすぐに帰ったから、親が学校にいるのに僕は家にいると言う不思議な状況が生まれてしまった。

中学校生活が終わったことを確認するために過去を卒業アルバムを見ながら振り返った。

入学式のときの僕は驚くほどに無邪気な笑顔をしていた。そのとき、家ではfpsに明け暮れて半ニート生活をしていたものとは思えないくらいあどけない顔だった。

2年生になると、人違いを疑うレベルで表情が変化していて完全に目が死んでいた。

小学五年生という比較的早い段階から反抗期を迎えていた僕は三年経ってもなお反抗期は収まることは知らなかったらしい。

そして3年生。

特に行きたい高校もなかったため、良い肩書きが欲しいというだけで県内トップ校を志望し、大したモチベーションもなかったため合格発表はまだだが多分普通に落ちるだろう。受験当日の出来は最悪だったから。

高校は本当にどこでもいいと思っていたため、滑り止めに男子校を選んだ。

滑り止めにむさ苦しい男子校を選ぶことで自分を追い込み第一志望合格を狙う。というネタを使うためだけに受けた。我ながらどうかしていたと思う。

今はものすごく男子校に行きたくない。

そしてそれから泣きながら学園ラブコメもののアニメを見た。

辛くなるということがわかっているのに、なぜか見ることをやめられなかった。

アニメも見終わって時刻は午後8時。普段ならここから友達と通話をしながらゲームをするのだが、fpsをやっていそうだからやめた。

fpsは好きだったのだが、勉強になまじ時間を費やしてやらなくなったせいで、別に今は対して好きでもなくなっていた。

これでよかったのだろう。fpsなんて公認会計士を目指せるくらいの莫大な時間を浪費して友情を少しずつ育む。それだけのものだから。

 その後夕食があり、寿司だった。

お祝いされるような気分ではなかったが寿司はやはり美味かった。

結局やることもないからその後もずっと卒業アルバムを見ながらぼんやりしていた。

そしてあるページで僕の視点がある女の子に定まった。汐田佳子「しおた かこ」。

僕が二年間ずっと気になっていた女の子だった。

目は大きくて一重で色白の、全体的にあどけない印象のその女の子は、単独行動を好んで行う、少し変わったタイプの人間だった。

単純に顔がドストライクだった。

そして、他の人とは何か違って見えるそのミステリアスさに興味を惹かれた。

その子はいつもひとりぼっちで、でも周りなんな気にせずに生きているような人だった。

だから、孤立気味だった僕は密かに汐田さんに憧れていた。

クラス替えや学年活動など、何かあるたびに常に一緒になるように天に祈っていたが、祈るたびに天を憎むようになっていた。

他にもアルバムに載っていないか探してみた。

だがしかし、びっくりするくらい汐田さんの写真は載ってない。事務所に写真NGでも出されているのではと疑うレベルだ。

唯一学年と部活動の集合写真にだけは載っていた。そのどちらも1人で写っていたが…。

そしてここで気づいた。汐田さんは美術部だったのだ。

とても悲しかった。ほとんど凡骨だった僕だけど絵だけは自信があったんだ。

陸上部になんて入らずに美術部に入るべきだった。そう心から後悔した。

 そして卒業アルバムを眺めているといつのまにか寝てしまっていたらしい。ベランダから穏やかな風と共に朝鳥の鳴く声が流れ込んでくる。

久しぶりにスッキリ朝を迎えられて気分の良かった僕はベランダで伸びでもしようと布団から動き出すと、手に硬い何かが当たった。

そこにあったのは卒アルではなくニンテンドースイッチだった。

「あれ?」

動揺してでた僕の声はなんだかいつもより高い気がした。そして部屋にある縦鏡に映った自分の姿がふと目に入った。

それは、人畜無害で無邪気そうなあの入学式の僕の顔、そのものだった。

3年前に戻っているのか?その確証を得るために身の回りにあるものや、カレンダー、人を調べまくってわかった。

どうやら今は3年前に戻っているらしい。

なんで都合のいい話なんだ。僕はこの状況を甘んじて受け入れることにした。あの三年間をまたやり直せると思うと高揚感で脳みそがどうにかなってしまいそうだった。

そして今日は入学式らしい。確かこの日は中一の時のクラスが同じだったやつと登校することになっているはずだ。

僕は余裕を持って支度をし、鏡の前で自分と睨み合っていた。

仮にも県内トップ校を受験した僕だ。たとえ12歳だとしても、知性がその顔から溢れ出ているに決まっている。そう思っていた。

だが、どんなに表情を変えても人畜無害な無邪気な顔はやめられない。どうやらこの時の僕はそう言う顔の構造をしていたらしい。

成長とは恐ろしいものだ。

 溢れ出んばかりのクソガキ感を15歳の知性でなんとか抑え込みながら、登校することを約束していた友人の元へ向かった。

その友人の名前は波川 和成(なみかわ かずなり)

なんでもそつなくこなす努力タイプの人間で僕が密かに尊敬していた人物だった。

まあ今は僕の方が知性は上なわけだが。

と考えているとコケてしまった。クソこの短足ボディめ!

「ハハハッ!健人大丈夫?いつもゲームしすぎでゲーム以外での歩き方忘れちゃった?」

「うるせい」

その通りだ馬鹿野郎。こいつの体はまるでインフルから回復した次の日の登校日並みに体が重いぜ。もっと動けこの野郎。

それにしても学校までの距離が長すぎる。距離にして大体1.4キロくらいか。

そういえば、過去に戻ったけど元の時代の人たちはどうなったんだろう。僕と一緒に過去に戻ったのか、それとも僕だけが過去に飛ばされたのか。

波川と無駄話しているうちに長かった通学路を乗り越えてついに学校まで辿り着いた。

校門の前であの無邪気な笑顔を晒しながら記念撮影し、屈辱感を味わっていると、ふと汐田さんが目に入った。

15歳の時とはだいぶ印象が違うなと思った。

そりゃそうか。3年もあれば変わる。

少しオドオドしていてかわいらしい。確か中学から転校してきたんだったっけ?不安なんだろうな。

3年前の汐田さんをみて、fpsのしすぎで下がった視力を3倍くらいに上昇させていると、汐田さんと目が合いそうになったから逸らした。

退屈な2度目の入学式説明会を終えてクラスに入室すると、意外とクラスメートは静かに座席に座っていた。もっとわちゃわちゃしていると思ったのだが、みんな緊張しているのか。

自分も3年前そうだったのかと思うとすこし微笑ましい気分になった。

懐かしい。確か後ろには一見根暗そうなインテリヤクザ風貌の天パがいたんだよね。

仲間だと思って話しかけた3年前。実際はコミュ力の化身だった。

こいつも陸上部で本来なら同じ部活同士仲良くなるはずだったけど、今回はそれはないかな。

僕は美術部に入るのだから。

しばらくしてくると担任の先生がやってきた。年齢は50代後半くらいでベテランで、先生界の中ではかなり好きだった。

そしてすぐに自己紹介をすることになった。

「あ、相川快晴です。趣味はボードゲームです。一年間よろしくお願いします」

みんな緊張しているなあ

ここは15歳の僕が人肌脱ぎますか。

「阿浦健人です。趣味はムーンウォークです。

ポウッ!」

当たりが静寂に包み込まれ、緊張が加速する。周囲の冷たい視線に晒され、僕はポーズをとった状態でしばらく硬直してしまった。

僕が人肌脱いでクラスを和ます作戦はむしろ逆効果に終わった。

「大城 宗太です。彼がムーンウォーカーじゃないことは知っています。一年間よろしくお願いします。」

少し場が和んだ気がする。まさか12歳に利用されるなんて、インテリヤクザ…怖い。

次は波川か。

「波川和成です。趣味はゲームと漫画です!

一年間よろしくお願いします!」

面白くねえ。

そして初日すべきことは終わり解散になった。

すると波川がやってきて僕に言った。

「ムーンウォークってなんだよ!ポウッって!」

すると後ろのインテリヤクザが

「こんなんじゃない?ポウッ」

僕のモノマネをし始めた。

不服ながら僕の2度目の中学生活は三つ下のやつにいじられることからスタートした。


そしてしばらくして、みんなが学校に慣れてきた頃、部活動体験・入部期間が始まった。

勝負はここからだ。

僕はすぐに美術部に入部届を出し部員の顔合わせの時を待ち続けた。そして当日。

長身の気怠げな美術部の顧問は、及木と言うらしく、先生は美術部のルールをみんなの前で確認し、一通りの挨拶を済ませるとそそくさと美術準備室に行ってしまった。これでおわりか。

するとあるものは黙々と絵を描き始め、あるものは周囲の人とおしゃべりを始めた。

そして僕が今することは一つ。それは汐田さんと仲良くなること!そのために、まずは女子グループと接点を作るのだ。

どうせすぐに男グループと女グループが形成されて話しかけづらくなるのだから動くなら今しかない。

そして初めに話す人は決めてある。田上さんだ。小学校の時委員会が一緒でそこそこ確かそこそこ話せる仲だったはずだ。

「田上さんも美術部に入ったんだね」

「阿浦くんもここに入ったんだ。また一緒だねー」

「うん、よろしく」

「今絵で伝言ゲームしてるんだけど一緒にやる?」

無難に面白いゲームだしラッキーだ。乗っかることにしよう。正直このままだと会話が持つ気がしなかったんだ。

「やるやる」

汐田さんがこっちの様子を気にしているように見える。

「汐田さんも一緒にやらない?伝言ゲーム…じゃなくて絵しりとり」

「……うん…やる」

よしっ!調子いいぞ今日

「じゃあ今前の子が描いているから待っててね」

静寂が重たい。汐田さんもなんだか退屈そうだ。何か手頃な話題でもないものか…中学一年生女子が好きなもの…シルヴィアニアファミリー?なわけないよな。

「みんなはなんで美術部選んだの?私は…楽そうだったから!」

ナイス話題だ汐田さん!でも、自分から話すなんて意外だな。

「僕も汐田さんと同じかな…」

汐田さんとの接点を作るためとか言えるわけがない。

「私は、絵描くのが好きだから!てかここ美術部なのに絵を学びたい人少なくない?」

「ハハ、確かにね」

「絵描き終わったよ。次阿浦くんね」

やっと僕の番か…ここでデッサンを練習しまくった成果を出す時が来たようだな…

なんだこの絵は!?妙に膨らんだお腹に全体的に丸みを帯びたシルエット…妊婦さんか?

手には謎のペンを持っている。もうわからないから母子手帳にメモする妊婦さんを描くか。

「描き終わったよ…はい、汐田さん」

「え…」

ほぼ吐息のような困惑した声が可愛らしい。この部に入って良かったと心から思った瞬間であった。

困惑しながらもなんとか書き上げたようだ。

次は田上さん、アンカーがんばれ!

「描き終わった!じゃあ答え合わせしよう」

そういい計5枚の紙を上から見比べた。

「妊婦さんじゃないの?母子手帳持った」

僕がそう言うと初めにお題を考えた松野さんが少し怒ったように言った

「違いますー」


「及木先生?」

「正解!見る目あるね汐田さん!どっかの出席番号の早そうな人とは違って」

「へへー」

「これ妊婦さんじゃん!このお腹の膨らみ見てよ!それにこの母子健康手帳!」

「それは学級日誌です。お腹の膨らみは太ってるだけ」

あの人そんなに太ってたっけ?

なぜか僕にヘイトが向けられてるような気がしなくもない。いじられキャラか…悪くないな。

「なんでニヤニヤしてるの阿浦くん…気持ち悪いよ」

顔に出てたか。確かにキモいこと考えてたけど。しかも汐田さんにそんなこと言われるなんて…消え失せたい。

「正直に言い過ぎじゃない!?もっとオブラートに包んで言ってくれよ…阿浦くん悲しんでるよ。」

泣きそうになりながらもなんとかネタっぽい返しをした。

しかし、ツッコミがいないようだ。

「阿浦くんが変な笑い方するのは元からだから気にしないでいいよ汐田さん。

それより、私のこの絵見てよ!誰も突っ込んでくれないけど上手くない?完全に及木先生だよね!阿浦くんで急カーブした絵を汐田さんで修正、私でフィニッシュ!いい絵しりとり職人になれそうだよね!」

「僕いらなくないか」

「観客を楽しませるエンターテイメントも必要だよ!阿浦くん!」

ふふ…汐田さんが初めて僕の名前を呼んでくれた…嬉しい。もちろんさっきのアレはノーカウントだ。

「そうかな〜」

「阿浦くんの笑顔、小学生みた〜い」

まずい…普通に名前を呼ばれたのが嬉しくて、鏡の前で何度も見たクソガキスマイルをついしてしまった…恥ずかしい。


空が赤く染まり始め、部活動が終わり帰路についた。田上さんと汐田さんとは帰り道が同じため途中まで一緒に帰ることになった。計画通り…!

だがしかし…話題がない。しりとりしようくらいしか思いつかない。

そんな時汐田さんがふと呟いた。

「私、中学から転校してきたからみんなと仲良くなれるか不安だったんだ。みんな小学生の頃の友達と一緒にいるってネットであったし。」

「へえ、そうなんだ」

「でも、みんなと仲良くなれそうで良かった…」

汐田さんのずっと強張っていた表情が少し和らいでるように見えた。

そしてしばらくして、T字路でそれぞれの家路についた。

 初日はなかなか上手くやれた。まさかこの僕が女子2人と帰宅するなんて現実離れしすぎている。これも、タイムリープしたおかげだな。神に感謝だ。

次の初詣では奮発して1000円くらい賽銭箱に入れちゃおうかな。



次の日に僕はウキウキで美術部に向かった。

今日も女子たちときゃっきゃうふふしたいのは山々だが、男どもともつるむのも大事だ。

男女どちらも話せる生徒でありたい。

そう言うわけで僕は小学校の時そこそこ仲の良かった高須くんに話しかけることにした。

「高須くん、なにやってるの?」

「おお、阿浦くん!今田中くんが絵を描いてるのを見てるんだ。田中くんめちゃくちゃ美少女の絵が上手いんだよ」

「うま!」

思わず素で声が出てしまった。しかしそれくらいよく描けている。体育座りで首を傾げていると言うかなり難解なポーズでありながら、絵に動きがあり、まるで本当の人にポーズをとってそれをデッサンしたかのような違和感のない絵だ。そしてその動きが、絵の中心とも言える女の子の柔らかな、わんぱくな表情とマッチしている。きっと彼の身体構造への習熟度は凄まじいのだろう。

「その絵、模写したやつ?」

「違うよ、学校にスマホは禁止だしね。想像で書いた」

とんでもないやつがいるんだなあ。

「弟子入りしていい?」

「無理。俺は美少女を愛でるので忙しいんだ」

「僕の持っている美少女フィギュアから一つくれてやろう」

「…まじ?」

「まじだ…ちなみにロキミー人形もある」

「ロキミー人形…だと!?あれは、期間限定で値段は一万は下らない貴重品のはず。そんなもの貰ってもいいのか?」

「ゲーセンで期間限定入荷されてるのをすぐに取ったんだ。流石にやることはできないが学校に持ってくるくらいなら容易いことだ」

「その提案…のった!」

やったぜ!これで僕も美少女イラストレーターの仲間入りだ!

「師匠、なんか指示をくれよ。何すればいいかわからないよ」

「指示待ち人間は嫌いだね。自分で考えろ」

こいつ…もともと偉そうだったのにさらに偉そうになりやがった。

「師匠やっぱ、フィギュアの件は無しでいい?」

そう言うと田中は少し取り乱したようで、しばらくしてからメガネの中央を持ち上げ、言った。

「デッサンとクロッキーを毎日するが良い。俺はそれで上手くなった」

こいつ役に入り込むタイプか?

「意外と普通だな…でも、やっぱ地道にやるのって大事なんだな。」

「そうだな…わからないところがあったらいつでも聞くがいい」

そうして僕は、来る日も来る日も美少女を描く練習に明け暮れるようになった。

 1ヶ月ほどが経って美少女も中々上手く描けるようになり、舎弟口調も美術部もだんだんと慣れてきて楽しくなってきた。

「ところでさ、今日もゲーセン行かない?多分今日新しいフィギュアが入荷される日だと思うんだよね!」

「まじか…デッサンの資料が手に入るな」

田中はニチャニチャしながらそう言った。このニチャニチャ笑顔も慣れてくると愛嬌があるよう見えなくもない。

エクボがチャームポイントだ。

「っしゃあ今日も撮りまくるぞ!」

高須が息巻いた。

僕たちは美術部で日課のクロッキーを終えるとすぐに近くのゲーセンにチャリを飛ばした


「今日暖冬dieのミウラのフィギュアが追加されたらしいぞ!やったな阿浦!これはお前が取るべきだよ。名前的に」

「うるせえ、そんなのは僕が決める」

二歳も年下のやつと対等に話せるのかと心配していたが杞憂だった。僕の精神年齢は大して高くなかったらしい。

「よっしゃー!ミウラ獲れたぜ!」

高須がニヒルな笑みで獲ったフィギュアを掲げた。

高須も変わったなあ。初めはアニメもフィギュアも全く知らないやつだったのに。今では熟練の手つきと親が医者という圧倒的な財力でフィギュアを掻っ攫っていく暴徒と化した。

「お前もなんか獲れよー阿浦」

「よしじゃあこれにしょっかな」

2週目も楽しいなあ。

2週目?

右を見ても、キモオタ。左を見ても、キモオタ。鏡を見ても、クソガキスマイル。

あれ?僕の周り女子いなくね?

こう言うのがやりたかったんじゃない!

完全に目的を見失っていた。今から修正しなければ。

僕はすぐにゲーセンを抜け出し、部室へと向かった。

まず、女子に話しかける!田上さんは今も友達と談笑しながら絵を描いているようだ。

これなら話しかけやすそうだぞ。

だが…おかしいな。

汐田さんがいない…画材でも取りに行っているのか。

「ねえ田上さん、汐田さん知らない?」

「ん?汐田さんならもう帰ったよ」

田上さんは業務連絡かのように淡々と言った。

僕が困惑したような顔をしていると続けていった。「汐田さん最近美術部あんま来ないんだよね…きたとしてもすぐに帰っちゃうし」

「…まじ?」

「まじ。」

まさか馴染めてない?初日はかなり人間関係良好の兆しがあった気がするが、僕が美少女戦士を描くのに夢中になっていたこの一月の間に何かあったのだろうか。

僕は汐田さんがなぜ来ないのか様子を確認するために、次の日汐田さんの所属している1-4に向かった。

彼女は楽しそうに談笑していた。

その相手は佐々木いのりと言って某女優に似て名前がめっちゃ可愛いやつだった。

彼女とは中学2年生の時クラスが同じだった。勉強もできて運動もそこそこでき社交性もある、いわゆる持ってるタイプの人間だった。そして彼女は後に県内トップ高に受かるのだ。

僕のコンプレックスは刺激されまくっていた。

それからと言うものの僕は美少女を描くのやめ、ゲーセン通いも辞め、健康優良児として日々美術と勉強に励んだ。

1学期の中間の結果は学年で2位だった。

まさか、高校受験をしっかり経験したこの僕がちゃんと勉強したのに一年生に負けるなんて思いもしなかった。

世の中にはすごいやつがいるんだな。

だが結果は上々。これで僕の勉強できるキャラも定着することだろう。

さて、汐田さんに結果を見せにいくか…。

どうしたら自然に今回の結果を伝えられるだろう。やっぱり1番無難な方法として、汐田さんの前に行って間違えてテストの解答用紙を落とすことだろうな…ではなく、他のやつに今回の僕のテスト結果を伝えて噂で伝えることだろうう。

「すまんすまん…それ拾ってくれないか波川」

「おう…え?お前2位!?」

良い声量だ波川。もっと広めてくれ

「意外だなーお前は勉強できないキャラかと思ってたよ」

「人を見た目で判断するのは良くないな…でお前はどうだったんだ?」

「俺15位。」

やっぱコイツ普通に優秀だな。ちなみに1週目の僕は確かこの時180/200位くらいだった。

ほぼドベやないか。

「ま、まぁまぁだな」

「阿浦2位だったん?すげえー!」

さっきの話を聞いてたやつが入ってきたようだ。しかも今回はとびきりうるさい西村という鼻垂れ小僧だ。いいぞ

「みんなー!阿浦今回のテスト2位だったってよ!」

「え?ザワザワ…」


それから僕は、ホームルームが終わるとすぐにウキウキで美術部に向かった。

部員が来るまで時間がかかるので知的なキャラを演出しようと頭良さそうなポーズの試行錯誤を繰り返した。

結果僕は壁に持たれかかって足と腕を組み薄目にして待機していた。その体制のまま10分が経過しようとした時、汐田さんがやってきた。

何をやっているんだ僕は。

汐田さんがきたことで一瞬で冷静になった僕はすぐにそのポーズをやめ、気まずくなる前に後ろにある美術作品を見てるフリをした。

今日は珍しく汐田さんが部活に来たぞ!

と心の中でガッツポーズをしていると汐田さんが話しかけてきた。

「何か楽しそうだね…良いことでもあったの?」

顔に出てたか…

「うん…ちょうどさっきね」

「中間の結果良かったんでしょ?ちょっと話題になってたよ。」

あとで西村くんには飴ちゃんをあげよう。

「うん…がんばったから」

「でも確かに意外だな…阿浦くんいつものほほんとしてるから、テストも最後まで解き終わらなそうなのに。」

「今日は田中くんたちと美少女描かないの?」

う…恥ずかしい。

「ああ…テスト勉強を機に辞めたんだよね」

「ほんと?すごく楽しそうに田中くんたちと描いてたよね。でも辞めちゃったんだ…そっか。」

汐田さんは美術作品の方に視線を移して言った。

「私もアニメとか好きで会話に入りたかったけど美少女戦士とかあんまわからなくて話しかけづらかったんだ。他の人はみんな真面目に絵描いてるしさ。」

確かに僕も部室でBLの話ばっかりされたらいやだしな。

「そっか…それは僕も悪いことをしたな」

すると彼女は髪を耳に掛け直しこちらを見ていった。

「だから阿浦くんが美少女を描くのやめたのはちょっとうれしいかな」

僕は心の中で咆哮をした。

「テストお疲れ〜!あれあれ〜?2人で何やってんの?テスト明けからガンガン飛ばしていくねえー。良いと思う!」

田上さんが来た。はぁ。

「普通に後ろの美術作品見てただけだけど?」

「…ふ〜ん」

田上さんが部室に入ってきた後を境にゾロゾロと部員が入ってきた。

すると田上が言った

「みんなー!助けて!うちの部に肉欲の化け物が現れて美術部がドロドロになっちゃうよー!だれか風紀委員いない?犯人はあいつらです!」

すると田中が嫌な笑い方をしていった

「二次元の次は三次元ですか…けしからんな」

「何言ってんだおまえら!」

僕が慌てて否定するとそれに便乗して汐田さんも困った顔をして言った。

「ほんとに普通にただ話してただけだから!

この小学生スマイルとなんて絶対ないから!」

否定はしてほしいけどさ…別にそこまで言わんでも良くない?

「むー、汐田さんがそういうなら…確かに小学生スマイルとなんてあるわけないよな。だってガキだしな」

お前もこの前まで小学生だっただろうがよ!

僕は実質高校生みたいなところあるからな?舐めんなよ!

「汐田さんが否定してるしそうなんだろうな。なんだー、つまんな」

もうコイツらキライだ。

汐田さんもなんだか不快そうな顔をしている。もしかして…僕のために怒ってくれてる?

なわけないか。小学生スマイルと言ったのは汐田さんだし。


 「おーい阿浦、今日放課後ゲーセン行かない?」

「すまんな高須、僕はフィギュアはもう卒業したんだ。僕は今では名実共に成績優秀な健康優良児なのさ」

美少女趣味は封印することにしたのだ。汐田さんと仲良くなるためになあ!

「じゃあ普通にゲームしようよ。車のやつやろうぜ」

「…それならいいよ」

 

「ふぅぅっ!やっぱGTRでレインボーブリッジ駆け抜けるの良いわあ」

高須が慣れた手つきでハンドルを握りながら言った。今日の高須はなんだか気分が良いようだ。なんかいいことでもあったのかね。

それにしても、こいつゲーセンに相当入り浸ってるな。

「お前らもやってみろよ。対戦もできるぜ」

車のゲームの楽しさがいまいちわからないんだよな。車がかっこいいと思う気持ちはトミカヘビーユーザーだった幼稚園児の時はあったが、今ではからっきしだ。

適当に高須に勧められた車も選んだ。

田中はと言うと、美少女にしか興味がないと思っていたが意外と車にも興味があるらしく、このゲームも機会があればやってみたいと思っていたらしい。

そして僕と田中、そして高須とのレースが始まった。車をハンドルでちょっと動かすだけのイージーゲームかと思ったが、ギアの操作であったりカーブの時の技術が要求されたりでかなり難しい。

僕は開始1分で2人に300メートルの差をつけられゲーム内の景色を楽しむ方針へ変えた。

田中は初戦の割には大健闘、ベテランの高須を相手に接戦をしていた。

レインボーブリッジから見える景色いいなあ。

そういえば中学2年生の時の修学旅行は東京でこれ見たんだよな。

そう…あの時は…クラスに高須しか友達がいなくて辛かった。

夜もすぐに寝たふりをして、結局寝れなくて他のやつの恋バナを隠れて全部聞いてしまっていたしな…。

そういえば汐田さんもそのとき、かなり孤立してたんだったよな。

確か2年になってからあの佐々木とかいうやつとクラスが離れて徐々に疎遠になっていったぽかったし。

僕にどうにかできることはないかな。

遥か先で胡麻粒のようになった車を操作してる2人を遠目に眺めていると、僕はある一つの案を閃いた。


それからしばらくたって夏休みが始まった。

真夏の熱い太陽の光を一身に受けながら僕は塾に向かっていた。

夏の間だけ、夏季講座に親に入れられることになったのだ。

まったく…なんで成績優秀な僕が塾に行かないといけないんだ。だがしかし…僕がこれから行く塾には汐田さんがいるのだ。

夏休みの間も汐田さんを拝める。

それだけで猛暑の中クーラーの効いた家でゴロゴロする時間を犠牲にしてでも行く価値がある。

しかも、入塾時に受けたテストは汐田さんが取るであろうレベルに点数を調整したため同じクラスだ。

別に1番上のクラスでも下でもほとんど変わらないしな。

そしてなんとたまたま席が隣どうしだった。

教室に入ると汐田さんが1人でこぢんまりと座っていた。同じクラスに美術部の人がいたものの、その人はすでに誰かと話しているみたいだった。

手を振ると、控えめに振り返してくれた。

「はぁ〜話せる人が近くにいてよかったよ〜。私中学から転校してきたからここら辺に友達が少ないんだよね。」

「佐々木さんはクラス別だしね」

「え?阿浦くん佐々木さん知ってるの!?」

「うん、小学生の時クラス同じだった。2人が喋ってるところよく見るし」

「佐々木さん良いよね〜可愛いし、頭もいいし!一緒に居て尊敬しかない」

やっぱり汐田さんは佐々木さんの虜のようだ。

「それからね、この前佐々木さん私の誕生日にプレゼントくれたんだよ!色付きリップ。ほらコレ!」

そう言うと汐田さんはその色付きリップをポケットから取り出して見せてくれた。

「おまけに誕生日プレゼントのセンスもいいなんてほんと敵わないよ。」

いつもよりもテンションが高いな。

ところでその色付きリップ今つけてみませんか?

「はいみんな座って座って、授業始めるよ」

くたびれた雰囲気の塩顔系数学の先生がそそっかしく教室に入ってきて僕たちの会話は止まった。

「連立方程式今日から入っていきまーす」

授業は退屈だ。だから今日は汐田さんの様子を眺める日にする。

バレないようにそっと視線を左にやる。

汐田さんはできるだけ机に荷物を置きたくないタイプのようだ。最低限必要な筆記用具と授業プリントだけ机に出してあとは全部しまっている。ミニマリスト汐田さん。

凛とした表情で紙に何か書き込んでいる。

色白で綺麗なEラインを描いている横顔から厚めの唇が見える。あれに色付きリップが…。

何考えてんだ僕は!

だがなぜか視線がまた吸い寄せられて…

あれ?汐田さんの様子がいつもと少し違っていた。なんだか険しい顔をしている。

あの塩顔野郎の授業がつまらないのか?

ちがう、コレは多分体調が悪いやつだ。さっきまで元気に佐々木さんの話をしていたのにな。

授業が終わって休憩時間も体をだるそうにしていた。早退する気はないらしい。

そして単語熟語テストが始まった。汐田さんは大丈夫なのだろうか。

こんな状況で居残りなんかになったら病状がさらに悪化するかもしれない。幸いにもテストは交換採点だから隣の僕が適当に丸をつけてあげれば居残りは防げる。

結果汐田さんの答案は本来ならば合格まで一点足りなかったが僕のパワーで1点上げた。

「ねえ汐田くん…私のココ間違ってるよ」

「え?」

なぜそんなことを言うんだ?具合が悪いんだろう。居残りなんかしたくないだろ。

黙ってればよかったのに

「いいの?」

僕は聞いた

「うん」

彼女がそう言うなら僕はもう何も言えない。

「じゃあ点数聞いていくぞ〜じゃあ阿浦」

「7点です」

「おお…お前もうちょっとがんばれよお!」

「はい」

心なしかクラスから笑い声が聞こえてくる。

帰りたい。

「次、石井」

「30です」

「ギリ合格。今日はラッキーだったな石井」

「次…」

そして僕は居残ることになった。

今日のテストはずいぶん簡単な部類だったようだ。居残りになったのは僕と汐田さんだけだった。

汐田さんは次の再テストまで数十分の間、僕に話しかける子もなく苦しそうにしながらも必死で単語を覚えていた。

居残り監督の先生が来て再テストを始めた。

今回は汐田さんは再テストに受かった。

僕も受かった。

帰宅途中、音のしない塾の渡り廊下で、汐田さんの苦しそうな声がその静寂を破った。

「なんで阿浦くんあんな嘘ついたの?本当は満点だったじゃん」

「…汐田さんが具合悪そうだったし、それに、話せる人が近くにいると安心するんでしょ?」

僕は、冗談ぽく返そうと思ったけど、さすがに不誠実だと思ったから正直に言った。

「そう言うことかあ。阿浦くんはお節介だなあ。お母さんみたい。」

お節介か…そう言われるもの無理はないか


「でも…ありがとう」


弱々しいながらも、はにかんだような子供っぽい笑顔で彼女は僕にそう言った。

汐田さんってこういうふうに笑うんだな。


それから数ヶ月が経った。

空気が乾燥し、寒さも本格的に厳しくなってきた。

そしてあの時とは事情は何もかもが変わってしまっていた。簡単に言うと僕は落ちぶれていた。成績は1学期の頃の見る影もなく順位は下から数えて20番くらいだ。

美術部に行って内容の薄いことを、田中や高須たちとペラペラと話しながら絵を適当に描き続ける日々。それはそれで楽しかったが、汐田さんは部活に来ないのが気がかりだった。

そして汐田さんがクラスの男子に虐められるようになった。

その内容は、ラジオ体操の腕が上がっていないのがおかしいと言われその大衆の前でそのモノマネをされたり、汐田だから潮を吹くだの非常に下品で低俗ないじめだった。


とりあえず僕は、友達と廊下で話すフリをしながら横目で1年4組の様子を伺いに行くことにした。

汐田さんは1人で読書をしていた。

僕はその姿を見て驚いた。

1周目の時に僕が好きだった汐田さんのそのものだったからだ。

まるで猫みたいに、自分の席でのびのびと過ごすその姿は虐められているという事実を少しも感じさせなかった。

見ていると僕の胸の鼓動が高鳴っていくのを感じた。僕は最低だな。

汐田さんは、だいぶ初めの頃とは雰囲気が変わっていた。

虐められたのに関係があるのか、汐田さんは見た目を気にするようになった。

知人の話によると美容品のようなものを学校に持ち込んでいるらしい。

一年生の初めの頃はなんだか、初々しいポニーテールだったのだが今ではすっかり髪を肩まで下ろした目つきの鋭いミディアムボブだ。なんだか大人っぽくてかわいい。

そして佐々木さんはというと…男女混合グループでおしゃべりしている。

確かあの中の男の子は汐田さんを虐めていたメンバーの1人だった気がする。

何をやっているんだあの人は友達だろうが。

佐々木さんもなんか遠目では苦笑いしてるような気がするし、なんであのメンバーと関わってるんだろうか。

どうしたらこの状況をなんとかできるんだろう。そもそも僕が関わっていい問題なのか?汐田さんとはそこまで関わりはないしクラスも違うし…最近は放課後に部活もこなくなったし…僕が何かやってなんとかなる問題なのか?

そして心臓の高鳴りは止まず、僕はそのまま立ち尽くすことしかできなかった。僕は自分のことが少し嫌になった。

 こんな時に冬のマラソン大会があった。マラソン大会よ空気を読め。と言いたいところだったが、僕にとってもこのイベントは一大事だった。僕は1週目の時、マラソン大会で走っているのを見て汐田さんを知ったんだ。

女子は大体、見た目を気にして、前髪を抑えながら走ったり、友達と談笑しながら走ったりしている中で、汐田さんは特段早くも遅くもないけれど、1人で死にそうな顔になりながらも、必死に走っていた。

その姿が忘れられなかった。

その時から僕は大嫌いなマラソン大会がいつのまにか少しだけ、楽しみになっていたんだ。

そのマラソン大会が今始まる。

横目で汐田さんの姿を確認した。顔を上げる様子はなくずっと砂を見ていた。

前世で陸上部の力見せてやるぜ!そう息巻いてスタートを切った僕は当然、前世の力に目覚めることもなく4週目とまだ半分しか終わってない状態でほとんど力尽きていた。

だがそんな時だった。

「がんばってぇぇ〜」

女子の甘い声援が聞こえた。近くを走っていた波川へのものだった。

初めにぶっ飛ばしてなんとか抜かせていた波川に今追い抜かれようとしている。だが、波川への嫉妬で女子の声援が皮肉にも僕の方にエネルギーを与えてしまっていた。

ああ…ここで汐田さんの声援があったらどれだけ嬉しかったことか。でも、彼女はそう言うことをするタイプの人間じゃないし、そんなことをする心の余裕もないだろう。

どうしようもならないこの思いをとにかく走ることにぶつけた。

死にそうになりながらも前世陸上部長距離の根性で波川に必死に喰らい付いた。

「7周目〜」

暖かそうなダウンに身を包んだ体育教師の気だるそうな声が耳に障る。

汐田さんの様子を横目で確認した。

目を丸くしてこっちを見ていた。どうやらぼくのマラソンの健闘ぶりに驚いているようだ。

イメチェンしてなんだか大人っぽい鋭い表情から繰り出された、元のあどけない表情が可愛すぎる!!


そして僕は7週と半分を超えたあたりで失神した。原因は大量の発汗により脱水症状が起こったことだった。

ああ…失神したせいで汐田さんのランニング見れない!

保健室で足をバタバタさせていると誰かがやってきた。

「よ、阿浦。大丈夫かー?お前がんばりすぎだろ笑」

波川だった。

相変わらずの爽やかスマイル。

実はお前のせいで失神したようなものだと言ってやろうか。

「なんだよ冷やかしかー?」

勿論そんなわけないだろうがな。こいつは普通にいいやつでハイスペックなのがタチが悪いんだ。

「部活の勧誘に来た」

「おい意味のわからない冗談はやめろよ」

ビビる

「はは、半分ほんとだよ。見直したよ。まさかお前が失神するまで走るくらい根性のあるやつだと思わなかった。ぜひ陸上部に欲しいね」

「光栄だけど陸上部は嫌だね…」

あのパワハラ顧問とはもうごめんだ。

「でもなんであんなにマラソン大会頑張ってたんだ?そんなにする理由ないだろ。好きな子にいいとこでも見せたかったのか?」

「うるせえよ…でもまぁ…そんなとこかな」


「おお…まじか。意外」

少し驚いたような顔をした波川はすぐに表情をいつもの爽やかスマイルに変えていった

「俺これから部活あるからもう行くわ。お前も来る?来るならグラウンドのテニスコート前な!あといろいろがんばれよ!」

爽やかの申し子は風と共に去っていった。

「ふぁぁ」

今日も部活なんてきつそ。美術部サイコー。

そして僕は泥のように眠った。



そうして僕は2年生になった。

咲く期間が短すぎる桜が散り始め、校長の話が長すぎる始業式を終えた後クラスで次のクラスの発表が行われていた。

みんなが次のクラスのことを考えて興奮する者もいればあからさまに嫌そうな顔をする奴もいた。

僕は…ほぼ無の感情だった。だって次になるクラスわかってるもん。

僕は1周目の一年生の時とまったく同じ成績を1学期の期末から維持し続けたのだ。

だから行く必要のない塾にも行かされ、かなり面倒くさくなったのだが、それも佐々木と同じクラスになるためだ。

「じゃあクラス発表していくぞー

相川〜2年4組、阿浦〜2年1組、石橋〜…」


なんでこんなよく分からないことをしたかって?それはね、汐田さんが佐々木さんと疎遠になるのを防ぐためさ。

1週目の記憶が正しければ、佐々木さんと汐田さんの疎遠が2年生時点での汐田さんの孤立を生む。だから僕が佐々木さんと積極的に関わり、どちらとも接点のある俺状態を維持することで2人のコミュニケーションの潤滑油になろうと言う寸法だ。

あれから汐田さんへの虐めは2年生になるまで収まることはなかった。

僕はそれをただ見ることしか出来なかった。

だからこれくらいさせて欲しい。


そうして僕は2年生になった。

汐田さんへの

僕がこの作戦を選んだ理由はもう一つあった。

それはこのクラスは全体的にインドア派が多かったということ。

そして学年でインフルエンザが流行していたのにこのクラスだけ欠席者がゼロだったのは印象深くよく覚えている。

もちろん佐々木さんも例外ではなく、ゲームやアニメの話をしているのを聞いたことがあった。

だから、共通の趣味が多いだろうということでまず佐々木さんと友達になるということが前提のこの作戦が成功しやすい思ったからだ。


「はいみなさん席についてください…ではホームルームを…」

先生が来た。この先生は温和で明るく、生徒にも親身な先生だったから割と好きだった。

「じゃあ自己紹介やろっか、じゃあ…最初は阿浦くんから」

はいはい…出席番号界隈最強角のあうらが行きます。

今回はムーンウォークなんかやらずに、無難にいくぞ。

「1の5から来ました。阿浦健人です。美術部に入ってます。一年間よろしくお願いします。」

我ながらクソつまらないな。だがこれも堅実な佐々木さんと仲良くなるために必要なことなのだ。

僕がトップバッターでつまらない自己紹介のテンプレを作ってしまった。

単純作業をこなすかのように機械的に、名前と所属を言うだけの自己紹介がぞくぞくとつづいた。

前の人の自己紹介の影響ってかなり受けるような気がする。

それが本当なら、一年生の自己紹介の時はみんなに申し訳ないことをしたな。

2年1組になってから1日過ぎ、大方みんなが友達を作り始め、居心地をよくしはじめていた頃の昼休みだった。

汐田さんがやってきた。理由はもちろんこの僕ではなく佐々木さんがいるからだった。

汐田さんが来たのを見るとすぐに佐々木さんは話していた元1年4組のクラスメイトと共に汐田さんのところへと向かった。

「あれー佳子ちゃんツインテールにしたの似合ってる〜!」

「あ〜ほんとだ!かわいい〜」

「へへ…そうかな?」

汐田さんは照れくさそうに笑ってるように見えた。

「かわいいよ〜」

うん!かわいい〜!

おっと。いかんいかん、僕まで女子女子した雰囲気に飲み込まれてしまいそうだった。

だが、やはり僕の判断は間違ってなかったかもしれないな。

クラス替え2日目の昼休みという大事な時期に元他クラスの子に会いに行くというのは変じゃ無いか?

それに、髪型も一昨日はミディアムボブ、昨日はポニーテール、そして今日はツインテールだ。

髪型が変わりすぎているのだ。これはメンタルが不安定な証拠じゃないか?どれも最高だったが。特にツインテールは汐田さんが毛量が少なめなのもあり細く結ばれたその髪はまるで二次元の住人なんじゃないかと思うくらい似合っていた。

さて、これから佐々木さんとはどう仲良くなるか。同じクラスと言っても話しかけるほどの共通の話題はない。彼女が僕がやりこんでいたゲームをやっていると言うのは1週目の記憶で知っていたが今の僕が突然その話をしたら不自然に思うだろうしな。

よし、同じ班になろう。

そして1周目の記憶を頼りに佐々木さんと同じ班になった。

同じ班になってから仲良くなるのは容易だった。2年1組担任の岡田先生は、グループ学習をすることを特に好み、自身の担当の教科である国語や学級活動の時間ではほぼ毎回行なっていたからだ。

2周目の僕は一味違うのだ。

「でさー、あれのマスターが意外と難しくてさーフルコンするのにめちゃくちゃ時間かかって気づいたら夜の2時だったんだよね」

「やば!あれフルコンできたのすごいね!私なんかエキスパートで精一杯だったよ」

「もう目がしょぼしょぼだよ」

と眼を点のように小さくさせて言った。

「ふふっ何その顔」

佐々木さんとの会話もかなり自然になってきたのでは無いだろうか。それにしても顔芸は便利だ。滑ってもそうじゃなくても顔の表情ひとつで周りからの反応はかなり変わってくる気がする。味を占めてしまいそうだ。

「いのり、何話してるの?」

汐田さんが来た。計画通りに行って嬉しい反面、クラスであまり馴染めてないと思うと少し悲しくもあった。

「あ、かこちゃん!今阿浦くんとマルセカの話をしてたんだ」

マルセカ…最近流行りの音ゲーだ。僕も1周目の頃はハマりすぎて指が腱鞘炎になった。それくらい中毒性があった。


「マルセカか…やったことあるけどすぐ辞めちゃったな」

「面白いよ!今みんなもやってるんだ」


「うーん…私は辞めとくよ」

意外だな。汐田さんなら佐々木さんがやるならやるとでも良いそうだと思ったのに。

「そっか…」

会話が止まってしまった。必死に言葉を探すが何も言葉が出てこない。

「佐々木さん!こっちこない?ほうれん草ゲームやろうよ!」

モタモタしていると佐々木さんがクラスの女子にスカウトされてしまった。

まったく人気者は忙しいねえ。

で、ほうれん草ゲームってなに?

「やるやる!ごめんね2人とも。また後ではなそ?」

「うん」

汐田さんは視線を落とし言った。

「じゃあ私も教室戻るね」

そういうと汐田さんはすぐに振り返って行ってしまった。

え?僕と一緒にいるのは不服なのか…もっと楽しい人物にならなければ。今日は放課後にアメリカンジョーク大全でも買おうかな。

まあいいか。僕もやることないし、高須とでも話すか。

さて今日はどのフィギュアの話をしてやろうか。あれ?

高須はもうすでに大きめのデブ、細めのチビとバランスの良いトリオを結成しており楽しそうに談笑していた。

高須の癖に生意気だ。あいつ趣味は寝ることとか言ってたのにどうしてだ。

まあいい、僕があの場所に入って4人グループを結成してやるさ。

そして意気揚々と彼らのもとに近づいた僕は一瞬で撃沈した。

僕のよくわからないゲームについて話していた。

そして話しかけられずオドオドしている僕を見た高須は…鼻で笑いやがった…。

急にあのグループに入るのが怖くなって動けなくなった。

まあいいさ、精神年齢が3つも違うんだからな。あいつらなんかと話が合わなくて当然だ。

でも…僕はもしかしたらひとりぼっちなのかもしれない。他のクラスの人のところまで放浪するか。

まずは2年4組に行こう。ここは汐田さんのクラスだし、波川もいる。

 波川が知らないやつと話してた。当然か。あいつはなんでもできるスーパーマンだからな。人がたくさん集まるのも当然だ。

それに僕はこの周では陸上部じゃなくて美術部に入っているから、波川と話す機会もずっと少ない。もしかしたら僕が思っているより波川とはもう仲良く無いのかもしれないな。

当てもなくただ廊下を歩いているとよく見知った顔に出会った。

ただ僕は寂しくて、知ってる顔というだけで話しかけた。

「よう」

「ん?なんかようか」

「別に無いけど」

「なんだよ」

そういうとふてぶてしく去ってしまった。そういえばあいつも陸上部だったな。

もうクラスを超えて話すほどやつのアテは1人しかいない。田中だ。あいつが僕にとって最後の絶対戦線だ。

田中は確か、2年6組か…遠いな。別の棟が建設されるまで仮として2年6組は遠くにあるプレハブ教室に飛ばされているのだ。

こんなに遠いなら昼休みに遊びに行くのも億劫になるな。

隔離された教室ではすでに独特の雰囲気が形成されていた。本校舎ではみんな昼休みは廊下に人が集まって別のクラスの友達と話したりしているので、教室が空いているのが一般的だったが、プレバブの人達は、廊下がものすごく狭いせいか、自分のクラスの中で思い思いに過ごしていたり、友達と談笑していたりするのがほとんどだった。

そしてその中に田中はいた。あいつは相変わらず1人で黙々と絵を描いていた。

そのことがやけに僕にとっては嬉しかった。話しかけると絵の進捗状況を見せてくれた。

今回の美少女キャラは実年齢500歳くらいの幼女エルフと言う設定らしい。

こいつもしかしてロリコンなのでは?

田中のりたは実はロリタだった?

まぁ僕の絶対防衛戦戦の安否は少し心許ないが確認できたことだし、ここは潔く図書館でぼっちライフを満喫しますか。

 そういえば、図書館に行くのは久しぶりだな。実に体感時間にして3年前ぶりだ。僕は1周目はぼっちだったが図書館に行かず教室で勉強ばかりしていたからな。

うっ…嫌な記憶を思い出した。そういえば僕は1周目の頃、ちょうど今の時期だったか、クラスに馴染めなくてひとりぼっちの会を作ろうとしたことがあったな。

学年の色々な理由で馴染めてない奴を集めて楽しもうとという会を作ろうとしていた。

そして初めの団員に高須を呼び込もうとしたがあいつはすでにグループを作っていて断念したんだった。

波川を筆頭に陸上部のやつらにネタにされまくり後輩にまで知れ渡ったんだ…これが俗にいう黒歴史か…。自己紹介でムーウォークしたなんてまだ軽い方だったな。

そしてそれから陸上部も辞め、3年生でも仲のいいやつとは別のクラスでずっとひとりぼっち。今思い返すと胸がキュウっとしてくる。

そうこう悶えているといつのまにか図書室についていた。

火の鳥でも網羅してやろうかと息巻いていると3人の女子生徒が楽しそうに談笑しながら本を物色しているのが目に入った。

そのうちの1人は汐田さんだった。

なんだよ、いるじゃないか…友達。

心にぽっかり穴が空いたような、そんな気持ちになった。


それから一月が経ち、僕は1人になった。

それからの僕は酷かった。

勉強をするのも億劫になり、ただひたすら家でアニメを見たり学校では読書をしていた。脳みそを使うのも嫌だったから、ストーリー性のうすい、望む通りの娯楽を提供してくれる日常もののコメディものを特に好んで見続けた。

高須はあれからもずっとクラスの大中小のトリオで楽しそうにやっていて何も僕と関わろうとする様子なんてない。

美術部には一応行くものの、高須と田中が仲良くやっているから、部室の隅で無心でデッサンをしていた。

波川も部活や勉強で忙しそうだ。

たまに人恋しくなると昼休み、田中のクラスまで行って絵描きの状況を見せてもらっていた。交友関係はそれだけになっていた。

成績も落ち、当然佐々木さんと関わることも無くなった。唯一の救いは、佐々木さんと汐田さんの関係が消えかかっていたことだった。

帰り道に、2人が一緒に帰っているところを見ると、消えたくなったが、最近それを見る頻度が減ってきて安心している。

自分の性格の悪さには我ながら感心する。

この時の僕は、昼休み、時間を潰すために人通りの少ない琵琶の木があるところに逃げ込むのが習慣となっていた。

そこで琵琶の匂いを感じながら本を読む時間は気に入っていた。

あまりにもこの木の琵琶が甘い匂いを放つものだから、一度魔が刺して齧ってしまったことがある。とても酸っぱくて食えたものじゃなかった。

今日もその琵琶の木まで向かっていた。今日は横着して、ショートカットをするため、人通りの多い中央玄関の前を通ろうとした。

中央玄関の手前のT字路を渡ろうとしたその時だった。

遠くから、誰かがこっちに向かってくる足音が聞こえた。誰だ?田中か?波川?もしかして汐田さん?それはないか…

いや、汐田さんだ。

足音が大きくなるにつれて、鼓動が高鳴っていく。こんなときになぜ?僕に会いに来たのか?

そしてついにその人が僕のいるところの目前まで来たとき、僕は気づいた。

汐田さんではなかった。確かに後ろ姿が似てはいるもののよく見ると全く違う。

それからも女子生徒が通るにつれて僕は同じ勘違いを繰り返した。

おかしい。通りすがる人全員が汐田さんに見えてくる。僕はイカれてしまったのだろうか。

もう変な期待はしない。そう思い、最初の目的地まで向かおうと歩き出したそのとき、十字路の角で誰かとぶつかりそうになった。

そこに居たのは僕が今1番出会いたくない人にあった。本多先生だ。体育科の女性の先生で、この人は陸上部の顧問でとても厳しい指導で有名な人だった。特に時間を守ることに厳しく、それまでマイペースに過ごすことを良しとして生きてきた僕がこの人と会うはずもなく、よく遅刻をして怒られていた。

一度怒られると先生の納得いく答えを僕が出すまで練習には参加できず、その間ただひたすらに立たされ続けるのだ。

酷い時は練習に一週間ほど参加できない時もあった。

そして2年の夏に逃げ出すように部活をやめたのだ。

僕が陸上部を辞めたのも、長距離のランニングに苦しさしか見出せなかったことと、怒られるのが嫌だったからだ。

今思うと我ながらしょうもない理由だったと思う。遅刻をしなければいい話だったのに。

でもそんなしょうもないことが当時は僕にとっての大きな大きな悩みの種だったんだ。

と言うわけで、今この人を見ると陸上部を辞め美術部を選択し、そして逃げ続けた僕が間違っていたと嫌でも思わされてしまうから会いたくなかった。

「おいお前、大丈夫か?」

睨むような目で言ってくるため、あの時怒られ続けた記憶がフラッシュバッグして、少し挙動不審になってしまった。

僕の目が、表情があまりにも暗かったからか、本多先生が話しかけてきた。1周目の時はそんなこと絶対なかったのに。

「大丈夫です…」

「そうか…ならいいんだ。でも何かあったら家族でも友達でも担任の先生でも、もちろん私でもいい、相談したら楽になることもあるから選択肢に入れておくといい。」

余計なお世話だとでも言いたいところだが、今は本当に弱っているのは事実だから余計悔しい。

「…はい。ありがとうございます。」

そして本多先生は職員室まで行ってしまった。

その時の本多先生は、普通のいい先生そのものだった。

あの先生からこんなふうに話しかけられるなんて思いもしなかった。

ただ遠くから「ほらな」と鼻で笑われると思っていた。

本多先生は他の先生からの評判がよく、僕がいつも接していたのはその一面に過ぎないと言うことは頭では知っていたが、僕にとってそれはどこか現実感のないものだった。

本当だったんだ。本多先生みたいに、きっと僕が今までみんなのことを見ていたものもその人のほんの一面だったんだろうな。

きっと汐田さんだってそうなんだ。

現に僕が汐田さんを一方的にひとりぼっちなんだと思い込んで行動した結果がこれだ。

だとすれば、僕がさっき汐田さんを何度も見間違いをしたのは、もしかしたら汐田さんにまだ夢を見ていたのかもしれないな。

こんな辛いとき、自分を助けてくれる大好きな可愛い女の子。しかもその子はひとりぼっちで、自分を理解してくれる。

そんな子いるわけない。そんな当たり前のことだけど、今までそのことを心のどこがで信じてた気がする。

自分が嫌いになりそうだ。

これじゃあ僕は本当にただ逃げただけじゃないか。なんでもっと早く気づけなかったんだろう。

僕は中央廊下の前で立ち尽くしていた。

誰か俺を気が済むまで叱って欲しい。お前はなんて自己中なんだ!とかそう言うのでもいいから、何も言われないで心で思われて、遠ざけられるよりもそっちの方がずっと良い。

みんなが心の中の気持ちを正直に言ってくれたら、相手のことを肯定できなくても尊重くらいならできた気がする。

だけど、世の中には本音と建前ってのがある。でも、自分の周りでくらいなら実現できたっていいじゃないか。

そうしたら、高須や波川、汐田さんに佐々木さんとだって仲良くできる気がする。

そうだ。きっとできる!僕はもう精神的には16歳だからな、ここは皆んなよりも大人な僕が人肌脱がないとな。

ひとりぼっちの会改めて

正直者の会結成だ!絶対誰にも言わないけど。


高須のところに行こうか。そう意を決して僕は放課後美術室に向かった。

高須と田中が楽しそうに談笑している。足がすくみそうになるのを堪えて2人に話しかけた。

「話があるんだけどちょっと表出ろ」

「ん?なんだよ。別に良いけど。」

ぶっきらぼうに高須は言った。

「2人とも、なんか僕に言うことはないか?」

「別にねえよ」

田中は今日も気怠そうだ。

「そうだよな?じゃあ愚痴はないか?」

「それならあるなたくさん」

「なんだ?高須言ってみろよ」

「お前のその偉そうな態度が前からずっと気に入らなかったんだよ!さっきだってよ、ちょっと表出ろとか何様だよ!人にもの頼む態度じゃないだろ」

心がなんだか晴れやかになっていく。

怒られるのって気持ちいいと思う僕はMなのかもしれない。

「もっと言ってくれ」

「なんだよお前キッショいな。そもそも俺は美少女フィギュアなんかオタクっぽくて全然好きじゃないね!fpsとか車のゲームが好きなんだよ!毎回付き合いでゲーセンまで行ってたけど本当はもっと沿岸マッドナイトとか太鼓の超人とかしたかったんだよ!」

「何?美少女フィギュアが嫌いだと?教育が必要のようだな」

田中が珍しく感情を露わにして続けて言った。

「それはお前が言わなかったのが悪いだろ」

「俺だって馴染むのに必死だったんだよ!あとなんでお前ら美術部まで来て美少女描きまくってるんだよ!デッサンしろよ油絵しろよ!美術部に男子はお前らだけだから美少女描いてるグループに入るかぼっちかの2択の俺の気持ちにもなれよ!」


「はぁ…仕方ねぇな…じゃあ今度一緒に太鼓しような?」


「お前のそう言うところが偉そうつってんだよ」

今の偉そうだったか?

「だってお前犬みたいに従順なんだもん。でもまさかお前が俺をハブるくらい毒を持ったやつだと思わなかった。今度から犬は犬でもシェパードだと思うことにするから許してくれ」

「あぁ?お前何もわかってねぇな!」

「ごめん、冗談だよ。さっきは悪かったよ高須。こんな感じなら良いよな?」

「おう…」

「何話纏まったような雰囲気を出しているんだ。俺もお前に言うことがあるぜ高須」

田中が何か言い始めた。

「フィギュア興味ないなら僕にください!」

田中が頭を下げた。

「いいよあれ置き所に困ってたからな」

田中の汚い高音じゃなくて喜びの叫び声が校舎に響き渡った。

「もう君たち何やってるの?うるさ〜い」

田上さんが僕たちのところに様子を見に来てそう言った。

「フッ…静かにしろよ田中」

「すまんすまん、ついな」

「デュフデュフデュフ」

オタクたちの笑い声が場を包んだ。

「何笑ってんのきっしょ」

田上さんはそう言い残すとすぐに部室の扉を閉めた。

「ゲーセン行かね?」

高須が言った。

「おう!いいねー行こ行こ!」

3人で行ったゲーセンでは今まで通り、フィギュアを撮ることを楽しんだり、高須の提案で太鼓の超人もしたりした。高須はめちゃくちゃ上手かった。

そしてノリでやったことないゲームをやりまくった。隅っこの錆びついたパンチングマシーンからそれ誰がやるの?っていうよくわからないモグラ叩きまでやった。

ノリでやったことないのに挑戦するのは新たな楽しみに出会える可能性があるから大いに結構だが、形に残るものはやめておいたほうがいい。特にプリクラとか。

見るに耐えない紙切れが今後僕の引き出しの中に大事に封印され続けることになるのだから。

そのプリクラにはこんな言葉が書かれていた。

"正直者の会"


6月を迎え、曇り空が好きな僕もそろそろ雲が鬱陶しいな思い始めた頃。

高須は、クラスで僕に積極的に話しかけてくれるようになった。

高須とトリオを形成していた二人とも高須を通じて仲良くなることができた。高須の大好きなfpsだが、僕も始めてみることにした。fpsゲームそのものに飽きたと思っていたが、やってみるとかなりの中毒性があり、僕はこのまま行くと2周目でも受験の失敗するんじゃないかと冷や汗を流した。fpsと同時に勉強もまた始めることにした。

クラスで僕の居場所もできて、学校に行くのが楽しくなってきたが、肝心なことをまだできていなかった。そう、汐田さんとの和解だ。

最近、汐田さんと佐々木さんが話しているところを見るのはほとんどなくなった。

一月前まではそのことで喜んでいる自分がいたと考えるとあの時の僕はどうにかしていたと思う。自分のことしか考えられていなかった。

僕が汐田さんに笑顔でいてほしいという思いのもと勝手に始まった計画だったが、今は汐田さんはほとんど部活には来なくなっていたので続けることは難しくなっていた。

さて、どうやって汐田さんと佐々木さんが仲良くなり、かつ僕も仲良くなれるかだが…うんもうこれしか思いつかない。

思いつく限り汐田さんや佐々木さんのいそうなところに行って二人ともと仲良くなろう。

大丈夫だ。なんて言ったって僕は、御三家の女子二人と会話するふざけている波川相手に、会話を中断させてカラオケの誘いをした男だ。

今回も余計なことは気にせずに行こう。

幸いにもと言うか4月の頃の僕が意図的にやったことだが、佐々木さんと僕は同じ生活班だ。

そのため席も近いし授業のグループワークも同じ。こんなこと前も言ってたような。まあいいか。

「佐々木さんってタムクロみてるの?」

ここは佐々木さんの好きなアニメで勝負だ。

「うん。そうだけど…なんで知ってるの?」

「ごめん、佐々木さんが友達と話してるの聞いちゃっててさ、僕も見てるから話し合いたいなって」

「あー、そう言うことね…。あれ超面白いよね!黒木くんが一見ただのインキャだと思ってたら、実はめちゃくちゃピアスとかしてるイケメンっていうのがギャップやば過ぎる!」

「あー、分かる。しかも二人だけの時しかその姿を見せないっていうのがいいよね。」

「そうそう!そういう恋愛してみたいわ〜」

やっぱり黒木くん推しか。予想通りだ。黒木なら昨日研究してきた。

「そう言えば昨日の回見た?」

「見た見た!あれやばかったよね!粘土味の飴玉を口移しで田村さんに移すところ!黒木くん大胆すぎ〜」

そこから他のアニメの話にも繋ぐことができた。僕自身アニメは大好きだから、佐々木さんと話し合えるのは楽しかった。

一度話しかけなくなっても話しかけられたらしっかりと話してくれるのがすごいなと思う。

たとえ表面だけでも来るものも去るものも拒まないその姿勢は圧倒的な自信の表れだろうか。


昼休みになった。

4組に行くけど汐田さんはクラスには居なかったので図書室に行った。やっぱりそこに居た。

この前一緒にいた友達は今日はいないらしい。

「汐田さん、何読んでるの?」

「え…阿浦くん?これだけど。分かるかな」

「わかんない」

「そっか…」

「僕も読んでいいそれ?」

「いいよ…上下巻で構成されてて今私読んでるのが下巻だから、今なら上巻借りれると思う」

そしてその本があるところを汐田さんは指で指した。

その本を取ってきて、汐田さんの隣の席で読もうと思ったけど、なんだか気恥ずかしかったから右斜め前の席に座った。

本を捲るときの汐田さんの白くて細い綺麗な手の動きだったり、静かな図書館でわずかに聞こえる息遣いとか、そういう小さなことが気になってしょうがない。

当然本に集中などできるはずもなく、僕はずっと汐田さんのことを意識していた。

昼休み終了のチャイムが鳴った。このままこの時間が終わってしまうのが名残惜しい。

「どうだった?その本」

「まだわからないかな…とりあえずこれ借りてみることにするよ」

汐田さんに見惚れてて全然集中できなかったからとか言えるわけがない。

「そうだよね」

本を借りてから、クラスに帰るまでの僅かな沈黙の時間。気まずいけど、嬉しくて胸が高鳴るこの時間。

「阿浦くんはどうして私に構ってくるの?美術部にも行ってないし」

そんなの理由は簡単だ。汐田さんのことが好きだからだ。でも僕は例えば汐田さんが60代のお婆さんになっても好きだと明確にいうことができるだろうか。わからない。

もしかしたら僕は汐田さんの見た目が好きなだけなのかもしれない。

「それは汐田さんの見た目がその…タイプだから」

「私の見た目が?正直すぎない?あとそんなこと言われるの始めてなんだけど」

「汐田さんは影で人気あるタイプだからね、多分影でたくさん思われてるよ」

「そっか…でもごめんね。私同じクラスの波川くんが好きなんだ」

なぁみぃかぁわぁ〜

布団の中で足をジタバタさせながら波川を脳内で殴る妄想を繰り返す。

理性を飛ばして殴り続けた後、疲れたら少し冷静になった。

でも汐田さんの波川みたいな正統派なイケメンが好きなんだな。意外なようで意外じゃないような。

汐田さんが波川さんのことを好きだと?

波川佳子だと?語呂が良いじゃないかぁぁ

布団の中で悶えて暴れて、疲れたら冷静に戻ってをしばらく繰り返しているうちに眠ってしまった。

そして次の朝、僕の予想に反して汐田さんと佐々木さんと仲良くなる計画を続けるという決意は揺るがなかった。

僕の性格は自己中心的な部分だけじゃなかったらしい。朝食のトーストをかじりながら、佐々木さんと話すため、アニメを見た。

まずは二人の信頼を勝ち取る!

通学中に昨日借りた本を必死に読んだ。ホームルームの時も授業中もこっそり読んだ。

昼休みが始まる頃には上巻を読み終えていた。読み始めたら面白く止まらなかった。

ヒロインがクラスでは天真爛漫だけど実は影ではもの凄く陰湿で暗い性格で、表の姿に恋をしていた主人公は裏の姿を知って悲しむけど、裏の姿を知るにつれて、その人のその部分も好きになってしまう…という緻密な心情描写が癖になる少し歪んだラブストーリーだった。

下巻も読みたい。

僕は昼休みのチャイムが鳴るとすぐに、早歩きで図書室に向かった。早く汐田さんと小説の話がしたい。その一心だった。

図書室について、時計と睨めっこを始めてから5分ほどが経過しようとした時だった。

肩をポンと誰かに触られた。びっくりして振り返ると汐田さんが、手を後ろにくんで首を少し傾げるというなんだかよくわからないけど可愛いポーズをしていた。

「阿浦くん。今日もきたんだね」

「うん」

「私、もう阿浦くん来ないと思ってたよ。私が波川くんのこと好きって聞いて失望したんじゃないかなって。」

「失望なんかしないよ。波川はモテるしね。それになんか、納得した。」

「そう?」

「そういえば本よんだよ。下巻も早く読みたい」

「え、もう読んじゃったの?早いね…でもちょうどよかった。私も昨日下巻読み終わったんだよ。面白くて徹夜しちゃった」

「ほんと面白いよねあれ、主人公とヒロインの…」

「下巻も読んでから話そ、私ネタバレしちゃうかもしれないからさ」

「あ、うん。じゃあその本貸して?」

「どうぞ」

僕が本を読み始めると、汐田さんは何をするでもなくただ僕が本を読むのを横で頬杖をついて眺めていた。すると本の中身を見ようとでも思ったのか、少し頭を近づけてきた。空調の風が肌を撫で、爽やかで清涼感のある甘い匂いを運んできた。

僕は本に集中してるフリをするので精一杯だった。

しばらく汐田さんは僕の演技を眺めたあと、飽きたのか本棚に行ってしまった。これでやっと本を読めるけどもう少しそこにいて欲しくもあった。本を読み始めてから、昼休みはあっという間に終わってしまった。

本を返そうと思って汐田さんを探すけどどこにもいない、もう帰ってしまったのだろうか。

落胆しながらもとにかく本を借りることにした。

「これ借りたいんですけど」

「これですね、誰かもうすでに借りちゃってるみたいだから勝手に返して貸し出しますね」

いたずらっぽく微笑む汐田さんがそこに居た。図書室の受付をしていたのか。

慣れた手つきでパソコンに貸し出し記録を入力し、僕に本を渡してくれた。


 「汐田さんって図書委員だったんだね」

「そうだよ。意外だった?」

「うん…委員会とか面倒くさがりそうだなって思ってた」

「心外だな、私これでもこんどの修学旅行の班長に選ばれたんですけど?」

「えー!班長できるの?大変だよ」

「阿浦くんって、班長やったことあるの?」

「小6の時の修学旅行で一回ね。班員が全然言うこと聞かないし、しおりは無くすしクロワッサンは美味しいしで散々だったよ」

「クロワッサン美味しかったんだ」


こうして僕は、佐々木さんと汐田さんとある程度仲良くなることに成功した。

計画は進行中だ。



計画を再開してから一月が経ち、地道に話しかけることを継続した結果、佐々木さんと汐田さん、どちらもある程度の信頼を掴むことができたと思う。

だからそろそろ計画を実行しようと思う。

「佐々木さん、あのさ…汐田さんと最近話してないけどなにかあったの?」

それを聞くと佐々木さんは眉ひとつ動かさず言った。

「あぁー汐田さん?確かに最近話してないね。でもそれがどうかしたの?」

「いやその…仲良くしないのかなって。」

「ふふっ、なんで阿浦くんがそんなことを気にするの?関係のない話でしょ?」

「確かに関係ないけど…」

「でしょ?だったらその話もうしないで良くない?」

「うん…」

僕は圧倒的に口喧嘩が弱かった。

「おい阿浦…お前何したの?佐々木さんちょっと怒ってなかった?俺佐々木さんが怒ったところ初めて見たよ…」

高須が興味津々で聞いてくる。

「うるせえ…ちょっと意見しただけだよ」

「それだけか?」

「ああ」

汐田さんの話をするとあからさまに佐々木さんの機嫌が悪くなる。僕の配慮が足りなかったな。でもここままじゃ勝手に思い込んで逃げてきた今までと同じだ。ここで止まれない。

僕が五月病になっている間に何かあったのだろうか。でも呼び方は佳子ちゃんと前と変わらなかった。だったら関係は徐々に薄くなっていったと考えるのが賢明か。となると、今の2人の関係が出来あがった原因はあの時よりも前にあったと言うこと…そういえば、ひとつ大事な事件を忘れていた。

汐田さんは一年の終盤、虐めにあっていた。確かいじめ側のグループとも佐々木さんは関係を持っていたな。それが大まかな原因か…。

だとすれば、佐々木さんも汐田さんへ罪悪感があったのかな。

「佐々木さん」

「なに?」

「朝した話なんだけど、もしかして一年生の時の虐めが関係してたりする?」

「またその話?もうそれしないでって言ったじゃん。あともしかしてだけどさ、私に不自然に話しかけてきたのってそれが理由だったりするわけ?」

「当たらずとも遠からず的な感じかな」

「気持ち悪…どうしてそこまで全く関係のない、阿浦くんが固執してくるの?」

「関係なくはないでしょ。僕も最近は2人とよく話してる」

「関係ないよ!だっていなかったじゃん、汐田さんが虐められてるとき」

「やっぱりそのことなんだね。確かにいなかったよ。怖くて見てることしかできなかった。佐々木さんもそうなんじゃないの?」

「そうだよ…でもそれで良いんだよ。人間関係なんていつしかなくなるものなんだから、その時その時で友達がいればいいじゃん!」

「佐々木さんは本当にそれで良いの?その時その時で変わり続ける友達なんて本当の友達だって言えるのかな。」

「…大体なんで君が私たちのことをそんなに気にかけるの!?」

「好きだから」

「え!?」

「汐田さんが好きだから。佐々木さんと一緒にいると汐田さんが楽しそうに笑うから」

「本当に気持ち悪いね…阿浦くん。普通ここでそんなこと言う?」

「…」

「君のその正直さに免じて言うけど、わたし多分汐田さんに嫌われてるよ。」

「じゃあ、汐田さんは次第ってこと?」

「うん…」

「じゃあ汐田さんに聞いてみるよ。」

僕は急いで図書室まで駆け出した。汐田さんはつまらそうにも、集中しているようにも見える顔で本を読んでいた。

僕は汐田さんを急いで呼び出し、聞いた。

「汐田さん、佐々木さんのことどう思ってる?」

「なんで阿浦くんがそんなことを…?」

「いいから」

「そりゃ好きだよ…嫌いになんてなれない。」

俯きながら控えめな声でそう言った。

「じゃあ行こうよ2年1組に」

「え?どいうこと?わたしといのりちゃんを合わせるつもりなの」

「うん」


「…私はいいけど…佐々木さんがどう思うか。」

「大丈夫だよ佐々木さんもそう思ってる。じゃあいこう!」

僕たちは2年1組まで急いで向かった。

「佐々……」

そこまで名前を言いかけて汐田さんは俯いた。

数秒の沈黙のあと、汐田さんは意を決したように前を向いて叫んだ

「いのりちゃん!」

汐田さんがそう呼ぶと、佐々木さんは驚いた様子で言った。

「本当に来たの?」

佐々木さんは汐田さんのところまで近づいてばつが悪そうに言った

「ごめん!虐めを止めてあげられなくて…。自己保身のために、わたし、汐田さんに酷いことをしちゃった。ごめんね。」


「私こそ…ごめん。あの時はあんな酷いこと言っちゃって。でも、虐めを止めるのにも勇気がいるんだよね。それなのに…わたしは助けてもらうのが当然だと考えて、周りの人を憎んでたんだ。だから、ごめんね。」

「私、一年生のおわりの頃、実は陰で汐田さんの悪口を言ってたんだ…。だから汐田さんと仲良くする資格私にはないんだよ…」

「いいよ…別に。許す。だって、いのりちゃんは頭も良くて運動もできてそれなのに話も得意で…私に最初に話しかけてくれた自慢の友達だもん」

「佳子ちゃん…」

それまで抑えていた感情が一気に溢れ出したかのように、2人は周りを気にせずに抱き合った。事の顛末を後ろから見守っていた人たちの中には泣き出しそうになるものもいた。

かく言う僕もその中の1人だった。


それから数ヶ月が経ち、空気が澄んで、木々も枯れ始め冬がやってきた。

それからさらに、クリスマスが終わり、寝正月も終わってお中に脂肪を蓄えたところで、次はランニングの季節だ。

冬のマラソン大会が今年もやってきた。

あるものは涙しあるものは憤怒し、喜ぶものもいた。

僕はマラソン自体は嫌いじゃなかったが、体操服で凍えさせている生徒を前に暖かそうなダウンをぬくぬくと被っている体育教師には憤怒していた。

マラソン大会、僕は1番最初に走るグループで、波川と高須と同じだった。

マラソン大会とスタートの10秒前くらいに、隣のレーンに来た波川が相変わらずの爽やかスマイルで僕にいった。

「今年は失神すんなよ!」

「するかよ」


「位置について、よーい」

耳に障る気怠げな体育教師の声とスタートのピストル音と同時に飛び出した。波川が猛スピードで最前列を駆け抜けていく。

あいつ、一年前よりもっと早くなってる…。

僕もなけなしの体力を振り絞って波川と無謀な勝負を挑んだ。

「キャー!がんばってえ〜」

波川を応援する女子が騒がしいぜ。

波川が応援されるのが癪に障ったから、一瞬だけでもいいから波川を追い抜かすことを決意した。ぐんぐんと意識を削って全速力で走り続ける。波川と横並びになる。

4周目とまだ半分も終わってない状態で僕はほとんど力尽きていた。

だが波川は僕の存在に近づくとさらにスピードを上げてきた。

その時だった。

「頑張って阿浦くん!」

汐田さんの声援が聞こえた。

その一言で僕は、今までの全てが報われたような、そんな気がした。

















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