第26話 二人の女の子に挟まれて……下品なんですが、その……フフ
手錠をされている鳶助たち一行は、野営用の設備の準備を手伝うことができない。三人は馬車で、その様子をただ見ていた。
なお野営用の準備をしているのは速度台と不霏々の二人。閃は見張りのために、馬車に残って三人をじっと監視していた。
(うーん、これじゃあ密談もできないなぁ)
「それで。それで。ロード」
「うん?」
事情聴取の間、ずっと黙っていた由良がふと口を開いた。興味津々と言ったキラキラした目で。
「そのアマテラスさんは今どこにいらっしゃるのですか? 話ぶりからすると、その方とロードとの冒険はまだ続いたのですよね?」
「ろーど?」
閃が不可思議な単語に首を傾げていたが、それに由良が気を払う様子はない。
というか、由良は完全に閃の存在を無視していた。閃もそれに気付いていて特に怒ったりはしていないので揉め事には発展していないが。
(……ひょっとしてこの世界、英語的なものがないのかな?)
「先! 続きが聞きたいですロード! 取り調べではなく個人的に!」
「由良お姉ちゃんはぐいぐい行くね……」
由良を挟んで更に隣の光葉は呆れ顔だ。こちらは興味がまるで無いというわけでは無さそうだが、少し距離がある。
いい思い出ばかりでは無さそうだと察しているのかもしれない。由良に話した範囲でならば武勇伝として聞こえなくもないが、その先も常勝だったかどうかまではわからないのだから。
実際に鳶助は生きている以上、結果だけ見れば常勝だったと言えはするのだが。
「……アイツはどこにいるのか、ねぇ」
『へいへいへーい! ここにいるわよイエイイエーイ!』
由良の後ろあたりでダブルピースしている霊体のアマテラスを、鳶助はうんざりした顔で見ている。
「死んだよ。この世界に落とされる直前にね」
「え」
別に隠すことではないし、霊体としてその辺りにいるのだから悲壮感もない。故にあっさりと鳶助は落ちを喋った。
「よくある話だよ。僕が無能だったせいで死んでしまった。今は……僕のことを見守ってるんじゃない?」
『一生一緒よ!』
(縁起でもない!)
アマテラスの宣言に苦虫を噛み潰したような顔をしていると、ふと由良が震えていることに気付いた。
「ん? ……あっ!?」
「あ、あの……ひょっとして、私、余計なことを聞いてしまいましたか……?」
肩だけでなく声も振るわせる由良の顔を見て、鳶助は自分の失策をやっと自覚した。確かにこの言い方だと、鳶助にとっての苦い記憶を由良が掘り起こしてしまったようにしか聞こえない。
鳶助の機嫌を極限まで損ねてしまったことを恥じ入っているのか、由良は今にも泣きそうだった。
「いや違う違う違う違う! 別にもう全然平気なんだって! そんな気にするようなことじゃないし!」
『えー? あんとき鳶助くん泣いてくれたじゃなーい』
(黙ってろーーー!)
目線でアマテラスに抗議していると、光葉が由良に寄り添いながら優しく
「ロード……顔に『黙ってろ』って書いてあるよ。無神経だったのはそうだが、一途にキミを慕う由良に対してあんまりな仕打ちではないかい?」
「そっちじゃないーーーっ!」
『あっひゃははははははははっ! あー楽しい! 鳶助くんをからかうの、相変わらず超楽しいわー!』
(こ、この女ァ!)
ひとまず由良には平謝りして、大事に至らずには済んだ。
◆◆◆
『さて……ここからはおふざけなしで行くけども。黙ったままでいいから聞いておきなさい』
(わかってるよ)
一つ小さく頷いて、アマテラスに返事をする。
容疑者として手枷をされている鳶助たちは、閃たちとは別の天幕をあてがわれ、その中で眠っていた。ただし出入口は大きく開いており、絶えず誰かがそこから三人のことを見張っているという形だ。
これでは逃げられない。元からまだ逃げるつもりすらないが。
『まず最初に。さっきのあなたの話、基本的には全面的に信じることは不可能であるって方向で纏まりつつあるわ』
(……そりゃそうか。異世界から来たなんて僕でも多分信じない)
『でも意外とまだ続きを聞く必要があるって点で合意は取れているみたい。そりゃそうよね。どうしてあの十二都に現れたのかの説明がまだされてないんだから。意外と最初から話そうとすると長くなっちゃうものねぇ』
(最初が終わったのなら、あと事情聴取で話すべきは最後のみだな……間に色々あったけど、そこはあの人たちにはどうでもいいだろうし)
『それと、ここからが私にとっての最重要事項だけど』
もって回ったような言い方をした後、ふわふわと浮いていたアマテラスは高度を下げ、寝転がる鳶助と無理やり目線を合わせた。
『あの不霏々って子の魔術、割れたわよ。逃げようと思えば私のアドバイスで逃げ切れると思うわ』
「ん……」
それは確かに、鳶助にとっても重要事項ではあった。最悪の場合における最終手段が手に入ったと言ってもいい。
だが、今の鳶助はその手段を使うルートを度外視していた。
『どうする? 別に逃げてもいいと思うのだけど』
「……」
鳶助は、小さく首を横に振った。
そこまでする必要は、まだないと思う。できる限り、彼ら彼女らとは平和的に話を付けたい。それがベストだという判断はまだ変えていない。
『……そ。私はその選択を尊重するけど。でもまだ鳶助くんは死ねないってことを思い出してね。この世界から、人類を救う必要があるんだから』
その忠告に、明確な返答はあえてしない。鳶助にそこまで大層なことができるなどとは、まだ信じていなかった。
(……大層な期待をかけてくれるよ。僕にそんなことができるわけ……)
ばきんっ!
ふと、なにかが近くで派手に壊れる音が聞こえた。それに気付いた見張りの閃の目線が厳しくなった気がする。
「んっ?」
『あ。言い忘れてたわ。あなたたち、手錠をされたまんま雑魚寝させられているわけだけども。くれぐれも寝ぼけて手錠を壊さないように気を付けてね』
「はあ?」
「うーん……」
質問を返す前に、右隣にいた由良が抱き着いてきた。
「はあ!?」
柔らかい身体の感触が、全力全開で鳶助の身体に押し付けられる。特に胸の膨らみがぐにゅんとダイレクトにその存在を主張していた。
あまりの事態に思考回路がすべてクエスチョンマークで埋め尽くされるが、すぐにその異変の元に気付いた。
手錠が外れている。
(えっ!? ちょっ……どういうことだ!? 外されないまま寝かされたはず……!?)
『だから、妖魔並みの怪力でなら自力で外せるわよ。ブチ壊して』
ばきばきっ!
逆側の光葉の寝床から、同じような破壊音が聞こえた。そして――
「ふふふ、由良お姉ちゃんばっかりズルーい」
「いやお前は起きてるんじゃないかッ!?」
同じように、半笑いの光葉も鳶助に抱き着く。鳶助は両サイドから二人の美女に熱烈に抱き着かれる形となった。
体温が一気に上がる。汗ばんで肌がぺたぺたしてくるが、それが誰の汗なのかはもうわからない。興奮のあまり脳が茹だってしまいそうだった。
(……ハッ! そうだ! こんな異常事態、見張りの閃が放置しているはずがない! 手錠がブチ壊されているんだから! ヘルプ! ヘルプミー!)
『放置する腹積もりみたいよ』
(なんでやねん!?)
『流石に仲良く逃げ出せば追ってくるだろうけども。明らかに由良ちゃんは寝ているんだもの。逃げるつもりがないならどうでもいいって判断みたいね』
(判断が柔軟すぎるーーーっ! ていうかむしろもう緩いの域だそれは!)
「ククク……ロード。桃髪の彼女も黙認してくれているようだし、このまま仲良くグチャグチャになって眠ろうじゃないか」
「グチャグチャとか言うのやめてくれる!?」
とは言いつつも。久しぶりにゆっくり眠っている由良を起こすのも忍びないので、このまま大人しく動かずにいたいというのも鳶助の本音でもあった。
悶々としながらも、鳶助は黙って目を瞑って、すべてをやり過ごすことにした。
「あっ。勃起してるね」
『あら。勃起してるのね』
「寝ろ!」
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