第26話 この戦争のこと
タクシーに乗って20分ほど、タクシーが右折をした途端、急に視界に大仏が現れた。120m。それを少し低く見積もりすぎていたようだ。でかい。あれはでかい。
いままで隠れていたのが不思議なように、木々の隙間から見える大仏の顔。それはよく見る仏様の顔であったが、写真でしか。テレビでしか見たことないぼくからしてみれば、それは新鮮だった。
ぼくだけではない。割葉も目を奪われている。恐怖でも、畏怖でもない。感心していた。
「人って、あんなものも作れんだな……どうやってんだ……」
「なら、ますます中に入るべきだ。中に完成までの歴史がパネルとして展示されてるらしいからね」
タクシーがゆっくりと、駐車場へと入っていく。
車はほかに一台も止まっていなかった。
ぼくたち以外、誰もいなかった。
観光地、とはなかなかいいもので、入り口さえわかってしまえばあとは道なりに進んでいくだけで目的地に運んでいってくれる。今回120mの大仏様と目印にしては少々巨大すぎる指標があるのだが、そこまでの道が一本であるとは限らない。くねくねと曲がっていたり、なぜか迂回するようになっていたりと道というものはなかなか思い通りにいかないものだのだ。
今回も、大仏は見えているものの、まっすぐ一本道、というわけではなさそうだった。途中で立っている看板を頼りに、ゆっくりと歩を進めていく。途中、拝観料を収めるためのチケット販売所があったが、受付に誰もいないこと、割葉がそんなもん払うなとうるさいこと、仏様がお金を払わないくらいで怒らないだろうとぼくが判断したことで、そのまま通過する。
本来であるなら、綺麗に整備されているはずのここも、今では手入れをする人がおらず、枯葉やどこからか飛んできたゴミで少し汚れてしまっている。まだ荒れ放題と呼ぶには弱いが、あと少しでここもそうなるだろう。魔法使いがわざわざ綺麗にするとも思えない。
「前の八谷みたいに、召使とかつけてないのかね。その魔法使いは」割葉が言った。「こんなところで一人でいるなんて、寂しくないのか?」
「いたけど、殺しちゃったのかもしれない」
「……『一撃必殺』か。考えてみれば、むちゃくちゃな能力だよな」
割葉が天を仰ぐ。
「あまりに使い勝手が良すぎて、それ以上に使い所がわからない能力だ。発動条件がわからないが、簡単に殺せちゃう以上、こうやって一人にならないと自分でも能力を抑えきれないってか?」
「知りたければ、直接きいてみればいい」
「……シギは、知りたくないのか?」
「どうしてだい?」
「興味があるって言ってたわりに、あんまし執着があるように思えない」
あー。と思う。「そんなことないよ、ただ、考えをまとめてただけ」
「なにを考えてたんだ?」
「この戦争のこと」
「 四つ葉戦争のことか?」
四つ葉戦争。割葉はこの魔法使いの虐殺のことをそう呼ぶ。大勢の三つ葉の中に、低確率で存在する四つ葉。幸運の象徴とされているが、それは果たして本当なのだろうか。
見つけられるなり、摘まれる四つ葉。それは周りより早く寿命を迎えるという意味だ。単に見つかりにくいという理由で。誰かが勝手に流した噂のせいで。選ばれたというなら、それはなにに選ばれたのだろうか。
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