第25話 あれは、人間じゃない
牛久。正確に言えば牛久市は、茨城南部にある市だ。そこにはあまり知られていないが『牛久大仏』という全長120mの巨大なブロンズ立像があり、その牛久大仏の内部は入れるようになっているらしい。また地上85m、牛久大仏の胸骨の部分には3箇所、外を見るために窓がつけられている。その3箇所からは全て同じ景色が観れるようになっており、「どの人も違った視点からでも同じ景色を見ることが可能」という教えを表現してるとかいないとか。
「要は、観光地なんだな」
「少し表現が違うな。観光地だった、が正確だよ」
久しぶりの東京を楽しむ間も無く電車を乗り継ぎ、牛久大仏の最寄り駅のついたときにはお昼過ぎ。駅近くのコンビニでおにぎりを買い、タクシーの車内で食べることにした。
タクシーの運転手に行き先を告げると露骨に嫌な顔をされたが、無視はされなかった。タクシーが走り出す。もしかしたら別の場所に捨てられるかもしれないと思ったが、方向も合っているようだった。
「その牛久大仏の中に、魔法使いがいるのか?」
「いるらしいね。名前は、槇 都々ノ花」
「都々ノ花……。うん。そいつも魔法使いだな。間違いねえ」
「そうか。ガセである可能性もあったんだけど、良かった」
なんせ、情報の出処はネットだ。
「大仏の中ね。大仏ってあれだろ? 神だろ? ああいやだいやだ。どうして魔法使いってのは、神に惹かれるんだろうね」
「神じゃなくて、仏様だよ」
「おんなじだよ」
「神に惹かれるのにしたって、神様から能力を授かったんだからしょうがないじゃんか」
”授かった”とか言うな、気持ち悪い。と割葉は一蹴する。今回、いろいろと割葉に黙っていたのは、これが理由でもある。仏様に会いに行くなんて、割葉が駄々をこねないわけないのだ。まあ、駄々をこねる子どもというのも、悪くないのだが。
「……思うんだけどさ、ここまで来る前に、名前だけでもおれに確認すればよかったんじゃね? そうすれば無駄足を踏む心配もなくなんだろ?」
「それが重要ならそうしてたけど、今回はそうじゃないからね。本当に大仏内にいるのかわからないし」
「まあ、おれもどこにいるかまでは判断できないからな」
「へえ。また新事実だ」
「……そっか。まだ話して無かったな」と割葉が運転手を気にしながら、ぼくに言う。
「おれは一応。地球だ」
「だね。わかってるつもりだよ」
「だから、人間の居場所は、ある程度わかる。おれの肌が記憶してる。パソコンってものが一番正しいな。頭の中にリストみたいなものがあって、名前か顔で検索すればどこにいるか有る程度理解できる」
「じゃあ、槇さんのことは?」
「あれは、人間じゃない」
きっぱりと割葉は言った。
「魔法使いは人間じゃない。人間から外れた存在だ。だから。おれじゃ感知しきれない。リストから削除されちまってるから、調べようがないんだ。でも、リストからないおかげで、わかることもある。おれが感知できないやつは、魔法使いってことになるからな」
なるほど。これでひとつ合点がいった。なぜ、地球が魔法使いを人間じゃないと断言しているのか。それは、これが理由だったのだ。そして、このぼくを魔法使いじゃないと断言しているのも……。
「お前は、おれのリストにいるよ。含まれてる」
「……そっか」
『言語障害』。能力を持ちながら、魔法使いではない。魔法使いではないのだから、人間だ。
人間のはずだ。
「槇 都々ノ花は感知できなかった。それ故に魔法使いなことに間違いないが、奴がどこにいるかまでもわからねえ。本当に大仏内にいるんだろうな?」
「いなかったらいなかったで、観光すればいいだけだし」
「また観光かよ……」
「いいじゃんか。どうせ暇なんだから」
仕事だってないことだし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます