記録003:偽りの歓迎

 神々の頂──その島の地上に降り立った瞬間、さとるとレオンは思わず目を細めた。まばゆい光が大地を照らし、まるで天国のように整備された街並みが広がっていた。

 空に浮かぶ都市には、白く輝く建物が並び、清らかな水が流れる水路が網の目のように走っている。

「……ようこそ、旅人たちよ」

 声をかけてきたのは、住人たちだった。人間に似てはいるが、どこか違う。瞳には光を宿し、肌はほのかに光を反射していた。まさに、“光の民”と呼ぶにふさわしい容姿だった。

 彼らは微笑みながら、二人を歓迎し、整備された宿へと案内した。

「ここが……光神の街か」

「すごいな、まるで教会の中みたいだ」

「今日はゆっくりお休みください。長い旅でお疲れでしょう?」

 さとるとレオンは警戒しつつも、流れに身を任せた。警戒はしていた。だが、あまりに自然な“日常”の空気が、二人の警戒心を少しずつ緩めていく。夕食を食べ、部屋に戻った。

 静かな夜。

 今まで戦い続きだった僕たちは、ほんの少しだけ気を緩めていた。

 ──そして、夜が更ける。

 外は静まり返り、月すら霞んで見える。

「……なんか、今日はやけに眠いな……」

「珍しいな、お前が先に寝るなんて」

「安心しちまったのかもな。……こんな、静かな場所で」

 その言葉は、まるで皮肉だった。

 深夜。

 部屋の空気が、変わる。

「長旅お疲れ様でした。安心してお眠り下さいっ」

 レオンは何かに気づいたように、布団を飛び降りた。

「──っ!」

「おやおや、起きてしまいましたか」

 優しそうな顔は今や邪鬼に変身していた

「おい!さとる!」

「お連れの方、さとるさんでしたか。彼はもう手遅れ、残念でしたね」

「おいおい、勝手に殺してんじゃねぇ!」

 レオンが光の速度で相手を殴る。

「おやおや、そんな下列なことをしないで貰いたい」

「どっちの方が下列だぁ!」

「ん……?騒がしいと思ったら……」

「なぜ生きている!?確実に仕留めたはずだ」

「なぜって?お前は俺のステータスを知らない。殺すなら先にレオンをやっておくんだったな」

「戯け!何がステータスだ!息も心臓も動いてなかったじゃないか!」

「そりゃそうだ、俺は影、息もしない心臓も動かない。俺の相棒に手を出した罪は重い」

「影……影神か!直ちに報告しなければ……ッ。何をする!光は光に攻撃できないはず!なぜできる?!」

「俺らはこの世界の概念、理を壊しに来た。それくらいできないとな!」

「グッ……」

「俺らを倒したいなら全員でかかってくるんだったな」

「クソッ……」

 死んだ光の住民は光の粉となりとある場所に向かった。

「さとる、ここは危険すぎる。逃げるぞ。」

「レオン、案内人の言っていたことが理解できたかもしれない」

 さとるは今、何かに気づいたようだった。光の住民たちは、ただの神々の使者ではなかった──彼らは、自分たちの存在を守るため、あらゆる手段を使って来たに過ぎない。そして、レオンとさとるの存在が、光の神々にとってどれほど脅威となりうるものかを、まざまざと見せつけられた。

「やれやれ、こんなところで死ぬわけにはいかないな。」

「お前の言う通りだ。だが、やっぱり……俺には“光”にはお似合いじゃないな。」

 その言葉を最後に、二人はその場から一気に立ち去り、神々の領域──光神の街から脱出する道を選んだ。しかし、逃げることができるかどうか、その時点ではまだわからなかった。


 ──翌朝。

 目を覚ますと、昨日の激闘の痕跡はすっかり消えていた。光の住民たちは何事もなかったかのように振る舞い、二人に対しても普通に接してきた。

 だが、その瞬間、さとるは冷徹に彼らの瞳を見つめた。

「忘れたわけじゃない、だろ?」

 レオンもその視線を受けて、頷いた。

「俺たちが持ってきたものを、奴らは何も理解していない。だが、それでこそ俺たちの進むべき道が見えてきた。」

 神々が守りし、光の民が住まうこの島──その裏に隠された陰謀が、二人の運命を大きく揺るがし始めるのは、この日が境だった。

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