第37話 リッス

 タク達は陸路を行く、整備されていない荒れた道を行く車型のゴーレム、室内はサスペンションなどを利用して安定している。いろいろな素材を組み合わせて最適なものを探していくので、新しい素材で可能性のあるものはどんどん試していく。

 トライ&エラーの積み重ねが今のタクの一番の楽しみだった。

 今も新たに手に入れたペトリガルガの素材を組み合わせてその特徴を試している。

 

「外皮がかなり強固で弾力もあって、これ、車輪部分に使えばもっと良くなるかも」


「やりますか!」


「よし、ちょっと止めてエリシュ」


「わかりました」


 思いついたらすぐ実行。そして分析、更に改良とタク達は旅の途中でも最大限に楽しんでいる。


「もうすぐ国境付近ですね」


 偵察機との情報と合わせてエリシュが夢中になっているタクに声をかける。

 先ほど交換したタイヤの調査に完全に興味が移行している。


「ああ、もしかしたらなにか手が回されているかも知れないから、仕方がないから密入国しようか」


「わかりました。一旦道を外れますね」


 周囲に人の気配が無いことを確かめてから、ゴーレムは飛行状態に変化する。

 道を外れ森の上空を低空に飛行していく、この時幻影魔法機能が起動しており、周囲からゴーレムの姿は非常に見にくくなっている。

 

「お、結構すごい防壁だね」


「いざという時に国外に魔物を溢れさせないようにリッスは防壁で囲われているのですじゃ」


「なるほど、立派だな」


「リッスに入りました。今のところ異常はありません」


「一応、これがあるから大丈夫だろうけど、どこかで確認したいな」


 タクは裏書き付きの身分証を見る。

 たぶん、他国まで通報はしないだろうという読みだった。それをしてしまえばそういう人材がいるということを喧伝する事になってしまう。罪人扱いをすればそれこそ関係を築く可能性を失い敵対まで考えなければいけない。よって、この身分証は他国では放置されると読んでいる。もちろん国内で使えば拘束されるリスクは高い。


「暫く先に街道、その先に街がありますね」


「よし、そこに向かおう」


「了解しました」


 大陸の中央に位置するリッスは比較的温暖、いや、すこし暑いくらいの気候だ。街道に着地し窓を開けるとすこしムワッとした空気が室内に入ってくる。


「暑いね」


「盆地状の国なので暑い時期は暑く、寒い時期は底冷えするそうですじゃ」


「マスター、周囲に人はいませんが街から見られる範囲になりますがこのまま進みますか?」


「いや、あとは歩いていこうか、ちょっとわざとらしいかもだけど荷を担いでる感じの冒険者っぽくしよう」


「かしこまりました」


 歩きながらも目についた見たこともないものはすぐに採取して回るので遅々として進まないが、そんな楽しそうなタクの姿を見るのがエリシュは嬉しかった。ただ、ドラフと一緒にどんどん森の奥へ行こうとするのは止めた。


 こうして蛇行運転のようにうろちょろしながらもようやく町の入口にたどり着く。

 額に滲む汗を拭いながらタクは身分証を提示する。


「ほう、貴族の裏書き付き冒険者か。珍しいな」


「すこし縁がありまして」


「まあいい、同盟国の冒険者でもある。身分証が有るだけでも楽でいい」


 問題なく街に入ることが出来た。

 新しい国の町並みをタクは興味深く観察する。

 夏は暑く冬は寒い土地の建物は自然と遮熱、蓄熱の作りになっていく。結果として分厚い石材のをベースとして白色の漆喰で暑さ対策、蓄熱を両立させる。

 屋根は急な角度がついておりそこに藁が被されており、夏場は水を打つことで冷却、冬場は積雪を防ぎ蓄熱性能を高める形になっている。

 

「……老人が多いな」


「若い人間は穴を護るための訓練に当てられますじゃ」


 街を歩く人、店で働く人、皆歳を重ねた人か、もしくは女性が多い。


「……人口が減って、穴を護る業務にも支障が出てきているのか」


「そう伝え聞いています」


「普通の流れだと他国から兵力を借りたりとかすると思うんだけど……?」


「一度それを行って様々な問題が起きて断念したと聞いておりますじゃ」


「なるほどね、それで周りの国は戦争ごっこしてるんだからたまったもんじゃないね」


「耳が痛いですじゃ」


 街は歴史を感じる古さも有るが重厚感が有る。しかし、街が今にも息絶えようとしているように感じた。


「……その穴へ急ごう、すこしでも早くこの国が抱えている問題を解決したい」


 その街の様子にはタクは自分が想像しているよりも悲しい気持ちになった。

 この街には人々の希望が見えなかった。

 それが、タクにとっては辛かったのだ。

 タクはすぐに街を後にして、この国の中央に位置する魔界へと繋がると言われている魔物があふれる穴へと向かった。


「たしかに、魔物が多いし、それに、強いな!」


「マスター、ブレスが来ます!」


「シールド貼りますじゃ!」


「頼む!!」


 今は巨大な怪鳥と戦っている。敵は空からこちらに降下攻撃や炎のブレスを容赦なく吐きつけてくる。ブレスを吐ききった隙にタクのゴーレムが怪鳥を叩き落としてエリシュが魔法で首を切り落とした。


「これ、リッスの戦士たちはどうやって戦ってるんだろう?

 かなり大変だよね……?」


「そうですじゃ、リッスの戦士たちは独特の戦い方でこれらの魔物を倒すのですが、それはもう、壮絶な戦い方ですじゃ……」


 ドラフは伏し目がちにリッスの戦士の戦い方を語り始めるのだった。


 

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